第2話
このままではダメだ。という思いから、自分が新人時代に使用していたメモ帳を久しぶりに手に取る。当時の記憶が思い出されて少し苦しくなるが今はそんなことは言ってはいられない。
正直、私は人よりも仕事の覚えが悪かった。だから一言も説明を漏らすわけにはいかない。と、とにかくノートになんでもメモを取っていた。それは担当業務である事務職の一連の流れや、細かいタスクにも渡る。なんどもなんども読み返したその表面はボロボロだ。
なにをするにもこのノートに頼っていたな。ついつい手を止めて、当時の思い出を振り返る。新社会人、初めての事務作業。右も左も分からず戸惑う私を救ってくれたのが、このメモ帳だ。
業務フローに従って作業を進める。失敗があればその度にメモ。そうやって、少しずつできることを着実に増やしていった。上司からの説明やアドバイスの他に一言日記も書いてたっけ。そう懐かしい気分に浸りながらページをめくる。
ノートには、ビッシリと文字が書かれていた。特に重要だと思われる部分にはマーカーが引かれ、所々に雑に書き取った文字が見える。あぁ、思い出した。確か、この時は上司の説明が早すぎて焦っていたのだった。
上司から、まだメモなんて取ってるの?はやく覚えてね。と注意を受けたことを思いだした。 慌てて周りを見渡すと、確かにノートと睨めっこしているのは、私だけだった。みんな業務内容が完璧に頭に入っていて、もう次に進んでいる。それなのに私は…
そこからのノートには走り書きや意味の分からない羅列が増えていった。ミスをしないために!と大きく書かれた下に続く文字はない。
やっと見つけた営業フォローという単語。しかし、そこにも具体的なアドバイスはなかった。「努力する」「頑張る」といった意味のない言葉が並んでいるだけ。
これ以上、後輩である高瀬君や上司にみっともない姿を見せたくない。そう思って行動したのに、何の成果も得られなかったな。そう一瞬、暗い気持ちになった。だが「過去の自分が何とか食らいつこうと必死」な姿を発見できたのは大きな収穫だった。確かにメモはひどいものだ。しかし、こんなに頑張ってたんだな。という気持ちと、あの時よりも成長した実感が湧き少し自分を褒めたい気分になった。
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