第10話 いっぱい出るよ!!

「で、会議って何?」


 何故か鈴の膝の上に座らされつつ、エロ犬に尋ねた。うん、膝の上。


 ……なんか恥ずかしくてムズムズするけど、鈴がどうしてもっていうから仕方なく。僕から望んだ訳じゃないし、鈴が言い出したことだし、うん。


 背が同じくらいだから重いはずなのに、鈴は全然そんなこと言わない。ついでに、お腹周りに手を回されてて、大きなぬいぐるみみたいな扱いを受けてる。


 ……暑くて、汗が流れてるから、くさいって思われてないかが心配すぎた。鈴は、なんかいい匂いするけど。


「後背位で話しかけてくるなんて、腕を上げたパコね、こころ」


「生えてないよ、鈴は」


「……後背位レズックス、まさか完成していたパコ!?」


「完成も何も、そこに無いんだから」


「目に見えないモノ、つまりはチ◯コの代わりに愛で繋がっていると、そういうことパコね」


「……鈴、鈴には悪いと思ってるけど、やっぱり揶揄われるのは苦手だよ」


「パコリイヌ、メッ」


 鈴は今、エロ犬よりも僕の味方だった。それだけで、ちょっと大らかな気持ちになれる。注意されたエロ犬は、"愛液みたいに甘酸っぱいパコねぇ"なんて呟いてる。


 ……愛液って甘酸っぱかったんだ、初めて知った。


「悪かったパコね、こころ。パコは純愛を見てると勃起しておさ魔羅なくなるだけなんだパコ。悪気はなかったから、許して欲しいパコよ」


 珍しく、エロ犬が謝った。喋ってる内容は終わってるけど、何故かコミュニケーションが一応取れている。


「お前、謝れたの?」


「失礼パコね、パコのチ◯コは常日頃から勃起してる訳じゃないパコ。普段は慎ましやかに、お辞儀をしてるパコよ」


「誤れとは言ってないんだよ」


「一夜の過ちの方だったパコか?」


「違うよ!」


 駄目だ、やっぱり会話が出来ない。僕の気のせいだったのか、エロ犬は平常運行だった。


「こころ」


 思わずファインディングポーズを取ろうとしてたのか、身体が硬くなってた。そこを、鈴に抱きしめられる。すると、スッと力が抜ける。……やっぱりこれ、恥ずかしいや。


「パコリイヌは、叱れば言い分を理解する。ワンちゃんと一緒」


「……でもこれ、38歳だよ?」


「38歳の老犬と思えば、可愛い」


「かわ、いい?」


 そんなに生きてる犬は、多分バケモノか何かだし、何ならこいつは異世界に人間としての本体が存在する。それを考えると、やっぱり何か間違ってる気もする。


「それ、いいの?」


「可愛いと思う方を取れれば、そっちの方が幸せ」


 チラリとエロ犬を見てみると、"この身体は射精できないパコから、イク時は前立腺を開発するしかないパコ"と、相変わらず頭がおかしい豆知識を押し付けて来る。可愛さなんて、微塵も存在してない。


「……まぁ、いっか」


 でも、鈴はキモ可愛いと思ってるし、一々こいつの言動にブチギレてたら僕の血管の方が切れそうだし。程々に、こいつのことも許容……出来なくても、気にしない方がいい。


 女の子にされたことは、まだ許してないけど。それでも、仲間同士でギスギスするのも嫌だし。……こいつのせいで、まともな喧嘩になることなんて、一度もなかったけど。


 エロ犬は、僕を見ながら"アクメ"と言い、お尻を向けてきた。親愛の証として、とりあえず蹴りを入れておいた。去勢したら、今よりもっと仲良くなれるかもしれないね。



「今のままでは、こころの処女膜が危ないパコ」


 そうして脱線しつつあった中で、会議が行われて。エロ犬の最初の言葉がそれだった。全てにおいて、終わり散らかしている。


「知ってた」


「嫌な話すぎる……」


 鈴の膝から解放された僕は、鈴の隣に座っている。さっきは距離が近すぎたので、30cmくらい間を取って。ただ、離れた分だけ鈴の視線をはっきりを感じてしまう。──鈴は、僕のお股を心配する様に眺めていた。


「鈴、恥ずかしい」


「……それパコよ」


 流石の鈴相手にも、ちょっとセクハラだと言おうとした時、エロ犬は深刻な声で合いの手を入れてきた。それって何、鈴の視線か何か?


「こころは、和姦する仲の幼馴染にさえ、視姦されることを恥ずかしがるパコ」


「鈴とエッチしてないっ! あと、それは流石に恥ずかしがるところだよね!?」


「こころ、私はこころをエッチな目で見てない」


「知ってるけど!」


 鈴は天然な様で天然でない、少しボケな天然さん。つまりは、鈴の発言は、天然な時と面白がってボケてる時の二種類がある。今は、多分ど天然な時だ。目が、心外ですと訴えているから。


「鈴のそれも、問題パコ」


「……私も?」


「パコパコ」


 そして鈴にまで、エロ犬はダメ出しをする。お前の存在の方が問題だと思うけど、こいつにも何か言い分があるのかもしれない。だから、耳を一応傾けて。


「どういうこと?」


「……これから先、こころと鈴を上回る変態が現れるパコ」


「知ってた」


「うん」


 然も深刻そうに、当たり前のことを言う。そんなこと、この前現れた児童ポルノを相手にした時に百も承知だったことだ。今更、言われるまでもない。


「なのに、こころは未だにオナニーしてないパコよね?」


「女の子の身体なのに、しちゃダメだろそんなこと!」


「……うん、こころが自分のでも、女の子の身体に夢中になるの、複雑だね」


 鈴もうんうんと頷いて、ちょっとズレたことを言っていた。嫌だよ、女の子の体に夢中になる僕。少し考えてみたことはあるけど、怖くてそんなことできないって面も大きい。


 ……試しに、そっと胸に触れてみると、ふにってする。でも、手よりも触られてる胸の方が感触が強い。何というか、エッチな漫画みたいに、胸を沢山揉まれて気持ちよくなるのは嘘かもしれない。


「こころ、何してるの?」


「ごめん、なんか出来心で」


「メッ」


「はい」


 鈴に叱られて、大人しくする。

 ──待って、本当に待って!

 二人の前でナニしてるんだよ僕!?


 エッチなことに囲まれすぎて、感覚が麻痺しちゃってたのか。無意識のうちに、とんでもないことをしてしまっていた。恐ろしい、エロ犬の呪いか何かなの?


「……なるほどパコね」


 一方でエロ犬は、意味深に頷きながらパコパコ言っている。何がなるほどなのか、もしかすると僕のさっきの奇行は、本当にエロ犬の呪いだったのか。


「パコリイヌ、どういうこと?」


「簡単に説明すると、こころは思春期だってことパコ」


「は?」


 確かに僕は思春期だけど、そんなの中学生になってからずっとのこと。一体何が言いたいのか、よく分からない。そんな僕に、エロ犬は続けて質問していく。


「こころ、男の子だった時と女の今、こころの習慣で変わったことはないパコか?」


「変わりまくりだけど」


 ジロリと睨みつつ、答える。こいつのせいで、僕は女の子の身体で暮らさなきゃいけなくなった。


 お風呂とかトイレとかは、こいつの使う"魔法少女は汚れたり排泄したりするわけがないだろっ! ただ、おしっこだけは聖水だから別腹ですわ! 清浄!!!"っていう浄化魔法のおかげで、お風呂に入らなくても綺麗なままだ。相変わらず、ふざけている呪文だけど、役に立ってるからご愛嬌で済ませてる。


 でも、それ以外でも男の時だったら余裕で持てていた物が重たく感じたりするし、ご飯を食べる量も減った気がする。


 あと、ふざけた事に便意はないのに尿意だけはしっかり残ってて、毎回トイレに行くたびに……その、大事なところをトイレットペーパーで拭かなきゃいけない。拭いてないと、パンツが汚れるしむず痒くなるから。


 所々で、男だった時との差異を感じて、何だか落ち着かない。それでも、だいぶん慣れてきたって思うけど。


「変わり散らかした中で、一番変わったことは何だと思うパコ?」


「一番変わった?」


 更に質問を重ねてきたエロ犬に、首を傾げる。だって、どれもこれも変わりすぎて、何が一番とかわからないから。なので、素直に首を振る。それに、エロ犬はだろうパコね、なんて言ってから、居住まいを正して正座をしていた。


「こころ、よく聞くパコ」


「うん」


「こころが一番変わったこと、それは……」


「それは?」


 勿体ぶりつつ、エロ犬はとても真剣な目をしていて。真面目な話なのかもと、僕もちゃんと聞く姿勢で耳を傾けた。そうして、告げられたのは……。


「──オナニーの回数が、0回になったことパコ」


「しね!」


 どうして、真面目になろうとした瞬間に、ふざけられてしまうんだろう。こいつがど変態なのは知ってて心の準備はしてる筈なのに、どうしても耐えきれない。唐突に猥談の刃を向けられると、反射的に身構えてしまう。元々、そういうのが苦手っていうのもあるんだけど。


「こころ、真剣な話パコよ。サディストになって、パコで愉悦を得ようとしないで欲しいパコ」


「こころ、パコリイヌは真面目。話を聞いてあげて」


 でも、本当に真面目な話だったみたい、少なくとも本人は至って真剣なんだろう。頭をグリグリしながら、取り敢えず上げた拳を降ろす。これ以上は、話が進まなくなるだろうから。どんなふざけた話でも、とりあえずは耳を貸してみようって気持ちで椅子に座り込む。


「で……ぼ、僕の、オナニーが、何?」


 本当に真剣になりにくい、頭がおかしくなりそうな主題だった。


「こころ、週に何回オナニーしてたパコ?」


「……これ、答えなきゃダメなの?」


「当然パコ」


 助けを求めて鈴の方を見てみれば、どうしてだか身を乗り出していた。無表情なのに、どうしてか耳がピクピクと動いてる。そんな気持ちの表し方、ある?


「す、鈴?」


「こころ、大丈夫」


 何が大丈夫なのか、鈴はすごい前のめりだった。鈴に聞かれちゃうし、全然大丈夫じゃないんだけど!


「1日2回で週14回でも、こころはエッチだなんて思ったりしない」


「それはエッチすぎる性豪だよ!」


 鈴は、ちょっと男子の性機能に疎いみたいだった。詳しかっても、どういう反応すればいいかわからないけど。


「じゃあ、何回?」


「……一回」


「一週間で七回?」


「一週間で一回っ!!」


「いっぱい出る?」


「いっぱい出るよ!!」


 おかしくなる、本当におかしくなるっ。


 何で僕、鈴にこんな質問に答えちゃってるの?

 何で鈴、こんな質問するの?

 あと、いっぱい出るって何だよ!!


「つまりこころは、一週間に一回はたくさん出さないと、ムラムラが解消されないんだパコ」


「なるほど」


「なるほどじゃないが!?」


 僕が週一回する事に、何の意味合いがあるのか。意味合いなんて、本当にあるのか。考えれば考えるほど、ドツボに嵌って大変すぎる。


 真面目って何?

 真剣ってなに?

 オナニーってなんなの……。


「こころにも、ちゃんと性欲はあったんだパコ。なのに、女の子になってという理由だけで禁欲を始めてしまった。これがどういうことか、分かるパコか?」


「……こころ、ムラムラして苦しんでるの?」


「その通りだパコ、オナニーにはストレス解消の効果もあるパコからね。それをしなくなったから、こころは今怒りっぽくなってるパコ」


「なるほど」


「なるほどじゃないが!!??」


 何で僕、こんな恥ずかしいことで分析されてるの? こんなの、もうこれ自体が辱めだ、現在進行形で汚されちゃってる。お父さん、お母さん、ごめんなさい……。


「じゃあ、こころは無意識のうちに、エッチしたくなっちゃってること?」


「そういうことパコね」


 誰よりもオナ禁に性交してしまった魔法少女、それがこころなんだパコという言葉に、本当に頭が狂ってしまいそうになった。絶対におかしいよ、こんなの……。

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