第24話 おねロリ 決着編

 エロ犬が、大きな魔力反応があるとカクカクしながら報告してきて、僕たちは来たんだねとすぐに理解した。それは光くんのお誘い、僕たちにとっては再戦の機会のこと。


「来てくれたんだね、お姉さん」


「光くん、今度こそ負けないよ」


 深夜の街中。みんなが寝静まった中で、光くんと僕たちは相対していた。ニコニコとしている光くんは、自分が負けるなんて微塵も考えてなさそうで。僕は、その笑みに真剣な眼差しを持って相対した。絶対に負けない、そんな決意を胸に。


「お姉さん、真面目なお顔も可愛いですね。今から、そのお顔がエッチくなるのが楽し──」


「──あなたも可愛い」


 光くんの言葉を遮るように、鈴が言葉を被せた。ビックリしたように、いま気が付いたように、光くんはマジマジと鈴を見つめて。


「……僕も、すっかり女の子ってことですか?」


 どこか、ズレた疑問を抱いていた。完全にそうなったら、どうしようもなく手遅れすぎる。確かに光くんは可愛いけど、そんなことは認められない。鈴は首を振って、その意味合いを否定した。


「こころを自分のモノだと思ってるの、可愛い」


 ──空気が、ヒビ割れた。


 光くんの顔から笑みが消えて、警戒と……それから、目が吊り上がっている。明らかに怒っている、鈴のあからさまな挑発に光くんは怒りを隠さなかった。


「……どういうことですか?」


「こういうこと」


 光くんの言葉に反応するように、鈴が僕を抱き寄せた。急にそんなことされて、ビックリして身体が動かない。そのまま、されるがままに鈴に──唇を奪われた。


 ちゅってされて、柔らかい鈴の唇の感触を味わってしまう。溶けちゃうくらいに甘いキス、ちゅっちゅってされる度に心地よくて、僕は思わず目を瞑って……。


「…………何、ですか。それ」


 そんな夢見心地な気分は、光くんの震える声で遮られた。振り返れば、俯いてプルプルとしている光くんの姿。我慢するようなそれは、きっと覚えた怒りを必死に堪えているもの。


「覚えておいて。こころは私のもので、私もこころのもの。両想いさん」


 無表情で淡々と、まるで決まった事実のように鈴は言い切って。俯いていた光くんは、ゆっくりと顔を上げた。

 ……目が潤んでいる、今からでも泣いてしまいそうな顔。その顔は鈴にじゃなくて、僕の方に向けられている。


「おねー、さん?」


「……ごめんね、光くん」


 妙な気まずさの中で、なんとか口にできた言葉はそれで。それを聞いた途端、光くんは突如として目に強い光が宿った。僕の方へと、涙を溢れ落としながら、それでもと睨んできた。非難するような、そんな意思を込めて。


「……ちゅーしたら、責任取らなきゃ行けないんです」


「え?」


「だからお姉さんは、僕に責任取らなきゃダメ、なのに……」


 一歩、光くんがこっちに近づいてきて。僕は押されるみたいに、一歩後ろへと後ずさった。今の光くんが……歳下の女の子と化した男の子が、少し怖くて。


「──浮気、しちゃったんですか?」


 その瞳が、昏い色に染まっていて。光くんが、本当に僕を好きでいてくれてることが、よく分かってしまって。

 ……胸が、痛かった。


「元々、君がこころをレイプしただけ」


「されてないが!?」


 もう何度目かにもなる、ごめんねを伝えようとしたところで、鈴がとんでもないことを言い放った。光くんには確かにエッチな魔法は使われたけど……エッチなことなんてされてないしっ! 胸もあそこも無事だし!!


「唇」


「……」


「こころ、ちゅーされて嬉しかったの?」


「ち、違うし……」


「それなら、やっぱりレイプ」


 言い返せなかった、言い返すと認めちゃうことになるから。……光くんとのキス、気持ちよかったって。そんなの、男としてとか以前に歳上として絶対に認められないことだし。


「おねー、さん?」


 ただ、僕たちの会話を聞いていた光くんは、目を見開いていた。信じられない、そう言いた気に。


「あの、ね、光くん。キスって言うのはね、付き合ってる人にしかしちゃダメなんだよ」


 何とか、ソフトに伝えられるように言葉を選んで、僕はそれを口にして。光くんは、口元に指を当てて少し考えてから、そっかと小さく呟いた。分かってくれたのかな?


「つまり、僕とお姉さんはお付き合いしてたんですね──イってくれた瞬間から」


「違うよ!?」


 おかしい、光くんまで異性界人たちの悪影響を受けている。エッチなことを平然と口にして、然も常識みたいに変なことを言う。イかされたからお付き合いなんて、それこそエロ犬たちの倫理観すぎる。文明人として、絶対に認められない価値観だった。


「もう、認めた方がいい」


 更に説明しようとした僕を、鈴は急に抱き寄せた。そしてそのまま、光くんへと告げる。


「こころは私が好き、そういうこと」


 言葉では淡々と、なのに僕にしがみつくみたいに抱きしめて。吐息が掛かる距離で、鈴は勝ち誇っていた。僕も、それを否定せずに光くんの目を見つめる。


 光くんに対して、僕ができることは多くない。でも、その数少ないできることが、僕にしかできないことだから。キチンと納得と一緒に……振ってあげなきゃ。


「僕は光くんとは付き合えません。鈴が、この子が好きなんです」


 光くんの目には涙が溢れているけれど、未だに鋭い戦う目をしている。諦観の気持ちなんて、一片たりとも見つからない。


「……認めま、せん。認められませんっ」


「光くん……」


 やっぱり、戦うしかないみたい。

 光くんとは戦いたくなんてなかったけど、こうなった以上は仕方ない。だから、光くんが魔法を使うよりも前に制圧しなきゃと思い、前に出ようとした。


 けど、それを鈴に静止させられる。なんでと振り向けば、鈴は──微笑を浮かべていた。ビックリして、言葉を失う。そんな僕に、鈴は囁いた。


「絶対に負けない。

 格好いいところ、見せるから」


 素直にその言葉に頷いてしまったのは、そんな鈴の顔を見たのが久しぶりすぎたから。綺麗で、透き通って見えた表情に見惚れて、何も考えずに頷いちゃったのだ。


「待ってて」


 そう言って、鈴が光くんと相対した。

 頼もしく感じる後ろ姿、安心できる背中。鈴になら任せられる、そう思えてしまった。


「……何なんですか、あなたは」


「こころの恋人」


「そんなの嘘です!!」


「本当」


「お、お姉さんに、エッチなことしたんですか!!」


「たくさん」


「さ、最低です!」


「最低なのはあなた。こころと恋人になった時、伝説の樹の下でエンゲージキスする人生計画が狂った」


 ……本当に任せちゃってもいいのだろうか、なんか不安になってきた。僕が光くんにキスされちゃったせいで、すごく怒ってるのはわかるけど、それにしたって歳下相手にブチギレ過ぎてる。普段の優しい鈴なら、そんな挑発なんてしないし。


 あと、鈴には発情させられたけど、エッチなことなんてされてない。平然と嘘つかないで、鈴。


「だから私は、あなたを倒す。

 こころを誘惑して、NTR発情魔法で絶頂させた挙句、初キスまで奪ったあなたを許さない」


「そっちこそ、お姉さんを催淫術で恋人になんかしてっ! お姉さんのアソコを堕としていうことを聞くようにした、極悪人のくせに!」


「されてないよ、そんなこと!!」


 なんか鈴と、ついでに僕にとんでもない冤罪が掛けられそうになっていて、耐えられなくなり口を挟んでしまった。


 催淫術ってなにっ!

 アソコを堕とされたって何なの!!

 そんな事実はないよ!!!


「お姉さん、直ぐに屈服しちゃったアソコを、僕が治してあげますからね」


「覚えがなさすぎる!!」


「二度とこころには触らせない」


 光くんは、完全に僕が鈴のエッチの前に屈服して、エンゲージドスケベを誓ってしまったと思っている。だから、僕が何を言っても、洗脳されちゃってると思い込んで聞いてくれない。頭がおかしくなっちゃいそうだ。


「……思えば、ずっとでした。ずっとあなたが、僕とお姉さんの邪魔をしてた」


 光くんは涙を拭って、前を向いた。僕から視線を外して、鈴と向かいあう。……戦うって決めた、そんな男の子の顔をしていた。今は女の子だけど。


「こころにエッチな身体にされちゃったのは、可哀想だと思う」


「なんて?」


 鈴は哀れみに満ちた顔で、おかしなことを語りかけていた。僕が一体、何をしたっていうんだ。悪いことなんて、何一つしてないのに。意味がわからなさすぎる。


「確かに、僕がお姉さんを好きになったのは、エッチな身体にされちゃったことからでした……」


「待ってよ!」


 さも平然と、僕が悪いみたいに話が進んでいる。勝手にエッチさを感じ取られた僕が被害者のはずなのに、まるで加害者みたいに話が進む。本当になんで?


「でもっ、それでも! 僕がお姉さんを好きになったのは、エッチな だけが理由じゃないです!!

 ずっと忘れられなくて、お姉さんのことを考え続けてっ。そうしてたら、もっともっと好きになっちゃって! 僕をこんなふうにした責任、取ってもらわなきゃダメなんですっ」


 胸を押さえつけながら、ツインテールを揺らして必死に訴えている光くん。あまりに切実すぎて、無碍にできないって思っちゃう。でも、責任取ってなんて言われても、そんなのできっこなくて。

 考えれば考えるほど、答えが出なくて頭がパンクしそうになる。どうやったら、光くんが納得してくれるのか分からなくて。


「──うん、分かる」


 またしても、僕の代わりに答えていたのは鈴だった。分かる、それは肯定の言葉。鈴が今日、初めて光くんに同意を示した。そのことに、僕だけでなく光くんも目を丸くして。


「な、なんのつもり、ですか?」


「こころのこと、ずっと考えちゃうの、分かるよ」


 光くんは目を瞬かせて、鈴と向かい合っていた。初めて、鈴のことをまともに認識した、そんな感じの純粋な目。戸惑ってるっていうのが、多分一番強い気持ちなんだって思う。


「私もそう、小さい時からずっとそうだったから」


 小さい頃、僕と鈴は何をするのも一緒だった。その頃から、鈴は好きでいてくれたのかな。もしそうなら、そんなことにも気づかずに、僕は鈴を遠ざけちゃってたのか。……ごめんね、鈴。


「隣にこころが居なきゃ、息が苦しくて、切なくて、不安になる身体にされちゃったの。……あなたも、そう?」


 静かに語りかける鈴に、光くんは……確かに一回、頷いた。


「……お姉さんのことしか、考えられないんです」


「うん」


「お姉さんのこと、考えると胸がキューってして」


「うん」


「それで、いても立ってもいられなくなって、お姉さんの気を引きたくて……」


「うん」


「……あなたが、お姉さんのことを大好きなのはわかります。ほんとに、本当に、すごく好きだってことも」


「……うん」


 光くんの目が、違っていた。さっきまでの、色々な感情が入り混ざっていた、自分の気持ちが分からなくなってる目じゃない。ちゃんとした、初めて会った時みたいな透き通った目をしてる。


「──だからこそ、負けたくないんです。僕だってって、やっぱり思っちゃうから」


「うん、分かる」


 光くんの辺りに、魔力が渦巻いた。それが光くんの意思だって、納得するのに必要なことだっていうのが分かってしまう。


「今度は完全に、お姉さんを屈服させます。僕が世界一、お姉さんを気持ちよくできる女の子だって証明します!」


「ダメ、それは私の。こころを満足させられるのは、私だけ」


 雰囲気は、さっきまでと微塵も変わってないのに、会話の内容が著しく終わり始めていた。ナニ、コレ……。


「勝負」


「……絶対に負けませんっ」


 魔力の高まりが、こっちにも伝わってくる。魔法が行使されようとしてるってことも。二人の会話のせいで情緒がおかしなままに、僕はその成り行きを見守って。


「こころのオマーン国際問題パコね」


「生きてたの?」


「イッてたパコ」


 今から戦いが始まるっていうところで、簀巻きにしていたエロ犬がでしゃばり始めた。猿轡も咥えさせてたのに、いつの間にかなくなってる。


「なんで喋れるの?」


「クンニごっこしてたら、猿轡が処女膜の如く破れたパコねぇ」


 こいつの口は凶器か何かだった、最悪すぎる。


「こころのオ◯ンコを巡る、領土問題パコ。どちらが領有権を獲得するか、パコのチ◯コもパコパコしてきたパコ!」


「腰をヘコヘコさせるな、折るよ?」


「……こころがパコに、手淫してくれるってことパコか?」


「僕がお前の腰を、破壊するってこと」


「限界までパコとセッ◯スして、腰を逝かせようってことパコか!? ……二人とも、すまないパコ。パコがこころのオ◯ンコの領有権を持ってたらしいパコ」


「惨たらしく背骨をへし折るんだよっ!」


「ご、拷問リョナセッ◯スパコか!?」


「拷問リョナ処刑!!」


「人殺しじゃないパコか!? 正気に戻るパコ、こころ! 性技のこころ、胸に誓ったシコティッシュハートを、忘れてはダメパコ!!」


 変な緊張感があったのに、エロ犬のせいで全てが吹き飛んでいく。生きてることが許されないタイプのエロ犬だった。


「……それで、遺言は何?」


「こ、こころっ、もう戦いが始まるパコよ!」


 エロ犬が、鈴たちの方向へと腰をヘコヘコする。ヘルニアを発症すればいいのに。振り向けば、そこには詠唱を始めた光くんがいた。


「"世界で一番、僕がお姉さんをエッチな目で見てるんです"」


 あの時の、詠唱。

 僕がイかされちゃって、鈴が負けちゃいそうになったあの呪文。それを、光くんはまた行使しようとしている。それに対して鈴は……何も、していなかった。


「心じゃなくて、身体に分からせられちゃったんですっ"」


 ただ真っ直ぐに光くんを見つめて、ただ呪文の発動を待ち受けていた。発動されても、問題ないというように。不安だけど、今は鈴を信じてるから。固唾を飲んで、どうなるかを見見守る。


「"だから、責任は絶対に取ってもらいます! ラブラブエッチお嫁お姉さんに、絶対になってもらいます!!"」


 そうして、光くんの魔法は正しく発動された。


「んっ、ほぉっ!!

 だ、ダメパコ、嫁にエッチされてる時よりも、こころと光くんがエッチしてる妄想の快楽が、大き過ぎるパコっ。嫁よりも、おっきいパコ♡ ロリおねわからせエッチで、38歳パ国会議員のパコが、わからされちゃうパコ♡ パ国会議員から、吐精の在り方を変える為に射精表明しそうパコ♡ TSロリおねわからせ射精、しちゃいそうパコ♡」


 僕は咄嗟に盾にしたエロ犬は、案の定壊れていた、頭が。でも、僕と違って鈴は、身を守れるものなんて周りには何もない。だから鈴は、まともに魔法を喰らってしまった──はず、なのに。


 どうしてか、平然とした顔で光くんを見下ろしていた。


「な、なんで!?」


 光くんのツインテールが、動揺するようにぴょこぴょこ揺れてる。目をまん丸にして、もう一度小さく"なんで"と呟いた。エロ犬の様子を見るに、魔法はちゃんと発動されてる。だから鈴が平然としてる理由が、本当になんでか全く分からない。

 そんな僕たちに、鈴は無表情のまま平然と言った。


「きみのこころは、ぬるいから」


「僕のお姉さんが?」


 光くんの中の僕が、ぬるい?

 エッチされたり、したりしてる僕が?

 一体、どういうこと?


「私の中のこころは、ずっと私をエッチな気持ちにさせてくるし、絶頂するのもさせるのも得意で、4.5mくらい潮吹きが出来る」


「バカなの!?」


 鈴の中の僕は、一体何者になってしまったのか。そんなに潮吹きできるのは人間じゃないし、なんで鈴が一人エッチしてた時に潮を吹いちゃってる僕が登場してるのか。全てにおいて意味がわからなかった。


「バカじゃない、こころの潮吹きは虹が掛かる」


「掛かるわけないだろっ!」


 鈴相手なのに乱暴な口調になっちゃったのは、鈴が謎に僕の生態を勘違いしちゃってから。僕は男の子だし、潮吹きなんてしたくてしてるわけじゃないし、イきまくったりイかせまくったりなんて出来ない。

 そもそも、潮吹きしてるってことは、鈴は女の子の僕でもエッチな妄想できちゃってるってことだし。そんなの、許されない自慰行為と潮吹きだった。


「クッ、そんなお姉さんも……確かに、エッチですっ」


「光くん、負けないで! エッチな僕を、アップデートしないで!!」


 鈴の言葉に惑わされた光くんまで、何かおかしなことを口走ってる。このままじゃ、僕はクジラになって海に帰るしかなくなってしまう。潮吹記として、山月記と並んで古典の授業で論じられるなんて、到底耐えられる所業ではなかった。だから、光くんに負けないでって必死に応援して。


「……お姉さん、ごめんなさい。

 僕も、お姉さんのお潮、見たいです……」


 光くんは、秒で負けちゃっていた。僕の潮吹きは、完全に二人の間で興行と化してしまってる。みんなおかしいよ……。


「きみのこどもエッチなんかで、こころは満足しないって分かってる。だから、身体が変な感じしても、大丈夫。──だからきみに、本当のこころのエッチを見せつけてあげる」


 してないっ、て声を上げようとしたけど、直ぐに鈴の周りに魔力が渦巻き始める。きっと、詠唱を始めようとしている。だから、その邪魔なんて出来ないから、口をつぐんで。


「"こころがずっと、心にいたの。こころがいないと、胸にポッカリ穴が空いたみたいになる。つまり、こころに心の処女膜を破られちゃったってこと。常に私は、こころに心へ挿入されてる。こころ専用の女の子だよっ"」


「何言ってるの!?」


 前半部分は、僕のことをすごく想ってくれてるのが伝わって、胸がキュンとした。でも、後半は明らかにおかし過ぎる詠唱だ。心の処女膜ってなに? 心に穴が空いちゃったことを、心の処女膜損失って呼んでるの? そんなのだったら、男子も心がぽっかりすることもあるし、心の処女膜を失ってることになるっ。明らかにおかしいよ!!


「こころにも処女膜は……ある」


「あるわけないでしょっ!」


「あるパコ♡ TSした時点で♡ こころは処女なんだパコ♡」


 エロ犬の余計な言葉に耳を塞ぎつつ、僕は光くんへと目をやった。鈴の魔法が、どんなものなのかを確かめるために。


 ──光くんは、息を荒げて、顔を赤らめながら蹲っていた。


「光くん!?」


 慌てて近寄って、光くんの身体を抱き起こす。すると、光くんは身体をビクンって跳ねさせて。


「お、おねーさん、ダメ!!」


「え?」


「い、イっちゃう!!!」


 何が起こってるのか、僕の腕の中で光くんは──ハイレグのアンダーの部分を湿らせながら、ビクンビクンってしちゃってた。


 ……え?


「おねーさん、ぎゅうされてたらまたイっちゃう! ダメなのに、ぼくがおねーさんをイかせたいのにっ、おねーさんがあの人にえっちされてるのに、イっちゃうからダメなのに!!」


 また、光くんはビクンってしちゃっていた。それと一緒に、僕の太ももの辺りに、何か温かい液体が掛かった。そっと太ももに掛かった液体をなぞると、それは透明色の……。


「おねーさんのことすきなのにっ、だいすきなのにっ、いまはダメなの! ふれてるだけで、イっちゃうの!! あの人とえっちしてるおねーさんを頭にながされて、イきたくないのにっ、イっちゃうの!!!」


 僕が何かいう前に、光くんは息を荒げながら、またビクンってする。涙目になりながら、胸とアソコを必死に押さえつけながら……それでも我慢できなくて。何度も何度も、ビクンビクンってしちゃってる。


 光くんのハイレグレオタードも、全体的に汗ばんで……他のお汁も混ざって、大変なことになっちゃってた。


「だからっ、はなして! いまだけは、ぎゅってしないで! だいすきなおねーさんにさわられると、がまんできないの! だから、さわらないで!! イきたくない、おねーさんをとられるえっちでイきたくないの!!!」


 光くんの必死の訴えに、僕は慌てて光くんを地面に寝かせた。まるで、この前に光くんの魔法を受けた僕みたい……ううん、それ以上の状態になっちゃっていた。


 そこに、カツカツと靴音が近づいてきて。


「あなたの魔法を、私なりにアレンジした。私の中のこころを、あなたの頭と身体に流し込んだ」


「鈴っ!」


 鈴に声を荒げてしまったのは、明らかにやりすぎだったから。鈴は、やっぱり無表情で立っていて。でも、その目は理知的で、とても目の前の光くんを生み出した魔法を行使したとは思えない。食ってかかろうとする僕に、鈴は待ったを掛けた。僕に向かって、首を振りながら。


「自分がこの前、どういうことをやったか、体験してもらうのが一番早い」


「でもっ!」


「それに……これは、私とこの子の戦い。こころは、蚊帳の外にいなきゃダメ」


「なんで?」


「……こころが好きな女の子は?」


「それは……鈴、だけど」


「だから、余計にあの子が惨めになる」


 倒れ伏して、酷いことになってる光くんに目をやった鈴は、それでもやっぱり無表情で。けど、険悪な視線は向けていなかった。ジッと、何かを確かめるように光くんを見つめている。


 光くんは、涙を流しながら、必死に胸やアソコを抑えながら──それでもと、鈴を睨んでいた。負けてないと、キッと鈴と……あと、僕を睨みつけてた。


 え?


「ひどい、ですっ」


「何が?」


「らぶらぶ、してっ。ぼくのことなんか、どうでもいいって、おもって!」


「そんなことないよ!」


「あります! だって、おねーさん、ぼくのこと……すきに、なってくれてないですっ」


 光くんの言葉は、非難する響きがあって……けど、非難するってことは、僕と鈴のことを、認めちゃってるってことでもあるから。


「ごめんなさい、光くん、僕はこの人、鈴が好きです。君の気持ちには応えられません」


 何度目かになる、その言葉を聞いて……光くんの目からは、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。今まで、言っても汲み取ってくれなかった言葉。それを、光くんはようやく受け止めてくれてた。


「あんなえっちなこと、されちゃったら……おねーさんも、まけちゃいます。アソコ、きもちよくされすぎて、おねーさんはまけちゃったんですよね?」


「そ──」


 "そんなわけ、ないよ!"と返そうとしたところを、鈴に手で口を塞がれる。僕がモゴモゴしているうちに、代わりに鈴が返事をする。


「そう、妄想じゃなくて、本気エッチ。こころはクジラさん並みに潮吹きをする」


「っ!?」


 嘘だよ! と言いたいのに、鈴はそれを許してくれない。光くんは、鈴の戯言に確かに頷いで。


「くやしいですけど、あんなにきもちよかったんです。……くやしいなぁ」


 なぜか、どれだけ気持ち良くなってしまったか、その結果で勝負が決してしまっていた。徹頭徹尾、意味が分からないのに、鈴と光くんはわかり合ってしまっている。二人は、まるで戦いを終えたスポーツマンのような雰囲気を漂わせてて。


「いっぱいいっぱい、わるいことしてごめんなさい」




 まだ、何かを堪えるようにしながら、光くんはこれまでのことを謝して。


「光くんと、仲直りできて良かった」


「今日でおあいこ、気にしないで」


 僕たちは、馬鹿馬鹿しすぎる戦いの果てに、ようやく和解できたのだった。

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