異世界は帆船とともに

髙龍

第1話

藤堂隆文は長期休みを利用して趣味のヨットで海に出ていた。

「ふぅ。やっぱ海に出ているときが一番落ち着くな」

色々発展してきた社会ではあるが実に様々な問題を抱えていた。

こうして何もない海に出ればそんなことを忘れられる。

だが、そんなことを言ってられない事態に遭遇する。

天候はどんどん崩れ風が強くなり雨が降ってくる。

「おいおい。嘘だろ?予報じゃこんなこと言ってなかったのに・・・」

ヨット乗りとして気象情報には気を付けていた。

予報では晴天が続くと言っていたのに。

「とにかく対処しないと・・・」

言ってる間にも風はどんどん強くなり大粒の雨が降ってくる。

そして、波もどんどん荒れていく。

「マジかよ。ぼやいてても仕方ない。出来ることをしないと」

船首を波に向け帆をたたむ。

大きな波がこうしている間も何度も何度もヨットを襲う。

「まずいまずいまずい」

パニックになりそうな状況だが心を落ち着けて対応する。

だが、冷静になればなるほど打開する方法がないことを認識させられるだけだった。

そして、とうとうヨットは波に負け転覆してしまった。




「あれ?ここは・・・?」

真っ白い空間にいることに気がついた。

自分はヨットと共に海に沈んだはず。

「すまんのぅ。お主はわしのミスで死んでしまったんじゃ」

「うわっ・・・?」

いきなり話しかけられ悲鳴をあげてしまう。

「むぅ。そう驚かれると傷つくのだが?」

「す、すみません」

思わずそう謝ってしまう。

「主。船は好きか?」

「船ですか?好きですよ」

「そうかそうか。ならお主には船を1日1回生み出せる能力をやろう。それと、ステータスも苦労しないようにしてやろうかの?」

「あの?何の話をしているんですか?」

「悪い悪い。主が死んだのはわしのミスだと言ったじゃろ?蘇らせてはやれんが生活に困らない能力を与えて転生させたやろうと思っての」

「その辺を詳しくお聞きしても?」

「うむ。主が遭遇した嵐じゃが。わしのミスで起きたことなんじゃ。本当ならお主は死なないはずだった」

「つまりあの嵐は事故だったと・・・?」

「そうなるの・・・」

申し訳なさそうにそう言ってくる。

起きてしまったことを悔やんでもどうすることもできないだろう。

それに謝罪のつもりなのだろうが条件は悪くないんじゃなかろうか。

なにより船を1日1回生み出せるというのは悪くない。

「うむうむ。気に入ってくれたかの?」

「あれ?今、言葉に出してました?」

「いやいや。心を読ませてもらった」

仮にも神だ。

人の心を読むのもお手のものということなのだろう。

「そろそろ時間じゃな。お主の幸せを願っておるぞ」

その声を最後に意識が遠ざかっていった。

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