第16話

 ガーネットの話す内容は、驚きのものだった。


「私たちに取材って、今から!?」

「すいません! 出来る限り手早く済ませますし、報酬も明日渡しますから!」


 むむむ。夜遅くに帰るのは嫌だな。そう思った私は、断ろうとしたのだが……


「ごめん、私はちょっと急いでるし」

「別に良いんじゃないですか?」


 マリナが了承してしまった。思わずマリナの方を向くと、彼女は取材に乗り気なようだった。


「どうせ帰ったところでやる事も無いですし、取材を受けても良いんじゃないですか?」

「いや、でももう遅い時間だし……そろそろ夜になっちゃうじゃん」

「そうなったら夜に帰るだけですし。夜になったら何か不味いんですか?」


 うぐっ。そう言われると言葉に詰まる。確かに普通はそうだろう。個人的には、夜遅くに帰るのだけは絶対に避けたいが……その理由を教える訳にはいかない。


「いや、不味くはないかもだけど。夜遅くに帰るのは色々アレというか、なんていうか……」

「ふむ?」


 しどろもどろになりながらも、私は何とか断ろうとしたのだが。


「よく分かりませんが、シエラさんも大丈夫そうですね。それじゃあ、私たち二人とも取材を受けるということで」

「本当ですか!? それじゃあ、宜しくお願いしますね!」


 なんと、勝手にシエラが私も取材を受けると決めてしまった。流石に酷くないだろうか。


「ちょ、ちょっと待ってよ。私は受けるなんて一言も言っていないよ!」

「シエラさん、現地取材の件は先に私に相談して欲しかったですね」


 唐突に、マリナがそう言い出した。急にどうしたんだ?


「その件はごめん。でも、マリナもそんなに嫌そうには見えなかったけど……」

「私に話を振られた時、正直断ろうとも思ったんですよ」


 マリナがそう考えていたとは、全く信じられない。というか断るどころか、強敵と戦えるかもってワクワクしてたじゃないか。


「それでも了承したのは、仲間であるシエラさんが望むなら、力になりたいと思ったからなんです」

「へ、へえ……それは有り難い話だね。やっぱり持つべきものは良い仲間だよ」


 仲間の望みだったから嫌だったけど断わらなかった、か。マリナの言っていることは、嘘っぽい。とんでもなく嘘っぽいのだが……


「ところで、私はあなたと一緒に取材を受けたいんですよね」

「そ、そうなんだ」

「どうですか、私の『仲間』であるシエラさん。ご再考してもらえませんか?」

「……分かったよ! 受ければ良いんだろ、受ければ!」


 そんな言われ方されると、めちゃくちゃ断りにくい! これで断わったら、なんだか恩知らずみたいじゃないか。


「やった! シエラさん、ありがとうございます!」


 私がオッケーした瞬間、マリナは珍しくはしゃぎながらも感謝の言葉を述べた。その顔は、これ以上ないくらいに満面の笑みを浮かべていて。やっぱり、かわいいなこいつ。


「……いやいやいや!?」


 私はマリナに絆されないからな! 今の断りづらい言い方は絶対確信犯だったし、マリナは腹黒いところがある。それに割と暴力的だ。騙されるな私、どうせマリナだってルヴィアみたいに私を見切るだろう。私はそれが分かっているから、マリナに絆されは……


「シエラさん、私、誰かと一緒に取材を受けるなんて初めてです!」


 絆されは……


「二人で一緒に……えへへ、なんだか良いですね」


 ……絆されちゃうかも、これ。


「すいません、取材が始まる前からいちゃいちゃされても……」

「黙らないと斬りますよ?」

「ひ、ひぃんっ!」




 私にとっては残念ながら、取材は非常に長引いてしまった。その結果、窓から見える外の景色は真っ暗。そう、完全に深夜である。


「お二人とも、今日は本当にありがとうございました! こんな時間ですし、足元にはお気を付けて!」

「こちらこそ、良い経験になりました。そうですよね、シエラさん?」

「え? あ、そうだね。うん」


 なんかマリナが言っていたが、私はそれどころではない。最悪の事態になってしまった。しょうがない、出来る限りマリナと一緒に帰ろう。

 そんな私の考えは、一瞬で打ち砕かれた。


「それじゃあ、今日はここでお別れですかね」

「え!?」


 それは困る。だってそれは、私にこんな真夜中に一人で帰れというわけで……それだけは嫌な私は、マリナに必死で食い下がる。


「いやいや、折角だし一緒に帰ろうよ、ね?」

「そうしたいのはやまやまなのですが、私とシエラさんの家は逆方向ですから。もうこんな時間なので、寄り道も避けたいですし」


 だが、そんな必死の食い下がりも、マリナに一蹴されてしまい。


「というか、どうしてそんなに一緒に帰りたがるんです? さっきも深夜に帰るのを嫌がっていましたけど、一人で深夜に帰るのが不味い理由でもあるんですか?」


 遂に、私は追い詰められてしまった。理由を話すのは、恥ずかしいし嫌だ。だが、そうしないと一緒に帰るのは無理そうだな。

 考えるんだ私、どうにかして二人で帰る理由を……


「そ、その。そんなに私と一緒に帰りたいんですか?」

「え? ……う、うん! 一人だと寂しいもん、一緒が良いよ」


 な、なんか勝手に勘違いしてくれたー!

 よし、これで話さずに済むぞ。私が、『暗いのが苦手』だってことが!

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