宇宙夜話

友未 哲俊

第1話 宇宙の起源

 もちろんです。 —— えぇ、世の中には宇宙に興味のある人ばかりが暮らしている訳ではありません。大方の人たちにとっては星を見上げることより、今日の献立や、いま携わっている仕事について考えることの方が大切な問題ですし、実際、そうでなければ生きてはいけません。とはいえ、逆に、生まれてから一度も宇宙のことなんか考えたこともないという人も、また稀でしょう。だって、何をしていても見上げればそこには空と太陽がありますし、夜になると月が現れ星が瞬くからです。人の死や新しい生命の誕生に出遭うたび、わたしたちは、自分たちの起源や、それを生んだ宇宙の正体に思いを馳せずにはいられなくなります。

 ここでは、宇宙や科学の専門家でもなければ、特に詳しいわけでもない一人の空想家が、自分よりもっと何も知らない幼い後輩たちや、たまには宇宙に目を向けてみるのも悪くないと考える宇宙音痴の大人たちが少しでも驚いて下さることを願いつつ、近年の宇宙に関する初歩的で根源的な知見のほんの一端をご紹介してみたいと思います。


          1.宇宙の起源


 宇宙は、いつ、どのように始まったのでしょう?「138億年前に無限に小さい一点が大爆発して始まった」というビッグバンの話は皆さんもどこかで聞いたことがあるはずです。ですが、わたしは納得できませんでした。もうずっとずっと昔、中学生だったわたしが図書館で借りた本の中で初めてこの話を知った時、わたしはこの漫画チックなイメージに本能的な違和感を覚えずにはいられませんでした。物事に始めがなければならないなんて、いかにも人間的すぎる発想で、少しも本当っぽく思えなかったからです。じゃあ、と、わたしはその文章に尋ねました。それはなぜ1億年前やあしたではなく、138億年前のまさにその瞬間に起らなければならなかったの?それまで何も無かった所から突然始まったというなら、「無から有は生じない」という科学の大前提は間違いだったのか、と。

 そうですね、無から何の理由もなく突然何かが生じたとしても、わたしは今ならそんなに驚きません。宇宙とはそういう性質のものだと認識を改めればよいだけの話だからです。同様に、1億年前やあしたではなく、宇宙の誕生が本当にたまたま、全く偶然に138億年前だっただけのことだと認めてしまえばビッグバンだって起きなかったとは言い切れません。考えてみれば、宇宙が永遠の過去から存在し続けていたと考えるのも、同じくらいあり得ないような馬鹿げたお話です。結局、科学は「なぜ」そうなのかと因果律を追うものではあるのですが、最後の最後には「だってそれが現実なのさ」と了解するしかなくなってしまうのではないかという気がしてなりません。 ビッグバンは、そもそも、宇宙が膨張していることから、それを逆算する形で生れた学説です。「いま膨張しているのだから、過去にはもっと小さかったはずだ」と考えます。宇宙の膨張とは、全ての銀河同士が互いに遠ざかって行く現象であり、ドップラー効果による光の赤方変移から、銀河はどれも互いに遠ざかり続けていて、その速度は遠く離れた銀河ほど速くなることが観測されています。これは脹らんで行く風船の表面上に描かれた斑点の動きにそっくりなため、空間そのものの膨張だと考えられているのです(ただし、同一銀河内の天体同士は空間の膨張速度より重力によって引き合う力の方が強いので遠ざかって行かないのだとされています)。

 今日、科学者の多くは(ただし、全てではありません)、このビッグバン理論を支持してはいるものの、宇宙誕生0秒目の世界については現代の科学法則を当てはめようがないため、世界はなぜ始まったのかという最も根源的な問題は結局、探りようのないお手上げ状態のまま残さてしまっています。「始まり」は本当にあったのでしょうか?ひとつだけ、科学ではどのような通説にもたいていの場合、異論や異見があり、どれほど荒唐無稽な理論に見えても、宇宙そのものよりはずっとあり得そうな話だと言えるのかもしれません。

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