新しい家族

「体調不良でオジイサマが入院してたんだけど、昨日の昼に退院したんだって。それで……自宅療養中だから家族揃って見舞に来いって、昨日の夜にメイレイがあったんだよ」

「昨日の夜? 急だな……」

「うん、うん。ホント、いきなりで困った。レイちゃんとの約束もあったし。お父さんもお仕事の予定があったみたいで、ずいぶんもめてたんだけど、結局は、お父さんの仕事前にみんなで顔をだす……ってことになったのよね」

 外せない用事とやらは、新しい祖父の見舞いだったのか、と俺は納得する。


 マオちゃんの新しい父親は会社を経営しており、マオちゃんのお母さんが勤めていた会社の取引先だったらしい。


 男性の方がマオちゃんのお母さんに一目惚れしたとかで、数年間に渡ってアピールし続けたらしい。その熱意に負けて、マオちゃんのお母さんは再婚を決めたそうだ。

 俺の母親はまるでドラマみたいな展開だと興奮していた。


 その男性は十年以上前に妻と死別しており、マオちゃんよりふたつ年上の息子がいた。


 そして、その男性の父親はもっと大きな会社を経営しているらしく、息子の再婚自体には賛成していたが、もっとビジネスに有利な家との縁組を望んでいたようだ。

 さらに、跡を継げとか、家に戻ってこいとか、そういうことで揉めているらしい。


 男性は父親の反対を押し切ってマオちゃんのお母さんと再婚し、新居も用意して新しい家庭を築きはじめたというわけだ。

 つまり、マオちゃんのお母さんは社長夫人になり、マオちゃんは社長令嬢になった……。


 その辺りのゴタゴタは電話やメッセージのやりとりですでに知っている。

 マオちゃんには悪いが、使い古された陳腐なドラマのような展開だ。

 マオちゃん自身もそう語っている。

 

「なんか……相変わらず大変そうだな」


 これで、新しい父親と上手くいっていないのなら最悪なのだが、今日の様子を見てもわかるように、それはないようだ。


 目の前にわかりやすい敵がいて、それに対して一家が団結しているのかな。


「大変なのは、お父さんとお母さん。私は関係ないもん。ふたりはラブラブだから安心してよね」

「おばさんじゃなくて、いや、おばさんも心配だけど、マオちゃんは本当に大丈夫なの?」

「レイちゃんが心配することなんてなんにもないよ。ドラマや小説みたいに、継父にいじめられたりとかしていないから。お父さんはすごく優しいし、私のこともしっかり考えてくれている。お兄ちゃんだって……」


 マオちゃんはそこで口を閉じると、柔らかな微笑を浮かべる。

 そのとろけるような、夢見るようなキラキラした微笑に、俺の心は激しく揺り動かされる。

 マオちゃんのこんな笑顔は今まで見たことがない。


「お兄ちゃんはね、とても優しくて、すごくカッコいいんだよ。お父さんに似て、すごくハンサムだし」

「へ、へえ……そうなんだ……」


 俺の声が不自然に固まった。

 頬がひきつっているのがわかる。

 胸がズキンと痛み、心臓がバクバクと緊張音をたてていた。


「それだけじゃないよ。お兄ちゃんはね、勉強もできるし、色々なことを知っていて、教えてくれるんだ。勉強のわからないところも教えてくれるし、スポーツもできるし、生徒会の副会長もやっているんだよ」

「うん……知っているよ。それは何度もきいている」


 またマオちゃんのお兄ちゃん自慢が始まってしまった。

 新しい家族ができて、ひとりっ子だったマオちゃんに兄ができて嬉しいのだろうが、話を聞かされている俺はたまったものではない。

 といっても、俺の方から話題をふってしまったので、観念してマオちゃんの兄自慢を拝聴する。

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