第18話:吐き気・佐藤克也視点
「うっ!」
「無理されないでください、菜食主義者でも卵を食べられない人は多いのです。
無精卵は孵化しないから命じゃないと言われても、抵抗感で食べられない人は多いのです、無理しないでください」
「うん、ごめん、ありがとう。
動物の乳は平気だったんだけど、卵は無理だよ。
胸が、心が凄く痛くなって、吐き気がした、食べた物を吐きそうになった」
「それでこそ克也様です、心から尊敬します」
「なんで、何で卵が食べられないと尊敬してもらえるの?」
「この世界では、絶対に雄が混じらない場所で鶏を育てるのが難しいのです。
無精卵だと言われて食べたのに、有精卵だったという可能性があります。
克也様は無意識にその危険を感じられたのでしょう」
「それなら最初から試さないでよ」
「いえ、この世界の基準ではそうなのですが、克也様が平気だったら、我らお供が無精卵を生ませる養鶏場を作るつもりでした」
「僕のためだけに養鶏場を作ってくれる気だったの?」
「はい」
「イワナガヒメたちなら簡単にできるんだね。
だったら、この国の人たちのために養鶏場を作ってあげて欲しいな。
僕は食べられなくなったけれど、卵は美味しいから」
「そんな心配はいりません、だいじょうぶです」
「なんで心配がいらないの、何でだいじょうぶなの?」
「私たちが養鶏場を作らなくても、この世界の人間でも鶏が飼えます。
有精卵が混じっても良いのなら、誰でも鶏を飼い卵を産ませる事ができます。
我々がやらない方が、この世界の人間のためです。
王都の外が安全になったので、そこを畑にして鶏を飼う事でしょう」
「その畑だけど、僕も畑仕事をしたい。
海のスライムをたおせなかったから、陸のスライもたおせないと思う。
こんな僕では、もう冒険はできないと思うんだ。
冒険でレベルアップできないけれど、訓練でレベルアップできるのでしょう?
夜訓練してレベルアップするから、昼は畑仕事をしたいんだ。
みんなと一緒に畑仕事をしたのが凄く楽しかったんだ」
「そういう事でしたら、王都の外に克也様専用の畑を作りましょう」
「そんなに広くなくてもいいよ。
さっき言っていたよね、王都の外が安全になったから、この世界の人が畑にして鶏も飼うようにするって。
この世界の人たちが使う畑や養鶏場を奪う気はないよ。
彼らが使わない所を少しだけ畑にしてくれたら良いよ」
「克也様のお優しい性格は良く分かっております。
克也様が心を痛めるような事はしません、ご安心ください。
この世界の人間が開拓できないような場所を、私たちが農地にします。
だから克也様が心を痛める必要はありません、ご安心ください」
「ありがとう、そうしてくれたら助かるよ」
「克也様の食べられる物と食べられない物がはっきりしましたが、これから作る料理を間違って吐いてしまわないように、一緒に料理していただけますか?」
「僕が間違って吐いてしまう?」
「はい、日本の料理には、野菜を使って肉や魚の味を再現した精進料理があります。
命を奪わず体を切って使ってもいないのに、間違って吐いてはもったいないです。
安心して食べられると分かっていただくために、一緒に作ってみて欲しいのです」
「分かったよ、そんなすばらしい料理があるのなら、僕も作ってみたいよ。
どんな料理なの、教えてよ」
「はい、お任せください、1つは『がんもどき』でございます。
大豆から豆腐を作って、豆腐と長芋で生地を作り、中に枝豆とコーンとキクラゲを入れて、鳥のガンの味に似せた料理です」
「そうなんだ、分かった、作ってみる」
「次が豆腐、レンコン、長芋、小麦粉に塩を入れて混ぜ、生地にして海苔の上に伸ばしてウナギのタレを塗って焼き上げた『ウナギのかば焼きもどき』です」
「すごい、ウナギと同じ味を野菜で作れるの?!」
「全く同じ物は再現できませんし、作る人間の腕でも大きく違ってしまいます。
ですが、魚も肉も卵も食べられなくなった克也様の為に、できる限り再現します。
その時に間違って吐かないでください」
「分かったよ、みんなが僕のために作ってくれる料理を吐いたりしないよ。
間違って吐かないように、一緒に作るよ。
他のもどき料理も教えてよ、一緒に作るよ」
「では、カシューナッツと長芋と豆腐を混ぜて塩と醤油だけで味付けをして、パン粉をつけてサラダ油で揚げた『カツもどき』作りましょう。
その後で卵を使わずサツマイモと小麦粉と長芋で『カステラもどき』を作ります」
「うん、分かった、みんなと一緒に作るのも食べるのも楽しみだよ」
イワナガヒメたち、お供の人たちと一緒に肉の代わりになるモノを作った。
本当のウナギやカツとは全然違っていたけれど、美味しかった。
『がんもどき』だけは本当のガンを食べたことがないので比べられなかった。
次にほとんどの『もどき料理』の元になっている豆腐を作った。
最初に大豆を絞って豆乳を作りました。
豆乳にニガリと呼ぶ海水を入れて豆腐を作りました。
もう、ここまでだけで、もの凄く大変でした。
『ガンもどき』『ウナギもどき』『カツもどき』を作った時の豆腐は、お供の人たちが先に作ってくれていたので、作るのがこんなに大変だと思っていなかった。
豆腐を食べる時には、作ってくれた人に感謝しなければいけなかった。
自分で作ってみて初めて分かりました。
もどき料理は、作るのが大変な豆腐を寒い冬に凍らせて、凍り豆腐、高野豆腐にしないといけなかった。
高野豆腐にしてから粉にしないと、大豆ミートにならなかった。
ただ、鶏の唐揚げもどきにするなら粉にしなくても良かった。
適度な大きさの凍り豆腐を作って、そのまま唐揚げにすれば良かった。
凍り豆腐をすりおろしニンニク、すりおろしショウが、醤油、酒で作ったタレにつけて、片栗粉と小麦粉をまぶして、植物油で揚げれば鶏の唐揚げもどきになる。
ステーキや焼肉もどきが食べたければ、最初に適度な大きさに凍り豆腐を作る。
その凍り豆腐に塩コショウで下味をつけ片栗粉をまぶし、植物油で焼く。
そこにすりおろニンニク、醤油、ミリン、酒を加えて煮絡めたら、照り焼き風のステーキや焼肉になる。
トリとは違っていた、ステーキや焼肉とも違っていた。
初めて食べてみて、まちがって食べても胸が痛くなる事も吐く事もないと思った。
でも、お供の優しい気持ちで胸が一杯になった。
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