抜きゲーみたいな帝国から来たマスコットにTS魔法少女にされた僕はどうすりゃいいですか?

ペンギンさん

第1話 害獣マスコット

 僕、夏空なつそらこころは普通の男子中学生。絶賛義務教育中で、背が小さいことと名前が男子っぽくなくて揶揄われる。そんなことが悩みの、ごくごく普通の一般人。


 でも、不思議なことは、世の中には満ち溢れていて。急に平凡だった日常が、ガラリととんでもない非日常へと流転することもあり得る。そんなことを実感したのは、ある日の帰宅中の通学路でのこと。それが、あまりにもバカバカしい日常の始まりだった。



 ある日の長閑な午後の出来事。中学帰りの通学路で、僕は変なのに話しかけられていた。──なんかキモい顔をした、30cmくらいの犬のぬいぐるみに。二足歩行してて、キモさが倍増くらいしている。


「お初にお目に掛かるパコ。パコはパコリイヌ、オチ◯チン=オマ◯マン二重帝国の国会議員を務める38歳男性パコ」


「は?」


 二足歩行のぬいぐるみに話しかけられた、きっと驚くべきことなんだろう。でもそれ以上に、その話している単語がまるで理解できなかった。え、何語?


「おぉ、君は逃げたり通報したり、研究機関に差し出そうとはしないんパコね! 君が女の子だったら、ガバガバにしてあげたいくらい良い人パコ! 未だに理想の王子様を夢見てる、40歳姉をもらって欲しいくらいパコ」


「は?」


 意味が分からない、分かりたくない単語を並べ立てられて、完全に思考が停止する。ぬいぐるみって喋るんだっけということ以上に、これは日本語ですか? という疑問が先立って出てくる。頭がおかしくなりそうだった。


「そんな心優しい君に、パコからお願いがあるパコ。──どうか、この世界のためにTS魔法少女になって欲しいんだパコ」


「は?」


「それで救われる世界とパコが居るパコ」


「は?」


 唯でさえキャパオーバーを起こしている頭に、カスみたいな情報とお願いを流し込まれる。具体性が無さ過ぎて、返事なんてしようもない。もう帰りたさでいっぱいになっている、そんな最中での出来事。は? を連呼していた僕に、この犬は目を輝かせて。


「はいとおっしゃってくれてたパコか!? ありがとうパコ! これで世界は、NTR推進委員会の魔の手から救われるパコ!!」


「は?」


 呆然としている間に、僕の体まで光り輝き始めた。ぺかーっと光に包まれて、気が付けば僕は……。


「成功パコ、いつか性交したいぐらいの美少女パコ!」


 物理法則を無視して、男から女の子に変身してしまっていた。それも、白と水色のハイレグを基調とした、所々にリボンやフリルが装飾された、どう考えてもエッチ過ぎる格好で。

 ……大切な相棒が、股間から留守になっていることで、女の子になったことに気が付いたのだ。


 意味、わかんないんだけど。

 僕、これからどうなるの?

 答えをくれそうなのは、目の前のエロ犬だけっぽいのが最悪だった。




「く、苦しいパコ! パコが一体、どうして拷問リョナエッチを受ける羽目に!?」


「人聞きが悪すぎる! でも、死にたくなかったら答えて。どうやったら元に戻るの?」


「愛している人と性交して、絶頂したら元に戻るパコ」


「死ね!」


「答えたパコに!?」


 あれから、エロ犬の首根っこを掴んで、ゆさゆさと揺さぶりまくる。どうにかして、他の方法を聞き出したいから。……自分の声が女の子になってるのに、かなりの違和感を覚えながら。


「ていうか、そんな条件なのに何でTSさせたんだよ! 僕は普通に異性愛者だよ!!」


「異常性愛者? 結構なことパコ、たくさんエッチすればパトスが溜まるパコからね」


「死ね!」


「なにゆえ!?」


 エロ犬を地面に叩きつけて、この異常な事態に頭を抱える。こんな姿で家に帰ったら、両親になんて言われるかなんて想像したくない。それ以前に、息子だと認識されないだろう。もう色々と最悪だった。


「本当、どうすれば……」


 頭を抱えていると、エロ犬はスッと立ち上がった。残念なことに、死んでいなかったらしい。


「答えは簡単パコ。これから来襲するNTR推進委員会の魔の手から、世界を守るんだパコ」


「……微塵も聞きたくないんだけど、一応聞くね。一体、どういう事情でこんなことを?」


 急に女の子にされて、変身ヒロインと化した僕には聞く権利がある筈だ。第一、同意なんてしてなかったし、今すぐクーリングオフしてもらわないと許されない事態だった。


「では、まずパコ達のことを話すことにするパコ」


 あと、今更ながら、エロ犬の一人称と語尾が最悪すぎて終わっていた。パコって何? こいつらに王様がいたら、一人称は朕朕なの? バカなの?


「パコ達は異世界、せいキガクルーウより来訪した異世界人パコ」


「人じゃなくて犬では?」


「これはアバターみたいなもので、パコの本体は異世界にあるんだパコ。パコは身長150cmという長身の超絶イケメン高学歴系男子パコ」


 150cmで高身長を自称し、38歳で男子を名乗る図々しい人物が目の前のエロ犬らしかった。こんなのが国会議員になれる国は、本当に議会が機能しているのか怪しすぎる。そもそも、最初に聞いた国名が認知したくない上に最悪の権化だった。


「それでパコが聖キガクルーウからの使者となって、こちらの世界、おち◯ちんランドに降り立ったのには相応の理由があるパコ」


「……なんて?」


 意味が分からず、聞き返した。僕たちの世界に何でそんな蔑称をつけられているのか、本気で分からなかったから。


「何がパコ」


「おち◯ちんランド」


「ご立派な世界だパコね」


「なんでそんな名前に?」


「この世界は男根勃起社会だと、この世界から流れ着いた本を読んだ上で判断されたパコ」


「意味がわからない」


「フェラニズム? とかいう思想の本だったパコね」


 ……恐らく、フェミニズムの本だった。それも、男性にこの世界は支配されているとか、そんなことを訴える類の。本を書いたフェミニストが事情を聞いたら、きっとブチ切れること間違いない類の名付けられ方だ。


「名前、変えられない?」


「帝国議会で審議されて、正式に可決された名前パコ。それなのに、淫らにガバガバ変えるなんて、独裁者でないと無理だパコ」


「国ごと滅べば良いのに」


 なんでそんな名前が審議にかけられて、可決されているのか。考えると、頭がおかしくなりそう。もう既におかしくなってて、これまでのこと全てが実は夢だったら良いのに。


「それで、おち◯ちんランドに降り立った理由パコが、この世界で実験を行おうとしている狂った集団を止めるためだパコ」


「……それ、さっき言ってたやつ?」


「そうだパコ、NTR推進委員会だパコ」


 バカ丸出しな名前の組織、異世界人はもしかすると狂っているのかもしれなかった。


「そのゴミみたいな推進委員会が、この世界で一体何をするの? 不倫はいいぞ、みたいな炎上しそうな啓発活動とか?」


 僕の問いかけに、エロ犬は深刻そうに実は、と切り出した。


「奴らは、この世界を実験場にしようとしてるパコ。具体的にいうと、人の脳に反応するエッチな魔法電波を広域で発信する気パコ。これが流れ出したらまず、好きな人がいる人間は老若男女問わず、突如として強い性欲が溢れ出すパコ」


「は?」


「徐々に性行為へのハードルを下げて、段階的に倫理観をガバガバにするつもりパコ。そうなれば最後には、誰彼構わずズコバコする地獄が完成するパコ。君のパパやママも、知らないおじさんやおばさんとの経験人数が爆増すると言えば、どうなるか分かりやすいパコか?」


「えぇ……」


 なんか、想像していたよりも恐ろしい話を聞かされてしまった。バカみたいな過程に反して、カスみたいな結果が出力されている。この世の終わりみたいな話だ、ふざけている。


「な、なんでそんなことを?」


 聞かずにはいられない問いかけに、エロ犬は重苦しく頷いて。


「実は我が国では、アナル◯ックスが大流行中だパコ」


「は?」


 畳み掛ける様に、また理解不能なことを言われた、脳の処理が追いつかない。けど、そんな僕に構うことなく、ゴミみたいな情報は垂れ流され続ける。今だけ、環境活動家の気持ちが分かってしまったかもしれない。こんなカスみたいなゴミ情報、許されて良い理由がないんだから。


「そうすると何が起こるか、分かるパコか?」


「えっと……ホモが増える、とか?」


「違うパコ。正解は、膣内射精が行われないことにより、我が国の出生率は45%から1.9%へと急降下したパコ。建国1919年以来、初めての国難パコ」


 それから、ホモ以外だってアナル◯ックスはして良いパコよ、なんて諭す様な、常識を教えるみたいな口調で告げられたのが、そこはかとなく最悪だった。


 なんで僕、こんな役に立たない知識を教え込まれてるの? 本当になんで?


「そういう訳で、この異次元の少子化に対して、議会は紛糾したパコ。アナル◯ックスを禁止する議論もされたパコが、個人の性交の自由は守られて然るべき、と結論付けられたパコ」


「これ以上お尻のことについて、聞きたくないんだけど」


「もうすぐで終わるパコから、天井のシミでも数えておくパコ」


 天井も何も、ここは公園。

 思わず天を仰ぐと、今日も青い。雲がユラユラと漂って、いい天気だ。


「以上の理由から、アナル◯ックスに取って代わる代替案が求められたパコ。そんな中で、野党であるバベルの党より提出されたものが、NTR推進法案だったパコ」


「狂ってるの?」


「狂っているパコ」


 平然と肯定されて、そこの倫理観はしっかりしてるんだとぼんやり思った。全てがふざけてるし、誰とでもエッチなことしてる異世界だと思っていたから。


「この法案の要旨は、アナル◯ックス中毒への代替について。尻穴の強力な締め付けが忘れられないことが問題とされて、それ以上に興奮するシチュエーションを代わりに用意することが喫緊の議題として挙げられたパコ。どれだけ頑張っても、お◯んこの締め付けは尻穴には勝てないパコからね」


 話を聞けば聞くほど、心を汚されていく気がする。公然猥褻罪の他に、公然猥談罪も欲しくなる様な有様。誰か助けて……。


「そこで、最も興奮するシチュエーションとして提案されたのが、NTR推進法案。通称、愛とま◯こは無限に広がるだパコ」


「き、詭弁だ!」


「パコも同じことを言ったパコ、与党の純愛液党の政治家パコだし」


「お前と同じにしないで!」


 心から叫んで、頭を掻く。……何か髪がサラサラしてるし、もう色々と狂っちゃいそうだった。


「当然の様に、議会でその法案は却下されたパコ」


「うん」


「それにキレた野党の支持者達が、ならば自分達の正しさを実証してやると息巻いて、この世界に乗り込んで来たんだパコ」


「うん?」


 溜め息を吐きながら、エロ犬は非常に申し訳なさそうな顔で結論を告げた。


「つまりは、この世界を社会的実験場にして、統計データを取るために怪電波をばら撒こうとしているパコ」


 ……は?


「クソ迷惑なんですけど」


「その通りパコ、申し訳なさで男性なのに愛液が溢れそうパコ」


「そもそも、敵は悪の秘密結社とかじゃないの?」


「敵はバベルの党の支持者達パコ」


「なら、何で僕は変身ヒロインにさせられたの?」


「NTR電波への対策パコ。そもそも、パコ達は魔法を使えるから、素手だと返り討ちにあうパコし」


 本当に、色々な意味合いで酷かった。まだ魔王が復活したとか、世界的陰謀が渦巻いてるとかの方が夢がある。けど現実は、頭のおかしな異世界人の内ゲバに、僕たちは巻き込まれようとしている最中みたい。


 バカなんじゃないのかと、そう叫んでやりたい気持ちでいっぱいだった。


「とにかく、それを察知してパコは来たんだパコ。このままでは、この世界が無茶苦茶になりそうだったパコから」


「……お前は味方と思っても良いの?」


 嫌々、本当にウンザリしながら尋ねた。こんな頭の悪い話、信じたくないし逃げ出したいくらいだけど。でも、実際に僕は女の子になってしまっているし、今の話が本当なら、放置すると最悪なことが起こってしまうから。


「パコは君の味方パコ。というよりも、君がパコの味方なのかもしれないパコね」


 まるで穴兄弟パコと宣うエロ犬は、純愛の定義がガバガバなのかもしれなかった。これが唯一の味方なのが、本気の本気で最悪だった。


「……協力、するよ。取り敢えず、元の自分に戻るために」


「ありがたいパコ。でも、本当に愛する人に絶頂させてもらうしかないパコよ?」


「恋人なんていないよ、バカ!」


 僕、本当に元に戻れるのかな……。

 不安ばかりが募る、そんな始まり。

 僕は、魔法少女になってしまった。




「ところでエロ犬」


「パコリイヌだパコ」


「絶対呼ばないよ。……それで、この格好だと家に帰っても、知らない人だって追い出されそうなんだけど」


「友達の家に泊まれば良いパコ」


「いやいや、絶対に僕だって信じてもらえないよ」


「そこは大丈夫パコ。いきなりミステリアスな魔法少女が家に転がり込んできたら、絶対に泊めてくれるパコ」


「それ絶対タダでは済まないやつだよね?」


「純愛ならセーフパコ」


「僕が男子を好きになるはず無いんだけど?」


「20年前にパコの家に泣きながら転がり込んできた親友も、同じ状況で一緒のことを言っていたパコ」


「……なんで異世界人がそんなことに?」


「TS変身魔法を開発したのは、うちの親友だったパコでね。実験に失敗して、TS変身してしまったパコ」


「……その人、元に戻れたの?」


「パコのお嫁さんとして、幸せに暮らしてるパコ」


「待って! 愛し合う人同士でエッチすると、元に戻るって言ってたよね!?」


「あれには追加情報があって、メス堕ちすると戻れなくなるらしいパコ」


「ん? ていうことは、もしかして……」


「……性欲に逆らえなかったパコ」


「っ、寄るな、レイプ魔!」


「待って欲しいパコ! 快楽堕ちは純愛なんだパコ!!」


「死ね!」


「痛いパコ痛いパコ! 痛覚は共有してるから、乱暴にされると絶頂してしまうパコよ!!」


「最っ低だよ、お前!!」


 このマスコットを、本気にクーリングオフしたくて仕方がなかった。

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