幼馴染み
俺は今年の四月で高校一年生になった。
自宅近くの公立高校に合格し、自転車通学をしている。
背は平均よりも高かったが、自慢できるほど背が高いというわけではない。
身体を動かすのは好きだ。運動神経も悪くはなかったので、たいていのスポーツはそれなりにできていた。
勉強の方はというと、かろうじて上位グループの中に入っている。
容姿は……残念なことに「カワイイ」と言われるタイプだった。幼馴染みと一緒に行動していると、女の子とよく間違えられていた。文化祭などで女装させられそうになった苦い思い出もある。
部活はしていない。
色々な運動部から誘われてはいるが「勉強に専念したいから」と言って全て断っている。
進学率の高い高校なので、たいていの勧誘はその言葉で断ることができるのだ。
実際に、一年生の頃から有名大学への受験を考えて、部活動に参加しない生徒もいるので、波風もたたない。
友人のようなものもできたし、俺は順調に高校生活を送っていた。
ただ、保育園からずっと一緒だった幼馴染みとは別の学校になってしまったので、少しの寂しさを感じていた。
ふたり同じ学校に進学していたら、もっと高校生活は充実したものになっていただろう。それが残念だ。
俺はスマートフォンの画面をタップして、新しいメッセージが入っていないかを確認する。
昨晩、午前中にどうしても外せない用事が入ったと幼馴染みから連絡が入った。
詳しいことは教えてもらっていないが、行間からは深刻な用事であることが読み取れた。
その用事とやらが長引いたりしていないか、幼馴染みが無用なトラブルに巻き込まれていないか心配でたまらない。
(…………)
新しいメッセージはなかった。
会話は昨日の待ち合わせ時間の変更と、いくつかのスタンプで終了している。
スマートフォンはポケットにしまう。
俺は空を見上げて「はあ」と溜め息をついた。
綺麗な青空が広がっている。
とてもいい天気だった。
初めての場所ということと、相手を待たせたくなかったので、余裕を持って家を出たのだが、少し余裕がありすぎたようだ。
ショッピングモールの中に入ってぶらぶらしていたら、一時間なんてあっという間だろう。
向こうの空いているベンチに座って、ゲームをするか、無料マンガを読んで過ごすということもできる。
だが、待ち合わせの相手が、集合時間よりも早く到着する可能性もあった。
というか、いつも、アイツは余裕を持って行動していた。
だからきっと、今日も急いで用事を片付けて、待ち合わせ場所に来るだろう……。
そのときには、この待ち合わせ場所で会いたい。
アイツに自分を捜させるような手間はとらせたくない、がっかりさせたくない。
そもそも俺たちは高校生になったのだ。
手ごろな場所でわいわい適当に遊ぶのではなく、世間一般でいわれているデートっぽいことをそろそろしてみたいと思う。
今までの兄弟みたいな、家族みたいな幼馴染みの関係はさっさと卒業して、より一歩踏み出したい。踏み込みたい。
いつの頃からか、自分を異性として意識して欲しい、と俺は幼馴染みに思うようになっていた。
今日はそのまたとないチャンスだったのに、どうも出だしから失敗してしまったようである。
ベンチに座ることもせずに、俺は待ち合わせ相手が来るのをひたすら待っていた。
「あれ? やだ! レイちゃん! なんでもういるの? もしかして集合時間を間違えた?」
集合時間三十分前に、アイツは待ち合わせ場所にやってきた。
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