狂思相愛〜超真面目人間な俺に年下ヤンデレ彼女ができました〜

ゆきのあめ

第1話:通知267件

「一生あなたのために生きるから、私と付き合ってください」


 俺、高槻たかつき 梓眞あずまは、生まれてから17年、初めて女性から告白をされた。場所は昼休み、手紙で呼び出された学校の裏庭。俺は、昔から真面目と言われ続け、優等生として生きてきたが、女性経験だけは無かった。


 そんな俺に、今目の前に告白をしてきた女性がいる。


 目の下に濃いクマがあり、表情は少し明るいが生気がない。顔立ちは整っているが、ピンクの長髪が目立っている。深月みづき 花夜かよ、同じ学校の一つ下の学年だ。彼女の瞳には、どこか狂気を感じさせる光が宿っている。


 こんなにも誠実な告白をされたら、しっかりと返事をしなければ失礼だ。


不束者ふつつかものですが、よろしくお願いします」


 深月みづきさんは、にこりと笑う。その笑顔に惹かれる。彼女の笑顔は美しいが、同時にどこか不安定なものを感じさせる。




 お互いにスマホを取り出して、RINEを交換した。昼休みの終わりが近づいていたので、お互いの教室に戻ることにした。教室へ戻るため、古びた階段を降りる。薄暗い廊下には、微かに埃の匂いが漂い、窓から差し込む光が斑模様を作っている。そんな中、花夜かよさんと話をする。


深月みづきさんはどうして俺のことを?」


「あの、お付き合い始めたので、私のことは花夜かよさんでいいです。私も梓眞あずまくんって呼んでいいですか?」


「はい、花夜かよさん。では、お互い名前で呼び合うことにしましょう」


「うん!」


 花夜かよさんは元気に返事をした。その声に、不思議な安心感があった。


「私、梓眞あずまくんのおかげでが有るんだよ」


 ふふふと小声で笑っている。その笑い声が、何故か背筋を寒くさせる。


 容姿が特徴的でよく廊下や階段で佇んでいるのを見かけてはいたが、俺から何かをした記憶は無かった。


 不思議そうな顔をしていたであろう俺の顔を見て、花夜かよさんが続ける。


、分かるよ。」


 その言葉には、謎めいた予感が含まれていた。花夜かよさんの存在が、何か異様なものを引き連れているように感じられた。




 花夜かよさんの教室の前についたところで、花夜かよさんが突然抱き着いてきた。その動作はあまりにも急激だった。


「あの、花夜かよさん……」


梓眞あずまくん。私が居るから、他の女の子とは話さないでね。どうしてもの時は私に教えてね。梓眞あずまくんのこと、誰にも渡したくない」


 俺の顔を見上げながらぎゅっと廻す腕の力を強めてくる。その瞳は、不安と執着が入り混じった光を放っていた。


「分かりました。花夜かよさん。他の女子と話すときは、必ず報告します」


「本当に?ありがとう、梓眞あずまくん!」


 花夜かよさんは重たげな瞳を輝かせて教室に戻っていった。その後ろ姿を見送りながら、彼女の存在がどれだけ特異であるかを改めて感じる。


 素直ないい子だな……俺に彼女か……夢みたいだ。


 初彼女ができた嬉しさをかみしめながら、俺も教室に戻ることにした。


 途中、背後から視線を感じたが、振り返っても誰も居なかった。少し浮かれすぎていたのかもしれない。しっかりしないと。




 午後の始めの授業が終わり、スマホを取り出すと、異常に熱を持っていた。電源を入れてみると、RINEの通知が滝のように届く。スクリーンには、無数のメッセージが並んでいた。


梓眞あずまくん寂しい」

梓眞あずまくん?」

「早く会いたい」

「他の子と話してないよね?」

「本当に大丈夫?」

「授業中も私のこと考えてる?」

「寂しいよ」

「早く授業終わらないかな」

「私だけを見ててね」

「もし裏切ったら…」

「ずっと一緒にいようね」

「大好きだよ」

「私のこと忘れないでね」

「あなたのことをずっと見てるよ」

「私以外の誰とも話さないで」

「私のことを考えてる?」

「他の子に近づかないで」

「私だけが梓眞あずまくんのすべてを知っているんだよ」

 …………

 ……


 267件もの通知が届いていた。




 こんなにもたくさんメッセージをくれるなんて、嬉しい!


 でも、授業中にどうやって連絡してるんだろう。


 とにかく、せっかく送ってくれたんだ、全てのメッセージに返信をしなければ失礼だ。返信しようとしたとき、花夜かよさんからメッセージが届く。


 『見て』


 顔をあげると、教室の入口に背中を丸めた花夜かよさんが立っていた。花夜かよさんの瞳には、尋常でない光が宿っている。急いで彼女のところまで駆け寄ると、無言で手を引っ張っぱられる。


 花夜かよさんに手を引っ張られながら、俺は廊下を歩く。彼女の手は冷たく、細い指が俺の手首に食い込むように強く握っている。彼女の後ろ姿には、一見普通の女子高生のような姿と、どこか不気味な雰囲気が交錯していた。無言のまま連れられ、俺は彼女の意図が全く分からず、不安と期待が入り混じる心情で歩き続ける。


 階段を下り、暗くて狭い廊下を曲がり、誰もいない教室の前で立ち止まる。彼女は扉を開け、俺を中に引き入れた。教室の中は薄暗く、静寂が支配していた。




 花夜かよさんは振り返って涙を流しながら怒ってきた。彼女の表情は怒りと悲しみが混在し、その瞳は不安定に揺れていた。


「どうして! 連絡してくれないの!!」


 彼女の声は震え、その手は小刻みに震えている。彼女の叫びに教室の静寂が砕かれ、俺は一瞬、どう対処すべきか迷った。


「授業中は、勉強に集中しないといけないので」


 俺は、ハンカチを花夜かよさんに渡しながら落ち着いて答えた。しかし、花夜かよさんの叫びは止まらない。花夜かよさんの声は次第にヒステリックになり、瞳には怒りと恐怖が交錯している。


「ほかの女の子と連絡してたんでしょ!!!!」


「いや、俺は本当に授業に」


「そんなに言うなら、RINE見せてよ!!!!」


 花夜かよさんの言葉に込められた不安と疑念が、空気をさらに重くする。証拠を提出するべく、俺はスマホを取り出し、花夜かよさんに見せた。


「あれ、私の連絡先しかない……本当に……」


 花夜かよさんの表情が一瞬、驚きと安堵に変わった。しかし、すぐにその目には涙が浮かび、彼女の手が震えながらスマホを返してくる。


花夜かよさんが悲しむと思ったから、連絡先は全部消しました」


梓眞あずまくん……だいすき」


 花夜かよさんの声はかすれ、感情がこもったものだった。花夜かよさんは再び俺に抱き着いてきた。彼女の体はまだ少し震えているが、彼女の握る力が徐々に落ち着いていくのを感じた。


花夜かよさん、授業はちゃんと受けないとだめですよ」


梓眞あずまくんって真面目だね。そんなところもだいすきだよ」


 真面目と言われることは多かったけど、それを良いと言ってくれたのは花夜かよさんが初めてだった。彼女の言葉に、心の奥が温かくなるのを感じた。花夜かよさんは俺に初めてのことをたくさんくれる。


梓眞あずまくん。ずっと、ずっと一緒にいようね」


 花夜かよさんの言葉には、どこか不安定で切迫したものが含まれている。その声は、花夜かよさんの内なる狂気を垣間見せるようだった。花夜かよさんの言葉に応えるように、俺は静かに頷いた。


「もちろん、花夜かよさん」


 花夜かよさんの顔には再び微笑みが戻り、その笑顔が一瞬、俺の心に安心感をもたらした。しかし、その裏にはまだ、深い闇が潜んでいるのを感じた。


「他の子に近づかないって約束してね。破ったら、私……耐えられない」





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