世界の謎をつくる仕事

詰められた善意缶

第1話 異世界は未知で満ちている

夜風のそよぐ窓の縁に手を掛けた。


この後の自分の姿を想像すると足から力が抜けてくる。今すぐにでも座り込みたいほどだ。


しかしやらねばならぬ、人間という生き物は人生のなかで一度は意味あることをなさねばならぬのだ。


振り替えればこれまでの人生は虚無に等しかった。刹那の快楽のために輝かしい世界で生きる輝やかしい人々の群れ。私は彼らにはなれなかった。そういう性質で生まれてしまったといっていい。悲しいかな私にはこの世界で感情を満たす術がなかった。数多の天才が切り開いた輝かしい世界。その世界で消費の限りを尽くす輝かしい人々。わたしはそのどちらでもなかった。気づけばあらゆる行動に虚無を感じる人間になっていた。自らに対する失望はこの世への虚無感に姿を変えたのだった。


「なればこそ、この愚かで醜い自らをこの世から浄化することこそが私の使命である!」


覚悟を決めた私は、力んだ腕と力ない足をできうる限りの意思で動かした。


さらば


逆さまな世界で月に照らし出されたこの世はやはり美しかった。


あの輝かしい世界で月に照らし出された鮮血はさぞ輝かしかったことであろう。


閑話休題


さて、私は気づけば何もない空間にいた。


目の前には神。


というか、神とかかれた紙を額にはりつけた全裸のおじさんが立っている。無断毛のケアはしっかりしてるらしい、いやどうでもいいが。


「君なんで死んだの?w意味わからんって話題になってるよw」


自称神が話しかけてきやがった。なんだこいつ、腹立つ声しやがって。


「死ぬことに意味があった、それだけだ」


むしろ私のできることを最大限やったといっていい。素晴らしい成果だ。


「いや、ねぇ、君のいた世界はあらゆる世界のなかでもトップレベルの評判の良さなんだよ、リピート率も最上位、繰り返す輪廻のなかで君の魂はあの世界にようやくたどり着いたといっていい。それを不意にするなんて。しかも自殺、あの世界にはもう戻れなくなったんだよ、ことの重大さ理解してる?してないよねwあっはは↑www」


「」


「まぁとにかく次の世界にもう送るからさぁ、希望とかあったら一応聞いとくよぉ、どんなんでもいいからさぁ、言ってみてよ」


「満ち足りた感情を味わえる世界に送ってくれ、未知を切り開いていく、そんな人生を送ってみたかったんだ」


「了解っ、そんじゃこことかがいいかな。まぁ君のいた世界よりもましな世界なんて行けないことは覚悟しといてね。おっ、魔法世界の貴族の息子になれる程度には魂の位階は高いみたいだょぉ、がんば、そんじゃバイバ~イ、よき旅を(*ゝ`ω・)」


軽薄な声色の流れるような口上が終わったところで周りの世界が渦巻いてゆく。なにがなにやらわからないままではあったが、きたる世界の未知への希望を胸に私は意識を手放した。

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