親友♂がある日女の子になってしまったようなんです。そこからはじまるSWEET DAY'S……え? ちょっと、スイートすぎません? 俺♂、親友とどう向き合ったら良いのでしょうか?

尾岡れき@猫部

第1話 どうやら親友(♂)が女の子になってしまったようなんです。



 ――男の子と女の子ではないと、結婚できないの?

 ――それは、やっぱりそうなんじゃない?



 ギシギシと軋むような音が響く。


 ――それって変じゃない?

 ――へ?

 ――ボクは、そこらへんの女の子より、たっ君と結婚したいって思うんだ。



(あの時は結婚の意味も分からないガキだったよな)



 ――たっ君はイヤ? やっぱり気持ち悪い……?



(気持ち悪いというか、そんなことを考えたこともなかったんだって。だってさ、さっちゃんの家のように離婚って選択肢もあり得るわけじゃん?)



 ――結婚とかよく分からないけれど。さっちゃんは親友マブダチだよ。

 ――親友ズットモってこと?


 当時の、自分なりの精一杯の気持ち。親友マブダチを、守るよって。寂しい想いなんかさせないよ、って。あの時の俺は真剣に思っていたんだ。


 ――そういうこと。


 幼いながらに、なんとか、そんな言葉を絞り出していた。

 うつらうつら。

 そんな夢を懐かしいと思いながら。


 不協和音。


 軋むベッドのスプリングを耳にしながら、俺はまたうつらうつら――遠い昔の約束をBGMに。、男友達と交わした言葉をノイズ交じりに、繰り返し再生し続けていた。




■■■




「んっ……んっ」


 ギシッとベッドのスプリングが軋んで。その音と一緒に、さっちゃん――紗月さつきが吐息を漏らす。


 うっすら目を開けた。

 ふぅっ。

 また、さっちゃんの息が耳朶をくすぐる。


(……寝ている時、さっちゃんって甘えん坊だよな)


 野郎同士で何を、って思うけれど。もう、これも慣れ。むしろ、他の誰よりも気を遣わなくて良い相手だ。小学校2年生からお隣同士。遠慮もクソもない。


 うっすら目を開ければ、昨日の宴の残骸が広がる。ポテチの空き袋、空になった炭酸飲料のペッドボトル。そして、片付けを後回しにしたゲーム機。


 眼鏡をかけていないから、ぼんやりするけれど。 ――ふぁさっ。

 今度は、さっちゃんの髪が俺の耳をくすぐる。


(そろそろ、切り時なんじゃねぇの?)


 童顔でよく女子に間違われることが多い、さっちゃんだ。時々、振る舞う動作の一つ一つが、どの女子よりも女子力がある気がする。


「んっ……たっ君……」


 そう言って、無意識に抱きついてくるのも、いつものこと。

 ――むにゅっ。


 俺は、抱き枕じゃないんだって。

 ――むにゅ。むにゅっ。


(……え?)


 目をパチクリさせる。

 吐息。

 息遣い。


 いや、心臓の鼓動。これはさっちゃんの――それ以上に、俺の心臓の鼓動がばくばく打っていて、戸惑ってしまう。


(……落ち着け、落ち着け。さっちゃんは男だ。変な感情は抱くなって)


 腐女子思考は姉ちゃんだけで良い。


「……たっ君が降参って言うまで……ボク……容赦……しないからね」


 勘弁してくれって思う。さっちゃんレベルのトップランカーを相手にするとなれば、るかられるか。まぁ、もっとも俺も廃ゲーマーの端くれとして、手は抜かないけどな?


 いや、でも……?

 それにしても――。


(……俺の聞き間違い?)


 なんだか、さっちゃんの声、少しキーが高くない? なんて言うか、女性的っていうか。あれぇ? え? あれ?


(ちょっと待って……これ、え?)


 少なくとも、もう少し男性ホルモンがを感じさせる体つきだった気がする。それが、なんて言うんだろう。残念ながら、女性を判断するには、母ちゃんと姉ちゃんしかいない俺だ。あんな人外と比べるのも大変恐縮だが、今のさっちゃんは――本当に可愛い。


「……たっ君……」


 目がぱっちりと開く。

 やっぱり、心なしかキーが高い気がする。


「……さっちゃん?」


 眼鏡を探そうとして。







 ――むにゅっ。




 柔らかい何かに触れて。



「――っ」


 裸眼で。

 ぼやけているのに。


 さっちゃんが、言葉にならない言葉を飲み込むように。

 さっちゃんは息を呑んだ。顔を真っ赤にしながら、両手で胸を隠す。それだけは、しっかりと見える。


「ァ――」


 なんて間抜けな声を、俺は出しているのだろうか。

 この時の俺は、さっちゃんに気の利いた言葉を。たった一つもかけることができなかったんだ。










▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥



 ここで質問なんだけれど……。




 ――どうやら親友(♂)が女の子になってしまったようなんです。俺(♂)、親友とどう向き合ったら良いのでしょうか?

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