ぶしたま!
宮藤才
第1話
「もはやこれまで」
我々は数名の負傷者を抱えながら飯盛山へ落ち延びた。
残る隊士はおおよそ20名といったところだ。
煙が上がっているのが見える。あれは城の方角だ。
嘆きの声、悲しみの嗚咽。
そしてくずおれ、膝をつく者たち。
皆嘆き悲しみ、そして激しい言い争いが始まった。
「城に駆けつけるかそれとも敵に切り込むか」。
しかし━━
いずれにせよ、大勢は決している。
「西川」
「梁瀬」
梁瀬は馬術に長け、武術全般を会得した信頼できる友だ。
その梁瀬の目が言っている。
「敵に捕らわれ生き恥を晒すぐらいなら自刃すべし」と。
「せめて主君の生死を確認してからだ」
そう言って皆を止め、ここまで来たが━━
「もはやこれまでか」
梁瀬は頷いた。
「皆聞け! いまこそ国に殉ずるべき! 来世で会おうぞ!」
私の声に、皆「応!」と答える。
脇差を抜くもの、刀を抜くもの……
あるものは、自らの喉をつき、あるものはお互いを刺し貫いた。
次々と地に伏す隊士たち。地を鮮血に染めていく。
「さらば」
私もまたぬらりと刀を抜き放つ。
首に刃を押し付け、一気に引いた。
○
なんだ? すすり泣く声が聞こえる……
「ご臨終です」
「8月23日 14時55分」
「苦しみは無かったと思います」
誰だ? 何を言っている?
酷く頭が重い。
なんだ? 体が……動かない。
【つづく】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます