第29話 聖地

 ヒュドラが通った道はいつの間にかネジル教徒の聖地になった。

 毒浄化の魔道具を持って、その道を辿るのが、儀式になったようだ。

 その道は浄化の道そう呼ばれている。


 エゴ神は浄化の神で定着し始めた。

 うん、好きにやってくれ。


 そういえば、人気はないが、味噌も完成した。

 醤油より楽だろうから、もっと早く持って来いよと思わないでもない。


「こんなのでよろしいのですか。言っては何ですが泥みたいですね。口の悪い信者は糞と言ってます」

「良いんだよ」


 味噌汁を作った。

 うん美味い。

 久しぶりの味だ。


 ネジル教の生産物に味噌の他に紅茶が加わった。

 醗酵を邪気でやるらしい。


「美味いのか?」

「高級な物と比べたら味は落ちますが、短期間で大量に作れます。庶民の味ですね」


 そう言えば、邪気に頼らない醤油と酒の生産もやっている。

 あっけなく完成したのが納豆。

 豆を茹でて藁に包んだだけで出来た。

 簡単だな。

 だが納豆は俺しか食べない。

 匂いが駄目らしい。

 まあ日本人も半分ぐらいは食べないと思う。


 醤油と酒はできたが、まだ味が安定しない。

 とくに酒は駄目だ。

 邪気を使わない酒造りは大変なのだと分かる。


 醗酵ならヨーグルトがあるな。

 牛乳さえあれば出来る。

 もっともふつうの作り方でもヨーグルトは簡単だ。

 殺菌と温度管理に気を付ければ良い。

 邪気を使うまでもない。


 邪気を使った玉子と魚の殺菌は大忙しだ。

 生魚は美味いからな。

 海の方では生魚は酢で締めて食べるらしい。


 サバイバル訓練で知った。

 邪気で虫を殺すのは商売になる。


 家の中の寄生虫を皆殺しにできるからな。

 試しに俺がやってみるか。


 ネジル教徒の宿屋に行って、さっそく始めた。

 部屋中に薄く邪気を放ち、虫を殺す。

 これで大丈夫なはずだが。


 何日か試したところ好評だった。

 宿に泊まった客で虫に刺されたひとは皆無らしい。


「宿に泊まる時全身を黒気で清めるサービスも始めました。これで寄生虫撲滅です」


 邪気で清めるってとんだ邪教だな。

 でも寄生虫撲滅は素晴らしい。

 ネジル教徒ではない他の宿屋にもネジル教徒へ寄生虫除去の注文が入り始めた。


 ある司祭が無料奉仕を始めた。

 一般家庭の寄生虫を殺して回るのだ。

 無料だが寄付があれば断らない。


 貴族の遠出にも呼ばれるようになった。

 虫いぶしの香を好まない人もいるからな。

 それに熱病に掛かったら邪気で治療して貰える。


 信者が次々に増えていく。

 俺もどれぐらいの数の信者がいるのか分からない。

 見分け方は簡単だけどな。

 邪気を持っているのはネジル教信者か、邪教の幹部だけだ。


 シャリアンヌ、フラッチェ、ディータは仲良くなった。

 3人で買い物とかよく出掛けるらしい。

 ボッチじゃない。

 ちょっと寂しいけどな。


 女の買い物に付き合うつもりはないから良いけど。


「ブタキム、私が正妻でいいのよね」

「まあそうなるか。だが順列は付けない。嫌なら去れ。魔力棒の味を忘れられるのならな」


「忘れるわけないですわ」

「私も無理ね」

「ディータは、順列は気にしません」


「ライラさんにも良く言い含めて下さいまし」

「ライラと話さないとな。4人で話すか」


 二人だと感情的になるからな。

 ライラを呼んだ。


「何の用?」

「一度本音で話したかったんだ」


「今更謝られても許せないわ」

「そうだろうな」


「ライラさん、あなたはもう赦しているのではなくて。目に憎しみの心が見えません」

「憎んでるわよ。殺したいぐらいに。レイプされたのよ」

「私もですわ」

「あなたは赦したの?」

「はい。運命からは逃れられません。クズでゲスな男ですが。なんとゆうか安心するのですわ」

「ああ、それは私も感じる」

「ディータもです」


「私は安心などしない」

「ブタキム様、ここからは女同士で話し合いをさせて下さいまし」

「別に良いけど」


 しばらく、4人で話し合ったようだ。


「赦したわけじゃないけどあなたの本質を見極めることにしたわ。最低のゲスでクズの色魔。でも確かに何かが違う」


 ギクっとした。

 悪魔憑きとばれたら殺される。


「あー、俺はクズで最低だ。だが一度手にした女は手放さない」

「そういうことにしておくわ」


 ライラが去った。


「シャリアンヌ、ライラに何を話した?」

「あなた何者?」


 ギクっとした。


「ブタキムだよ」

「いいえ、最初は影武者だと思ったのですが。ブタキムの記憶を完全に覚えているようですね。昔の話をしても齟齬がありません」

「だからブタキムだよ」

「フラッチェさんはともかく何でディータに手を出さないのですか」

「出しているけど」

「直接ですわ」


 あかん奴だ。

 仕方ない。


「一度死んだんだよ。それで色々と悟った」

「死んでから生き返るのは聖人ですわね。さすがネジル教の教祖と言いたいですが。日々の言動が悟ったとは思えないですわ」


 鋭いな。


「だが俺はブタキムだ」

「ええ、いつか話してくれることを願ってますわ」


 さすが、表情から裏を読むような貴族。

 どうにも誤魔化しが効かないようだ。

 俺の破滅の時は近いのかもな。

 ライラ、シャリアンヌ、フラッチェ、ディータのこの誰かに告発されるのならそれも良いと思う。

 その時は受け入れよう。


 俺が死んだ後にネジル教徒がどう後始末するのかを書いた。

 たぶん俺が死んでも邪気は消えないだろう。

 供与は消えるかも知れないが試してないことがある。

 オリジナルの供与スキルを誰かに供与する。

 死ぬ前になったら試してみよう。

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