人体狂想曲

八雲 那覇斗

第1話

目を開けると見覚えのない部屋にいた。殺風景な部屋でこれといって物が置かれていない。

しかし、その部屋には狂気を感じる"それ"があった。

どす黒い液体が床や壁に飛び散っていて、強烈な鉄の匂いが鼻を突く。考えなくても、感覚的に血だと分かる。

「あれ?起きてたんだ」

聞き覚えのある透き通った声だが、いつもとは違って甘えたいという感情が上乗せされている。

「ごめんね?君が逃げないように縛った上に、口にガムテープなんか貼っちゃって」

彼女は白鷺透(しらさぎとおる)、純白という言葉が相応しい声とビジュアルの美少女だ。

「君がいけないんだよ?学園で私に告白なんてしちゃうから...好きになっちゃったの」

訳が分からなかった。告白して好きになってくれたらなぜ拘束、監禁されるのか。

「ここに連れて来たのはあるものを聞かせたいからなの、ちょっと待ってて」

そう言うと彼女は部屋を出た。

数分後、カチャカチャと音を立てながら部屋に入ってきた。持ってきたのは"工具箱"と"人間"だった。

「お待たせ!流石に重いよこれ!」

そう言って肩に乗せた人間を床に放り投げると、ドンッ!という鈍い音と共に床が沈む。

「この人ね、元カレなの、君みたいに私に告白してきてくれた人」

確かに見覚えのある顔だった。それもそのはず、同じ学園の先輩だったのだ。

「でも最近飽きたから振ったの、そんな折に君が告白してくれたから、お礼として君を楽しませるためにこの人には犠牲になってもらったの」

彼女は余りにも物騒な発言をする。しかし、それを裏付けるように、その"先輩だった物"は呼吸もしなければ瞬きもしない。

そして、死体を目の前に置き、部屋の照明を最小限の明かりに切り替える。

「じゃあ始めよっか、君と私の2人だけのコンサートを」

耳元でそう呟いた彼女は工具箱を開け、ガチャガチャと音を立てた後、何かを取り出す。

「まずは彼の髪の毛を切ってあげよっか」

それはとても大きな鋏だった。学校で使われるようなサイズよりも一回りほど大きい。

そして、彼女は鋏で死体の髪を切り出す。

ジャキッジャキッジャキッ

美容院で聞くようなテンポのいい音ではなく、ゆっくりと、味わうように髪を切っていく。

「この乾いた音、とっても良い...まるで弦楽器のよう...。」

豪快に切られた髪の毛は、パサパサと音を立てて床に散っていく。

そうして一頻り切り終わると、次は死体の口を開け、鋏からペンチに持ち替える。

「閻魔様って嘘つきの舌を引っこ抜くらしいんだけど、あれってどんな感触だと思う?」

そう言うと、死体の分厚い舌をペンチで挟み、引っ張っていく。

ミチミチミチッブチッ!

肉が引き裂かれる音がしたかと思えば、最後には断末魔とも言える断裂音を立てる。

もう既に精神が疲弊しきった所で、今度は工具箱からハンマーを取り出す。

「ねぇ、人間の肉が砕ける音って聞いたことある?とっても爽快な音だから聞いててね」

もはや狂気という言葉では片付けられなかった。

「ふんっ!」

グシャッ!ミチッ!グチャッ!

骨と同時に人間の肉まで粉砕していく音は、お世辞にも爽快とは言えず、不快極まりないものだった。

「あっははは良い音!でも肉の音と骨の音が混ざって、ちょっと不協和音っぽいんだよねー」

今度はハンマーを置いて死体の指を摘み、パキパキと骨を慣らしていく。

「この子気味よく鳴る骨の音も良い...」

ポキッポキッポキッ

自分でもよくやる、骨を鳴らす音だ。先程とは違い聞いてて不快感を感じない音だ。

「でもこう言う音も悪くないよ、ねっ!」

急に力んだ彼女の声と同時に、ゴキッ!という勢いだけは凄まじい不快な音が聞こえてくる。

「あっははは!見て!指が変な方向に曲がっちゃった!もっとやっちゃお!」

ゴキッ!ゴリュ!ボキッ!

そうして、死体の手の指は全て在らぬ方向に曲がった。

「ねぇ、今度はエッチな音を聞かせてあげる」

彼女が次に取りだしたのは医療用のメスだった。何をするかは単純明快で、死体の腹を大きく縦にスーッと割いた。

「見て、死んだばっかだから綺麗な内臓だよ」

余りにも鮮やかな赤みを纏った内臓たちが、そこにはあった。

「少し待ってね」

彼女は雑な手付きで心臓を摘出すと、目の前に突き出す。

ボタボタボタボタボタ

勢いよく心臓から漏れ出る血液は、床に当たって当たりを濡らす。

「命の源が人間の外に出るとこんな音がするんだよ?勢いよく床に落ちる時の音は、人間の生命力を思い起こさせてくれるんだ」

ピチャッピチャッピチャッ

心臓からほとんど出きった血液の残りが滴となって、虚しく存在感をアピールする。

「これで終わりじゃないんだよ?心臓の役割はこれからだから」

彼女は血液の抜けた心臓を耳元で揉みしだく。

クチュクチュクチュ

「どう?とってもエッチじゃない?」

僅かに残った血液と、張りのある心臓の内壁が泡を立て厭らしい音を掻き鳴らす。

「あっはぁ、すんごい楽しいね!本当はもっと楽しみたいけど、彼の体ももう飽きちゃった」

そう言うと、今度はこちらに狙いを定める。

「だから...次は君の音を聞かせて🎶」

そう言うと彼女はアイスピックを取り出し、頚椎をグサッと一突きする。

そうして僕は、彼女の人間楽器と成り果てた。

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