第14話
「……ふむ、とりあえずは私の自己紹介をさせて下さい。私はガーネット・レイフォード。『レイフォード日報』の社長を務めています」
先ほどとは打って変わって、ガーネットは真面目な表情で自己紹介をした。どうやら、手を組もう、という提案に興味を持ってもらえたようだ。
「それで、あなたたちと組むことで大スクープ出来るというのはどういうことなんですか? そもそも、あなたたちは一体……ん?」
そこまで言って、ガーネットは私たちをまじまじと見つめる。訝しげだった目線は、段々と好奇と驚愕が入り混じったものに変わっていき……
「誰かと思ったら、今話題のマリナさんとシエラさんじゃないですか!?」
「おや、流石に新聞記者なだけあって、私たちのことは知っているんですね」
「そこら辺の一般人だってお二人のことは知ってますよ! 何せ、Aランク上位の魔物を二人で討伐したスーパースターなんですから!」
成程、言われてみればそうだろう。実際はほぼマリナの功績ではあるが、一応私たち2人で強力な魔物を倒したということになっているのだ。注目されるのは当たり前ではある。
「スーパスター……ふふ、そうでしょうそうでしょう。世間では、私たちはどの様に言われているんですか?」
「世間の評判ですか? えーと……今までは『傍若無人な冷酷すぎる最強剣士』と、『相方に頼り切りのランク詐欺』なんて言われてましたね」
スーパスターの評判かそれ。にしても、酷い言われようだな。嘘だと言い切れないのも確かだけど。そんな風に、私にとっては別に何とも思わなかったのだが、マリナにとってこの言葉はそうではなかったらしい。
「あ゛?」
「マリナ、ステイステイ!!!」
今にもガーネットに殴り掛かりそうだったマリナを、何とか止める。こんなんだからそう言われるんだよと言いそうになったが、それはとどめた。そんなことを言ったら絶対にマリナにキレられるだろうし。
「お、落ち着いて下さい! あくまでさっき話したのは今までのものですから! 例の魔物をお二人で倒してからはだいぶ評判が変わってます!」
「……ほう、言ってみなさい」
「あー、えーと、その……」
ガーネットもマリナを落ち着けようと、色々言っている。その中で出てきた現在は評価が変わっている、という話がマリナは気になったらしい。話すように促している。
「……」
「うん?」
突如として、私の方にガーネットは目線を向けてきた。言葉こそ無かったが、その目は助けてくれと私に対して訴えかけていた。多分、現在の評価もマリナに話したらヤバい内容なのだろう。私に対しては、『なんとか話さずに済むようにしてくれ』みたいに思ってるのではなかろうか。
そんなガーネットの無言の訴えに対して、私が取った行動は。
「私もそれ気になるなあ。言ってみてよ」
「ぎゃー!? 何でですかシエラさん、絶対私の言いたいこと伝わりましたよね!?」
「伝えたいこと? 何それ、全然分かんないや」
反射的にマリナを止めてしまったけど、よくよく考えたら止めなくて良かった気がする。ガーネットは、さっきまでフェイクニュースを流そうとしていた悪党である。むしろここでマリナにキレられて、鉄拳制裁を受けるべきなのではないだろうか。
「薄情者ーっ! 正義の冒険者にあるまじき行動ですよっ!?」
「うるさいですね、とっとと話しなさい。それと、嘘をついたら唯ではおきませんよ」
「ひぃん! は、話します、話しますから!」
で、現在の私たちの評判はどうだったのか、と言うと。
「マリナさんは、『傍若無人な冷酷すぎる最強剣士』シエラさんは『期待の大型新人』なんて言われてますね」
「おい」
マリナの評判、何にも変わってないじゃん。
私の評判は、強力な魔物を討伐したということで実力が見直されたようだ。ただ、マリナの評判が相変わらず酷いままだ。まあ、マリナの場合魔物を倒したところで人格面の評判が見直される訳が無いのは当然ではあるのだが。
「ま、まあ世間の評判ですから。所詮は何も分かってない素人の戯言と言いますか、ともかくマリナさんが気にする必要は無いです! ハイ!」
ガーネットが必死のフォローをしているが、焼け石に水だろう。本人もさっきから黙り込んでいるし、これは相当怒ってるだろうなー。
そんな風に私は思っていたのだが。
「期待の大型新人、ですか。やっと時代がシエラさんに追いつきましたね」
「どうか怒らないで下さ……えっ?」
「うん?」
……マリナの中で、私はどんな扱いなんだ?
予想とは反対に、マリナは全くキレていなかった。むしろご機嫌だ。ちょっと私が引くくらいに。というか、時代が追いついたって何だよ。別に時代を先取りした覚えは無いのだけど。
「えっと……紅茶淹れてきますね! どうぞごゆっくり!」
ガーネットはそう言うや否や、奥の部屋へとすっ飛んでいった。彼女もマリナに戸惑っていたが、マリナがご機嫌なうちにここを離れたかったのだろう。
今この部屋に残されたのは、私とマリナの2人だけだ。
「マリナは平気なの? ああも悪く言われてさ」
我慢しきれず、私はそんな疑問を口に出してしまった。態々、彼女の機嫌を損ねるようなことを言うべきでは無かったのに。
短気なマリナのことだ。今度こそ『大丈夫なわけないでしょう!』なんてキレるだろう。……そんな予想は、又しても裏切られる結果となった。
「……言われ慣れてますから、大丈夫ですよ」
そう答えたマリナの表情は、どこか寂しさを感じるものだった。
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