貞操逆転世界は生きづらい!
ちは
第1話 目が覚めると
「んん……ここは……」
何かに導かれるように俺の瞼はゆっくりと持ち上がる。長い間目を瞑っていたのだろうか、まるでピントの合っていない眼鏡の様に視界全体がぼやけている。俺の腕ははっきり命令せずとも自然と自分の両目を擦り始める。そして自分の身体の感覚が脳に伝わると同時に自分が今仰向けで横になっていることが理解できた。
早くどういう状況か確認しないと……。
今自分が仰向けになっていること以外全く分からない。強いて言うなら自分の寝ているところがベッドではないと言う事だ。背中から伝わってくる固さ的に自分は床か、それに準ずる所で横たわっているのだろう。
それに何故か分からないが自分のお腹当たりが先ほどからつんつんされているのだ。人の手とは違う、それでいて生暖かい何かにつつかれている。痛いというわけではないが少しくすぐったいから辞めて欲しい。
俺はごしごしと目を擦り、ピントを整えるために数回瞬きを繰り返す。そして鮮明さが戻って来た双眸が捉えたのはなんと──────
見たことの無い大きな角を生やした鹿だった。
「……」
「……」
示し合わせたかのような沈黙、これが映画やドラマのような世界で相手が人であったのなら明るく壮大な音楽が流れている頃だろう。
「うああああああ!?!?」
「キィイイイイ!!!!????」
俺の叫び声に共鳴して鹿は笛のような鋭く、甲高い音を発しながら全力で俺から距離を取りそのまま森の奥へ走って行ってしまった。自分の心臓がドクドクと大きく脈を打つ。先ほどまでぼんやりとしていた思考も飛び起き、今自分がとても危険なことをしでかしたのだと踊りながら反省を促してきていた。
草食動物で良かった……もしこれが熊とかだったら俺絶対死んでたよ……。
深呼吸を繰り返すことで暴れる心臓を宥める。まだ生きた心地はしないがひとまず落ち着きを取り戻すことが出来た。
「……ここどこ?」
落ち着きを取り戻した俺は自分を取り巻く環境が頭のおかしい事に気が付く。草木が生い茂り、似たような形の木が列をなしている。ここが森であることは理解できたがそんなことは一目見たら理解できる。俺が知りたいのは何で俺がこんなところで寝てたのかという事だ。
「ふぅ……うん、記憶の整理から始めよう。もしかしたら自分の思考能力に異常があるかもしれないし」
まず名前、俺の名前は
小さい頃はよく女の子に間違えられていたし、姉のお人形に良くなっていた。こういう顔立ちと身長のせいで周りの人からは良く可愛がられている……というか過剰と言えるほどに可愛がられている。
二人の姉に溺愛され、学校の女の子からはマスコットのように扱われたり、はたまたペットにされかけたり、男の子からは女だろと疑われたり、アイドルのように扱われたり、男の子vs女の子で俺の取り合いが起きたり……。
そんな俺だがトラブルに巻き込まれなければ何の変哲もない生活を送っている。ついさっきもベッドの上でスマホをいじってて、それでだんだん眠くなってきたから寝ようとして……
「じゃあこれは夢なのか……?」
思考を整理しているとこれが夢なのではないかという考えにたどり着く。試しに腕をつねってみたりひっかいてみたりしたがしっかりとした痛みが伝わってくる。強くひっかきすぎてとても痛い。
「夢じゃないとしたら……何????」
どうして俺は森の中に一人で放り出されているのだろう。もしかしてこれは新手のドッキリなのか?お姉ちゃん達が企てた新手のいじめなのか!?
「いやでもお姉ちゃん達はこんなところに放り出すくらいなら監禁してやるとか言いそうだし違うか……もしかして──────」
もしかしたら異世界に飛ばされたのか……いやそんな馬鹿馬鹿しい事起きるはずがない。最近アニメとか漫画とかラノベとかをすごく読んでたからそれに影響されてるだけだ。多分これは目覚めにくい夢か或いはドッキリの類だろう。
「森の中を変に歩くのはあれだけど……でも歩いてみるしかないか。地面に印か何かを付けてここに戻ってこれるようにはしておこう」
俺は地面に軽い印をつけながら森の中を歩き進める。出来るだけ歩きやすく、印が見えやすい道に向かって足を動かす。運動は得意な方じゃないので歩くだけでもしんどい。整備されていない道を裸足で歩くのがこんなにも苦しいとは……うぅ、足痛い……。
歩き続けてどのくらいが経っただろう、痛みのせいで時間の感覚が曖昧になったがなんとか森を抜けだすことに成功する。おそらくこれは運が良い方なのだろう、短い時間で自然の迷路から脱出することが出来たの奇跡的だ。
「……まじか」
俺はじんじんとした痛みが走る中、目の前に映っている光景に呆然とする。あの時アニメで見た時の様に風に揺られる草原、あの時漫画で見た時の様にレンガ、石、木などの素材で作られた壁、そしてあの時ラノベで読んだ見たことない光景への感動と自分が今いる状況への感情。
あぁ……間違いない。自分は地球とは違う、どこか別の世界に……異世界転生に巻き込まれてしまったのだ。
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