エピローグ
第27話 明日への一歩を
結局、私がただ一人遊びしてただけだった。自分が自分と記憶を閉じ込めて、真っ白の状態を作り上げて。
最初からこんな虚しく無意味だということに気がつけばよかった。
「詩音ちゃん、私なにがしたかったのかな……こんなにもいっぱいの時間を浪費してまで得たものって何なのかな……」
「それを私に聞かれても困るかな。こんなことに意味なんて最初からなかったからね……でもね、こうやって別れの言葉を言う時間ができて良かったかなって、思ったりもしてるの」
目の前の詩音ちゃんが私の頭をゆっくりと優しく撫でてくる。暖かくいのにどこか儚さがある。彼女からの愛を感じるのに、どこかそれが嫌になってしまう。
だって、目が冷めたら彼女とは二度と会えなくなってしまうからだろう。こんなにも心地よいものを最後に味わってしまったら、別れたくなんてなくなってしまう。
別れたくなんて本当は思ってない。でも、彼女はそんなこと許してくれなんてしない。だから、私は彼女の気持ちを優先しなきゃいけない。
「この世界じゃ、高校生だったと思うんだけど、私たちまだ中学三年生なんだよ?まだまだ、この先には道が枝分かれしてる。これもこの先の道に進むための障壁、運命……私の死という壁を乗り越えなきゃだめ……だめなの」
彼女の暖かくて、冷え切った体温が身体に伝わりだす。勢いよく彼女に抱きしめられて、少し驚いて声が出てしまう。
肩から聞こえてくる彼女の咽び泣く声。冷たくて、冷えていて、儚い。今にでも崩れしまいそうなほどに脆くて脆くて。
気づけば私の目からも雫が流れ落ちていた。
「ごめんね、ましろ……ホントはわたしだってわかれたくなんてない……!ないけど、この運命を変えることはできないの……だから、最後のおねがい――わたしとキスして」
詩音ちゃんの顔が私の目の前にある。吐息が交わり合ってしまうほどの距離感。涙や鼻水で顔がグシャグシャになっている彼女。そんな彼女の顔にも愛おしさを感じてしまう。
「詩音ちゃん、愛してます――っん……」
私は彼女の肩に手を添え、そっと唇に唇を重ねた。
♢♢♢
目を開けると、見慣れているけど懐かしさを感じる自分の部屋の天井。身体を起こして周りを見ても変わり映えもない光景。
本当に私は夢から覚めたのか疑問に思ってしまうが、机の上にあるとある物を見つけてしまい、そんな疑問も虚しくなくなる。
ザーザーと波をうつかのような雨音が天井から聞こえてくる。まるで私の今の心のように暗くてどんよりとしていて、じんめりとしている。
「詩音ちゃん……忘れないから……だからがんばるね」
机の上にある詩音ちゃんと私のツーショット写真に向かってそう言う。
この長くて短い、そんな厳しい道のりの先でまたあなたに会えることを夢見て、あなたがいないこの世界をあなたの分まで生きる。
生きる意味を私に二度もくれた詩音ちゃんのためにも。
私は勇気を振り絞り、前へと歩みを再開した。
私に囁く誘惑のなのちゃん 宮乃なの @yumanini
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