究極のデザート
よし ひろし
究極のデザート
彼は天才パティシエだった。
お菓子作りが好きな母親の手伝いを幼いころからしていて、そのまま自然と菓子作りの魅力にとらわれ、当然とばかりにパティシエとなった。元々探求心の強い性格だったこともあり、母の喜ぶ新しいお菓子を、皆が感嘆する素晴らしいデザートを、と日々考え続け、気づくと天才と呼ばれるようになっていた。
そんな彼でも無限にアイデアが湧いてくるわけではない。新作のレシピを生み出すのにかかる時間が年々長くなり、ついに行き詰ってしまった。どうやっても過去の自分を超えることはできないのだ。
悩み疲れて、気分転換にと普段あまり見ることのないテレビをつけて見た。そこで彼はある天啓を受けた。
生成AIである。
彼がたまたま見た番組で取り上げらていたのが生成AIで、現在様々な分野での利用が進んでいるという。ならば、新たなデザートのレシピを創り出すことができるのではないか――
彼は早速試してみた。
しかし、思ったような結果は出なかった。出力されたレシピは、みなどこかで見たようなものばかりだった。その中には、自分の作った菓子とほぼ同じレシピも混じっていたほどだ。
「はぁ~、やはりだめか…。所詮は機械。実際に味見さえできぬものに、新たなデザートのレシピなど、考え出せるはずない……」
彼はそう呟き、肩を落とした。だが、そこで彼は諦めなかった。生来の探求心が、ムクムクと芽を伸ばしてきたのだ。あらゆる偏見を捨て、生成AIの可能性を追い求めることにした。
仕事の合間に、いや、AI研究の合間に仕事をしているかのような生活が続き、一年が過ぎた頃、とうとう彼を納得させることができるほどのデザートのレシピをAIが打ち出した。
更に数か月、まるで愛弟子に教え込むかの如く、己の持つ知識をAIに覚えさせ、試行錯誤を繰り返した結果、今までにない全く新しいデザートのレシピを打ち出すことに成功したのだ。
そのデザートを作り、試食した後、彼は素直に己の帽子を脱いだ。いわゆる脱帽と言うやつだ。
そのデザートは、天才パティシエがAIと協力して造り出した新感覚デザートと言う触れ込みで売り出され、世の中を席巻した。彼としては、自分の名前など出さずに、ただAIの造り出したデザートとして発表したかったが、周りの大人がそれを許してくれなかった。天才パティシエのブランドは、彼だけのものではなく、様々な人々の思惑が絡み合った結果、あくまでも彼が主体で造り出したものである、と言うことに落ち着いたのだった。
実際、彼の力があったればこそのレシピであるのは間違いなく、そのブームに乗って二番煎じや三番煎じのAIデザートが出てきたが、彼のデザートの足元にも及ばなかった。
しかし、流行というものはその波が高ければ高いほど、退くもの早いものだ。
周囲の大人たちの思惑もあり、彼は第二弾のレシピの創造に迫られた。しかし、簡単に出来るものではない。生成AIの生み出すものは、所詮、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、なのであった。だが、彼は諦めない。それゆえに彼は天才と呼ばれる存在となったのだ。
ブームが下火になり、AIデザートの話題もすっかり聞かなくなったころ、見事第二弾のデザートの発表をすることができた。更に翌年には第三弾を発表、天才パティシエの名声をより高めることに成功するとともに、新たに“AIマスター”の異名も得た。
しかし、彼の探求心はそこで留まることはなった。第三弾まで来たところで、何かが足りないと思い始めていた。出てきたレシピは素晴らしい。だが、食べた時の感動が薄れてきていた。さらなるインパクトが、飛躍が必要だと感じていた。
彼は再び悩んだ。悩みを解消するために導入した生成AI。そのさらなる進化を求めて今度は苦悩することとなった。全く世の中とは皮肉なものだ。
そうして、悩み、考え続けた結果、一筋の光明を見出した。
未知なるものの創造である。
すべてを一から造り出すのだ。未知の材料を使い未知の調理法で未知のデザートを創り出す。
そのために必要なデータを彼は収集し、AIに学習させた。化学から物理学、工学、植物学、などなど、菓子作りには必要ないであろうが、未知なるものを創り出すには必要となりそうなあらゆる情報をAIに覚えさせ、チューニングを行った。
更には、数撃てば当たる、的な手法もやめ、究極の一品を創造するために時間をかけることとした。
そして、時は流れ、ついにその日が来た。
AIが究極のレシピを打ち出したのだ。
天才パティシエは、それまでの苦労を思い浮かべながら万感の思いを込め、そのレシピに目を通した。
「…………」
彼はそこで大きくため息をつくと、無言のままコンピュータの電源を落とした。
何故なのか――?
AIの造り出したレシピには、彼が必要なかったからだ。材料の精製から調理、仕上げに至るまで、すべてが特製の機械によってのみ完成するデザート――それが、AIの生み出した究極のレシピの答えだった。
その後彼は、AIの利用をやめた。
自らの脳細胞で新たなデザートのレシピを生み出し、日々の鍛錬で磨き上げた己の技術によりそれを形にして世に送り出し、さらなる名声を得ることとなった。
だが、今日も彼は悩む。あの究極のレシピを自分は越えているのだろうか? と。
そして、恐れた。いずれ菓子作りに人の手が必要のない時代が来るのではないかということを……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◎おまけ 某生成AIに実際に出してもらったSF的究極のデザートのレシピ
### **未来の究極のデザートレシピ:ゼログラビティ・フローティング・ムース**
#### **材料**
- **フローティングムース**
- ホワイトチョコレート: 200g
- 生クリーム: 200ml
- ゼラチン: 5g
- 抹茶パウダー: 大さじ1
- 食用金粉: 適量
- **ホログラムソース**
- 透明ゼリー: 100g
- 食用ホログラムパウダー: 適量
- ラズベリーエッセンス: 数滴
- **エアリアルフルーツ**
- フリーズドライフルーツ(ラズベリー、マンゴーなど): 適量
- 食用エアリアルパウダー: 適量
#### **作り方**
1. **フローティングムースの準備**
1. ホワイトチョコレートを湯煎で溶かします。
2. 生クリームを泡立て、溶かしたホワイトチョコレートと混ぜます。
3. ゼラチンを水でふやかし、電子レンジで溶かしてからムースに加えます。
4. 抹茶パウダーを加えて混ぜ、冷蔵庫で冷やし固めます。
2. **ホログラムソースの準備**
1. 透明ゼリーを溶かし、食用ホログラムパウダーとラズベリーエッセンスを加えます。
2. 冷やして固め、ホログラム効果を出します。
3. **エアリアルフルーツの準備**
1. フリーズドライフルーツに食用エアリアルパウダーをまぶし、軽くて浮遊感のあるフルーツを作ります。
4. **デザートの組み立て**
1. フローティングムースを皿に盛り付け、ホログラムソースをかけます。
2. エアリアルフルーツを飾り、食用金粉を散らします。
5. **ゼログラビティ効果**
1. 特殊な磁場を利用して、ムースが浮かぶように見せる装置を使用します。
このデザートは、見た目の美しさと未来的な演出が特徴です。ゼログラビティ効果でムースが浮かぶように見えることで、食べる人に驚きと楽しさを提供します。ぜひ、未来のデザートを楽しんでください!
究極のデザート よし ひろし @dai_dai_kichi
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