終章

終章 私の花婿

 ヴィクターとリリィは寝室へ戻ってきて、籠の中で丸くなって眠っているニッパーをしばらく見つめていた。銀の鈴がついた首輪を嵌めたニッパーは、リリィによって作られた寝床で安心しているようだった。


「見ていて飽きないな」

「あなたもそうでしたよ?」

「でも、今の僕は」

「あら、今でもそうですよ」


 リリィはヴィクターの瞳をしっかり覗き込んだ。


「ずっと見ていても飽きない、面白い方です。ヴィクター様は」

「そんなに僕のことをずっと見ていてくれたのかい?」

「ずっと見ていました。あなたにプロポーズされた、あの日から」

「そうか」


 ヴィクターはリリィの腰に手を回す。ほのかな体温が二人に共有された。


「それでは、もっとよくお互いのことを知りたいな」

「私もです」


 リリィはヴィクターに身体を寄せる。夜着に着替えていたリリィの身体の輪郭がはっきりとヴィクターに伝わる。


「それでは」


 ヴィクターはそのままリリィを抱き上げ、寝台へ運んだ。


「ちょっと、ヴィクター様……」

「ふふふ、ようやく君を抱き上げられた」

「確かに、いつも私が運んでいましたね」


 寝台の上で二人はクスクスと笑った。


「さて、随分と遠回りをしてしまったな」

「思えば長い結婚式でしたね」


 ヴィクターはリリィの肩に手をかける。


「怖くないかい?」

「いいえ。私、あなたを信じていますから」


 リリィはヴィクターに体重を預ける。それから顔をあげ、リリィはヴィクターの瞳を見つめる。


「ありがとう、僕のお嫁さんになってくれて」

「こちらこそ、私を選んでくれてありがとう」


 それから、どちらともなく二人は唇を重ねた。甘く、優しい時が二人に刻まれていく。ヴィクターは寝台にリリィを横たえ、それから更に彼女を貪った。


「ヴィクター……」

「ん、素敵だよリリィ……」


 リリィの夜着をはだけさせたところで、ヴィクターはぴたりと動かなくなってしまった。


「どうしたの?」

「……この先どうしていいのか、わからない」


 予想外のひとことに、リリィも固まってしまった。


「どうすれば、って、ええ?」

「だって、僕も初めてだから……」


 急に赤面するヴィクターに、リリィは吹き出す。


「あ、バカにしたな! いいだろう、僕は生涯リリィを愛するんだから!」

「違うわよ」


 リリィはそっとヴィクターの頬に触れる。


「私たち、結婚したばかりなのよ。ゆっくり行きましょう」


 ヴィクターは頬に触れるリリィの手を取る。


「……そうだな」


 それから二人は、ゆっくりと寝台に沈んでいった。


 ミストウェル国の夜は、ようやく始まろうとしていた。


〈了〉

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