【ショートショート】悪魔との契約
@talevoyager
悪魔との契約
あるところに一人の男がいた。男はエンジニアだった。
男は仕事終わりに急に飲みたい気持ちになって、バーに行くことにした。普段は行かない店に行ってみようと初めての店に入ると、見知らぬ老人が一人で飲んでいた。
「隣、よろしいですか?」
男は老人の隣に腰掛け、二人で飲むことにした。老人と男は意気投合し、お互いのことを話した。話によると、老人は金持ちの好事家らしく、悪魔を呼ぶことのできると噂の不思議な魔術書を集めているとのことだった。
「実際に悪魔を呼んだことはないが、死ぬ前に悪魔と取引をしたいと思っているんだ。この通りの年寄りで、命を懸けても価値はないだろうから、そのときは大金を払おうと思っている。代わりに、死後の名声でも貰いたいね。」
男はリアリスティックな性格をしていたため、これまでオカルトに興味を持ったことなどなかったが、楽しそうに魔術書を語る老人を見て、興味がわいた。
「おじいさん、魔術書の魅力って何ですか?」
男が尋ねると、老人が答えた。
「魔術書を見ると、とてもわくわくするんだ。実際に悪魔を呼び出せるものがどれほどあるかはわからないが、本の装丁もそれぞれのページも本当に魔力を帯びているのではないかと思うほどに魅力的なんだ。ぜひみんなに魔術書の魅力を知ってもらいたいが、現存する魔術書はどれも古くて傷んでいるものも多くてね。後世に残していくことは難しいかもしれないな。」
男はその話を聞いて、老人にこう提案した。
「おじいさん、私はITエンジニアをしていまして、お仕事として依頼してくれれば魔術書をインターネットで誰でも見られて、後世に残るようにしますよ。」
老人は男の提案を快諾し、驚くほどの大金をポンッと男に渡した。
男は大金を受け取った後、老人の家で魔術書を借りてから家に帰った。早速魔術書を掲載したホームページを作成しようとした。魔術書の写真を撮って載せてみたり、魔術書の文字を打ち込んだり、魔術書の雰囲気をデザインで表現してみたり。あらゆる方法で魔術書の電子化を図ったが何とも上手くいかない。
陳腐なページを作っても、魔術書の魅力を十分に伝えられない。読者たちはこのページを見ても、この魔術書を使って悪魔を召喚したいとは思わないだろう。オカルトに興味ない男であっても、それだけははっきりとわかった。
男はそれからも試行錯誤を繰り返し、なんとか魔術書をインターネット上で表現しようと試みたが、結局上手くいかなかった。老人にお金を返し、仕事を断ろうと思ったが、自分から提案した手前、素直にできませんでしたというのは恥ずかしかった。そこで男は適当に言い訳を付けて、うまく断ることにした。
数日後、男は仕事を断りに老人のもとに行った。男は考えてきた通りの言い訳を、一字一句台本通りに話した。無事断ることはできるだろうか。男が心配しながら老人の顔を見ると、老人は子供のように目を輝かせながら言った。
「なんと、魔術書を電子化しようと思ったら、パソコンが壊れて、最終的には家のブレーカーも落ちただって。しかも、魔術書を電子化するのをやめようと思った途端パソコンが直るなんて、夢のような話だ。それほどまでにこの本には魔力が込められていたのか。お金のことはいいから、駄賃と思って取っておいてくれたまえ。」
老人はおもしろい話が聞けたと満足していた。
後日、男がインターネットをしているとあるニュースが目に入った。それは、ある好事家の男性が魔術書の電子化を試みたが、奇妙な力によってそれが妨げられたというオカルトの記事だった。その好事家はバーで知り合ったエンジニアに仕事を頼んだと記事には書いており、男と老人のことであることは明白だった。
それから数年後、その老人は天寿を全うしてこの世を去った。だが、老人はこの一件のおかげで死後も魔術書コレクターとして名を馳せ、名声を獲得することになった。
大金と引き換えに死後の名声を得た老人。偶然か、それとも、魔術書の力か。もしかすると、気づかぬ間に老人は悪魔と契約を交わしていたのかもしれない。
【ショートショート】悪魔との契約 @talevoyager
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます