第31話:謁見・佐藤克也視点

「私たちの王が勇者王陛下に会うと言っておられます」


 僕たちは正統な王と会う事になった。

 最初に家臣同士が話し合って、会うための条件を話し合ったそうだ。

 その間僕と氏神様たちは、村の周りの魔獣を説得した。


 やる事はいつもと同じだ、豆まきです。

 殺すのは絶対に嫌なので、少しだけ痛い思いをさせてしまった。


 おどかすだけで言う事を聞いてくれたら良いのだけど、強い魔獣ほど実際に戦わないと認めてくれないのです。


 僕たちが村の周りで魔獣を説得していると、村の城壁に人が集まった。

 顔を引きつらせて見ていたが、直ぐに使者の神使が戻って来た。


 『今直ぐ会わせてもらいますので、おどかすのは止めて欲しい』と王が言っているというが、僕はおどかしていないのに、変なの。


 僕たちは正統な王が住むという屋敷に案内されました。

 僕が主人になったお城とは比べ物にならない小さな砦でした。

 それでもこの村の中では1番大きな家でした。


 僕と13人の氏神様が先に部屋に入って高い所で待ちます。

 正統な王という人が僕たちの後から入って来ました。

 そのまま膝をついて僕たちに話しかけてきました。


「亡国の王、ハインリッヒと申します。

 勇者王陛下を召喚した愚王の宗家にあたりますが、我らは手を貸しておりません。

 連座で罰を与えるのはお許しください」


 何を謝っているのか僕には分りません。

 人の姿になったイワナガヒメを見ると、黙ってうなずいています。

 僕は話さない約束なので、分からなくても困らないのでしょうか?


「最初に話して聞かせたように、勇者王陛下は仁徳の君であられる。

 魔獣を支配下に置くのを見たであろう。

 できるだけ殺さないようにしているのを見たであろう。

 お前たちが連座で処罰される事はない、安心しろ」


 正統な王と話すのはイザナギと決まった。

 イザナミノミコトかアマテラスが話すと思っていたのに、なぜだろう?


 イザナギやスサノオノミコトはこの世界の人に偉そうな言い方をするから、ケンカにならなければ良いのだけれど。


「あり難き幸せでございます。

 玉座を奪われた力無き我らに国を任せてくださるという話ですが、条件があるのでしょうか、あるのなら先に教えていただければ、努力させていただきます」


「条件はただ1つ、仁徳によって民を治める事である。

 勇者王陛下が国を預けた者が暴虐な統治を行えば、勇者王陛下の名誉が損なわれ、歴史に悪名が残ってしまう。

 勇者王陛下の名を高めるような、善政で国を治める者が次の王に選ばれる」


「失礼を承知で重ねてうかがわせていただきます。

 勇者王陛下の寵愛を受けた王妃や、勇者王陛下の血を受け継いだ王子や王女でなくてもよろしいのでしょうか?」


「勇者王陛下はそのような事を考えておられない。

 だが、この世界にお供してきた我らは違う。

 勇者王陛下の血を受け継いだ方に引き継いでいただければよいと思っている。

 思ってはいるが、その通りなるかどうかは陛下の御心しだい。

 我ら家臣が強制する事はないから安心せよ」


「失礼な質問に答えてくださって感謝にたえません。

 では、私が孫娘を勇者王陛下の側に仕えさせていただきたいと申し上げても、失礼にはあたらないのでしょうか?」


「心配しなくていい、失礼にはあたらない。

 王が孫娘を人質に差し出すというのなら、よろこんで迎えよう。

 正統な王の孫娘に相応しい待遇で迎えよう。

 これまで王を詐称していた者の娘以上の待遇で迎えよう。

 勇者王陛下の威信を高めるための言動を評価する。

 勇者王陛下にそのような考えはないが、我ら家臣は違う。

 だが、勇者王陛下の寵愛を受けられるかどうかは、我ら家臣にも分からぬ」


 イザナギの言っている事が全く分かりません。

 ただ、イワナガヒメは嫌そうな感じを出しています。

 でも、途中で止めないので、僕の害にはならないのでしょう。


「では、私はこのままここに残らせていただきます。

 この村だけの空しい王位ではございますが、王を名乗り続けさせていただきます。

 私に何かあれば、長男に王位を継がせていただきます。

 孫娘と孫息子を勇者王陛下の元に預けさせていただき、忠誠の証とさせていただくと共に、勇者王陛下の後継者のふさわしい教育をお願いいたします」


「うむ、王の覚悟と決断を評価する。

 勇者王陛下は仁徳の君なので、実戦訓練以外の危険はない。

 次代の統治者にふさわしい武勇を訓練する時だけは危険だが、我らが側で守っているから、怖い思いをする事はあっても死ぬ事はない、安心しろ」


「重ね重ねの丁寧な説明、心から感謝いたします。

 ご厚意に甘えて更なる質問をする無礼をお許しください。

 孫娘と孫息子を預けさせていただくにあたり、身の回りの世話をする者を同行させてもよろしいのでしょうか?」


「かまわない、身の回りの世話をする従者だけでなく、護衛の同行も許す。

 次代を治める統治者に、心許せる護衛と従者は不可欠である。

 5人でも10人でもかまわない、少なくても多くてもかまわない。

 この村で出せるだけの人数をつけてよい」


「あり難き幸せでございます。

 このような場所にある貧しい村なので、多くの従者や護衛をつけてやる事はできませんが、勇者王陛下と家臣の方々の迷惑にならないようにいたします」


 ……正統な王とイザナギの言っている事が全く分からない。

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