第六幕:策略と葛藤

168年、張奐こと上杉謙信は凱旋したが、その背後には漢帝国の政治的混乱が渦巻いていた。桓帝の崩御後、霊帝が即位し、竇太后が政務を代行するなか、太后の父である竇武が大将軍に任命されていた。竇武は太傅の陳蕃とともに、宦官勢力を一掃する計画を進めていたが、この計画は宦官曹節らに漏れ、彼らが先手を打つ形で動き始めていた。


張奐が都に戻ると、宦官たちが天子の名を借りた偽の詔を示し、そこには「竇武を討て」と書かれていた。張奐は一瞬困惑し、内心で抵抗感を覚えた。宦官との癒着を嫌っていた彼にとって、これは非常に受け入れ難い命令だったが、外にいたため政局の詳細を知らず、やむを得ず命令に従うことを決意する。


「承知いたしました。」


張奐は冷たくそう言い、竇武討伐に向かった。竇武は自ら命を絶ち、陳蕃も捕えられて獄中で死んだ。この結果、張奐は功績を称えられ、少府から大司農へと昇進し、侯に封じられる。しかし、張奐はこの栄誉に耐えられず、宦官に加担したことを悔やみ、印綬を返上する決断を下した。


「ご辞退申し上げる。」


董卓はその様子を見て、張奐の決断に驚くと同時に、自らの野心を燃やし始めていた。位階と権力の匂いに敏感な董卓は、皇帝に絡んで国政に影響力を持つことに興味を抱いていた。


169年の夏、帝座の軒に青蛇が現れ、雹と落雷が大地を裂いた。この異常気象を受け、張奐は上疏し、竇武と陳蕃の名誉回復を求め、党錮の禁の解除を訴えた。しかし、宦官たちはこれを阻止した。張奐は太常に任命され、九卿の一員として礼儀や祭祀を掌るようになるも、宦官の陰謀によって投獄されることとなった。数日後に釈放されるが、冤罪の代償として3ヶ月分の俸禄を差し出すことを余儀なくされた。


「まるで茶番だ…」


張奐は、宦官に取り入らず、正義を貫いた結果、禁錮処分を受け、故郷に戻ることを余儀なくされた。だが、彼はまだ挫けることなく、南匈奴や烏桓との連携を模索し、次なる戦いに備えようとしていた。


「我々は、この地を守り抜くのだ。」


張奐の言葉に部下たちは力強く頷き、次なる戦いの準備に取りかかった。


一方、草原に目を移すと、檀石槐こと武田信玄もまた、大きな試練に直面していた。彼の息子和連の未熟さが原因で、部族内に不満が高まり、内部分裂の危機に瀕していた。信玄は和連を厳しく叱責する。


「和連、お前はまだまだだ。民の信頼を得るには、己を変えねばならぬ。」


「父上、どうすればよいのでしょうか?」と、和連は困惑した表情を浮かべて尋ねる。


「まずは、民を思う心を持て。裁きは公平でなければならぬ。それができなければ、誰もお前に従うことはない。」


信玄の厳しい言葉に和連はうなだれたが、背後に控える阿達(あたつ)と賈生(かせい)が信玄の元へと歩み寄り、策を練り始めた。


「檀石槐様、和連様の権威を高めるには功績が必要です。部族内の不満を鎮めるためにも、南匈奴や烏桓との戦いで和連様に勝利を収めさせるのが得策かと。」と阿達が提案する。


「賢明な策だ。賈生、どう思う?」信玄が尋ねる。


賢者である賈生は一瞬思案し、信玄に頷いてから慎重に答えた。


「檀石槐様、和連様に戦功を立てさせるべき時です。具体的には、先鋒として戦いに挑む機会を与えるのが適切でしょう。南匈奴と烏桓の動きに対抗し、功を立てれば、民衆の信頼を取り戻せるでしょう。」


信玄は息を吸い込み、決意を固めた。


「和連、お前に先鋒の任務を任せる。南匈奴や烏桓との戦いにおいて、先頭に立て。」


「心得た、父上。期待に応えてみせます。」和連は威勢よく返答したが、その自信がどこまで本物かはわからなかった。


和連は阿達と賈生の助けを受け、戦いの準備に取りかかる。阿達が兵を訓練し、賈生は戦略を練り上げ、和連の行動を慎重に導いた。


「まずは、敵の動向を探るために偵察部隊を送るべきです。」と賈生が進言する。


「それが賢明だ。すぐに編成せよ。」和連が命令を下した。


信玄はその様子を見守りつつも、内心では息子の未熟さを心配していた。


「歴史は繰り返すのか…」


和連が率いる部隊が進軍の準備を進める中、信玄は部族の民たちに向けて語りかけた。


「和連が戦場に立つ姿を見て、我々は一つになろう。彼が先頭に立ち、勝利を収めれば、部族に新たな誇りが生まれる。」


民衆は信玄の言葉に勇気づけられ、和連を応援する声が広がった。


「和連様、私たちはあなたを信じています!」


「必ずや勝利を掴んでください!」


和連は民衆の期待を背に、戦いへの決意を固めた。


「皆の期待に応えるため、我が力を存分に発揮してみせよう。」


信玄は若き日の自分を思い出しながら、息子に願いを込めた。


「和連よ、己の力を信じ、全力で戦うのだ。」


草原の風が吹き抜け、戦乱の時代に生きる彼らの物語は、次なる局面を迎えようとしていた。


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