ざわめく心
マオちゃんが兄の話をするたびに、胸の中がとてもモヤモヤしていて落ち着かないが、必死に平常心を保つ。
そのお兄ちゃんには会ったことがないが、父親の方には会ったことがある。
中学の卒業式のときに新しい父親も、マオちゃんのお母さんと一緒に参列していたからだ。
すごくハンサムで、ああいうのをイケオジっていうんだろう。一般人なのに、なにやらオーラめいたものが周囲に漂っていてとても驚いた。
誰もが唸る美男美女のカップルだった。
我が家とは大違いだ、と俺の母親がものすごくはしゃいでいたのを記憶している。
高校の制服姿を見せあうときにマオちゃんと写真のやり取りをしたが、入学式の写真にお兄ちゃんの姿が映りこんでいた。
認めたくはないが、確かに、マオちゃんが話すとおりのイケメンで、頑なマオちゃんのお母さんを口説き落とした、イケメン父親とよく似ていた。
俺にはない男らしさと凛々しさがあり、マオちゃんが夢中になるのも納得できた。
説明どおりの人物なら、学校でも人望があるだろうし、さぞかしモテるだろう。
「このワンピースもね、お兄ちゃんが選んでくれたんだよ」
「そう……なんだ。よく似合っている」
マオちゃんはとても嬉しそうだった。
俺は敗北感に打ちひしがれながら、ふわふわと揺れているワンピースを眺めていた。
ちょっぴり切ない気分を味わいながら、広場を歩いていく。
「あ…………」
小さな呟きとともに、キラキラと輝いていたマオちゃんの顔がぎこちなく固まった。
あともう少しでショッピングモールの入口にたどり着くというところで、マオちゃんの足が不意に止まる。
「マオちゃん?」
マオちゃんの唇が「うそ」と動いたような気がした。
「マオちゃんどうしたの?」
驚きの表情を浮かべ、マオちゃんが全く動かなくなる。
通行人が迷惑そうな顔をしながら、俺たちを避けて通り過ぎていく。
俺はマオちゃんの視線の先を追って顔を動かす。
と、俺たちの目の前で同年代の男女が同じように立ち尽くしていた。
美男美女のカップルだ。
あちらの方が自分たちよりも少しだけ年上っぽい感じがする。女性が男性の腕に手をからめていて、耳元に口を近づけてなにやら話している。
マオちゃんが可憐な美少女なら、前の女性は目も覚めるような美人だ。
そして、ふたりの密着具合。女性の唇が今にも男性の頬に触れそうなくらいの距離間に、俺は思わずどぎまぎしてしまう。
自分たちとは比べものにならないくらい、相手は大人な関係なのだろう。
男性の顔もマオちゃんと同じように、驚きで固まっている。
そういえば、どこかで見たような顔だ。
「マオ…………」
「お兄ちゃん?」
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