第21話:閑話・お願い・イワナガヒメ

「何とかなりませんか、克也が胸を痛めているのですよ!」


「女の子に優しくしたいと言う気持ちは、同じ男としてわかる。

 男は女の子を助ける者だという心意気は立派だと思うが……」


 スサノオノミコトが分かり切った愚かな事を言う!


「その女は克也を利用しようとしているのですよ!」


「そんな女の身勝手で愚かな所も受け止め、胸に抱くのが男の度量だ」


「そんな愚かな度量など克也には不要です。

 暴れるしか能のないスサノオノミコトと、克也を一緒にしないで!」


「イワナガヒメ、克也を大切に思っているのは貴女だけではありません。

 私たちも克也を大切に思っているのです。

 その大切さが少しずつ違っているだけで、想いはスサノオノミコトも同じですよ」


「申し訳ありませんイザナミノミコト、言葉が過ぎました。

 スサノオノミコト、言い過ぎました、ごめんなさい」


「いや、克也を大切に思う気持ちは分かる。

 この世界に来てようやく満足に動けるようになったんだ。

 好きにさせてやりたいと思って当然だ。

 問題は、克也が本当の心の底から女の子を守ってやりたいと思っているかだ。

 繁一や光孝の言った事に引きずられているようなら、気を付けてやらなければいけないとイワナガヒメは思っているのだろう?」


「はい、病院の中でしか生きてこなかった克也は、友達もいなかった克也は、毎日病院に来てくれて色々話をしてくれた、繫一と光孝に影響され過ぎています」


「イワナガヒメはそう言うが、人が両親や祖父母の影響を受けるのはよくある事だ。

 影響を受けているからと言って、やりたいと言っている事をじゃまするのは、それこそ克也の想いをふみにじる事になる」


「イザナミノミコトの言う事も分かりますが……」


「ここは克也のやりたいようにさせてやろうではないか。

 男の子として女の子を助けてやりたいと言うのなら、その通りにさせてやろう」


「スサノオノミコト、その女が克也を利用しようとしているのにですか?!」


「克也の害になるようなら、密かに殺してしまえばいい。

 克也と一緒にいる時に殺してしまうと、克也が気に病んでしまうだろう。

 城に戻った時に、病気にして殺してしまえばいい。

 親に会いに行った時に父親を自由にしてやれば、逆恨みして殺すだろう。

 私たちの手を汚さずともいつでも殺せる、気にしなくてもだいじょうぶだ」


「スサノオノミコト、貴男という人は……

 そのような事をしたら、克也にバレた時に嫌われてしまいます」


「汚い事は我がやるから、イワナガヒメは知らなかった事にすれば良い」


「ですが……」


「分かった、分かった、克也に嫌われるような事をしなければ好いのであろう?

 だったら女、シュテファニーが何かするまで好きにさせておけば良い。

 何かした時に、克也が危険になった時に助ければ良い。

 そうすれば我らが嫌われる事もない。

 克也に身体強化を重ね掛けしておけば、何があってもだいじょうぶだ。

 その上で、イワナガヒメが克也とシュテファニーの間にいれば良い」


「そうですね、私が常に間にいれば、何があっても盾になれますね」


「克也の望む通りにすると決まったら、後はどこに行くかだ。

 克也がかわいいと思う魔獣がいる所はさけるべきだろう。

 言い聞かせるのに失敗したら、豆をぶつけなければならん。

 今の克也だと、魔獣に豆をぶつけるのも辛いだろう」


「そうですね、今はスライムに豆をぶつけるのも嫌がっていますから」


「海はどこに行ってもクラゲと魚の魔獣がいます。

 陸もどこに行っても虫の魔獣と鳥の魔獣がいます」


「アマテラスの言う通りです、あれには私もおどろきました。

 病院育ちの克也が、あれほど虫を怖がるとは思っていませんでした」


「看護師たちの影響かもしれません。

 農業の動画を観せたら、最初は嫌っていたミミズをかわいがるようになった。

 虫の良い所を撮った動画を見せたら、怖がらないようになるかもしれない」


「それは良い方法だと思いますが、直ぐに効果はないでしょう?

 さきほどの克也の態度だと、直ぐに女の子を助ける方が良いでしょう?」


「そうですね、心優しい克也は、助けられない事で心を痛めます。

 その日が長引けば長引くほど、心を痛めて苦しみます。

 明日の朝起きた時には、助けに行くと言ってやらないといけませんね。

 海も陸もダメとなると、ダンジョンか異界しかありませんが……」


「ダンジョンにも嫌というほど虫が湧いています。

 明日の朝までに私たちでダンジョンにいる虫を皆殺しにする事はできますが……」


「その事を後で克也が知ったら、それもまた心を痛める原因になります」


「いっそ私たちで、虫もかわいい魔獣もいないダンジョンか異界を創りますか?」


「そうですね、今あるダンジョンや異界に手を加えるよりも、新たらしいダンジョンか異界を創った方が簡単ですね」


「虫もいない新しいダンジョンか異界に、私たちが選んだモノだけを放ちましょう。

 克也が胸を痛めないように、動物には見えない、みにくい魔獣を放ちましょう!」


「問題は、克也が心を痛めない魔獣ですが、何か思い当たるモノはいますか?」


「それが1番の問題ですね、新しいダンジョンや異界を創るのは簡単ですが、克也が心を痛めない魔獣を見つけるのが難しい!」


「克也が嫌いなモノを知りたくて、日本にいる分霊に両親や祖父母の心をのぞかせたのだが、克也は幽霊やゾンビの映画が大嫌いと言っていたぞ」


「「「「「イザナギ!」」」」」

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