吉成トモ子とその家族たち

伊賀ヒロシ

第1話 吉成家の構成図

____また今日も目の前にはセミの抜け殻が三つ。

そしてその先に見えるは、変死体の死体だけがない三人分の衣服のみ。

きっと無理やり殺されそうになり衣服を剝がされたんだろう。


というのは冗談で、これが我が家の生存確認に近いお約束。


・・・いや違うな・・・。元気度を確かめる為の検査みたいなもの。


___それが毎日の我が家の夜の脱衣所の光景である。


私以外は全員男の”吉成家”。


夫・吉成木一(きいち)会社員(46歳)を筆頭に、私・トモ子パート(42歳)、長男・木之助 小学4年生(きのすけ9歳)、次男・木治郎 小学1年生(きじろう6歳)の4人家族。


昔の家族は父親の一文字を子供の名前に入れると幸せになれると信じていたようで、我が家も幸せになる為にその習わしを真似てみる。

そして考えてみたのだが、木一の「一」を入れてしまうと兄弟同士でどっちが兄か分からなくなるという複雑な理由で、「一」は却下となり、「木」が選ばれた。


そして見事に長男が生まれ名前を「木之助・きのすけ」とする。

更に長女を狙ってみたが駄目で、次男「木治郎・きじろう」が生まれる。

万が一、娘が生まれたら名前は決まっていた。その名も「木子・きこ」だった。

やはり女の子には「子」だよねーという単純な理由からだ。

なんとなく古臭い名前に見えるが最近の世の中の名前、そうです「キラキラネーム」というのが二人共好きではなく、ならばいっそ昔風にしようという事で息子達の名前が決まっていった。

更には二人でじゃんけんにより、木一さんが勝ったら「漢字二文字」、私が勝ったら「漢字三文字」となったのである。木一さんは自分の名前が漢字二文字の為、俄然二文字狙いだった。しかしながら・・・そうです、木一さんには申し訳ありませんが、私がじゃんけんに勝ったので有無を言わさずに息子達の名前は漢字三文字になったのである。これが我が家が常に円満である為の秘訣である。

ただ、木一さんの意見も取り入れようと二人で話し合い、「助」と「郎」はやっぱり外せないなーという事でこの名前になったのである。

ちょいとややこしいが我が家的には大正解の名前である。


簡単に言うと、家族四人、とにかく明るく元気に育てよう。

そして家族は皆がフィフティー・フィフティーでいようというのが我が家のポリシー。その為、我が家全員の呼び名には全て「さん」が付く事になったのである。


「木一さん」「トモ子さん」「木之助さん」「木治郎さん」のように・・・。


夫婦二人を除いて息子だけの名前を見ると・・・そうです。歌舞伎役者のような名前になっている。とても「さん」が似合う名前だと夫婦で名前を付けたくせに、かなり自信ありげで高貴な感じの名前になったのである。

ただ、色んな所で「さん」が飛び交う我が家、行く先々で不思議がられ、笑われる事もしばしばある。

しかし、我が家のモットーは笑いに溢れている事。

だから笑われても気にもならない。寧ろ、最高に嬉しくなったりもする。


そして最初に話した脱衣所の話。

これに関して言えば、始めのうちは私も脱いだ服くらいはちゃんと広げてから洗濯機に入れて下さいと頼んだのだが、次の日から男子三人が私の言う事をきちんと守った為に、脱衣所から「抜け殻」が消えたのだ。

それを見て思った・・・。なんとなく寂しくもあり、面白く無くなったと。

これでは三人のキャラクターがいきてこないと思った私は、結局はその脱ぎ方を見て、私自身が楽しんでいたんだとその時に気付いたのである。

日によって違う脱ぎ方を見ては彼らの元気度を確かめられていたからかもしれない。

脱ぎ方が汚いと元気だなーと思い、まあまあ綺麗だと勢いよくお風呂に入っていかなかったんだと察すると、どこかしら具合が悪いんじゃないか?と思ったりもする。


結局、最終的には木一さん、木之助さん、木治郎さんに頼んで今まで通り、脱ぎっぱなしの脱ぎ散らかしをお願いしたのだ。

次の日から三人ともお風呂に入る時にはきちんと「抜け殻を」作ってくれた。

やっぱりこれが無いと楽しめない。

これを片付けてこそ、楽しくいられると分かったのである。

そんな感じで我が家はいつも笑っていられる楽しい家族なのである。

これこそが「吉成家」・・・の極意なり。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る