第9話:閑話・言い争い・イワナガヒメ視点

「イタタタタ」


 克也が全身筋肉痛にもかかわらず、スライムを追いかけ回しています。

 効率など考えずに、ひたすら追い回して力任せに剣を振り回しています。

 心臓の痛みを感じる事無く思いっきり身体を動かせる喜びにあふれています。


「このままで良いのですか?」


 アマテラスが心配そうに聞いてきた。


「何か気になるのですか?」


「克也はうれしそうにしていますが、今のやり方は効率が悪いです」


「確かに効率は悪いですね。

 回復魔術で筋肉痛を無くした方が、もう少し早くスライムをたおせますね」


「それだけではありません。

 自分の身体を使って追いかけなくても、魔術を使った方が簡単です。

 もっと楽にスライムをたおす方法があるのに、教えてあげないのですか?」


「あんなにうれしそうにスライムを追いかけているのを、止められますか?」


「……そうですね、思いっきり身体を動かせる事がうれしいのですよね。

 効率なんてどうでも良いんですよね。

 ですか、強大な魔獣が現れたら危険です。

 イワナガヒメは私たちがいるから大丈夫と言うのでしょうが、この世界には私たちを殺せるくらい強大なドラゴンがいるのですよ」


「確かにこの世界のドラゴンの中には、神である私たちを滅ぼせる者もいます。

 ですが、何の抵抗もできずに滅ぼされる私たちではないでしょう?

 克也を日本に逃がすくらいの余裕はあります」


「分霊とはいえ、神格を滅ぼされても良いと言うのですか?!」


「かまいません、克也の幸せな笑顔を見られるなら、どうという事もありません」


「確かに、好い笑顔でスライムを追いかけていますね。

 あの笑顔が何より大切という気持ちは分かります」


「日本で動けなかった分、この世界では身体を動かしたいのでしょう。

 今は体を動かす事が何より楽しいのでしょう。

 魔術を使ってみたいと言い出すまでは、好きにさせてあげましょう」


「そうですか、そうですね、それがいかもしれませんね。

 この分霊を滅ぼす気なら大抵のことができます。

 私たちが互いの分霊に身体強化魔術をかけて連携すれば、古代種のドラゴン以外に殺される事はないでしょう。

 分かりました、克也が飽きるまで好きにさせてあげます」


「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、アマテラスも克也がかわいいのですね」


「からかわないでください、それは貴女も同じでしょう、イワナガヒメ」


「2人は好きにするが良い、私も好きにさせてもらう」


「克也のじゃまはさせませんよ、スサノオノミコト」

「克也を困らせるようなら貴男でも許しませんよ、スサノオノミコト」


「克也の好きにさせるのだけが愛情ではあるまい」


「だからといって、克也が望んでいない事を無理矢理やらせる気ですか?!」


「そんな事は言っていない。

 あんなに楽しそうにしているのだ、我もやめさせる気はない。

 だが、万が一にも傷つかないように、先回りして守ってやるのも愛情だ。

 側で守っていたいからといって、遠くの危険を見過ごすのは身勝手だぞ」


「スサノオノミコトが離れた場所にいる魔獣を狩ると言うのなら、止めませんよ」

「克也の事は私たちが見守っているので、スサノオノミコトは好きにすればいい」


「イワナガヒメ、アマテラス、いいかげんにしておけよ。

 自分の欲を優先して、克也の安全をないがしろにするんじゃない。

 克也の楽しみが失われる危険を見過ごすんじゃない!」


「……神は元々身勝手な者です、私が望みのままに振舞うのは普通の事です。

 誰よりも欲望のままに生きた貴男に言われたくありません」


「そうです、確かに私はわがままですが、貴男にだけは言われたくありません」


「我も自分が身勝手なのは分かっている。

 だが、克也のためにここに来たと言うのなら、多少はがまんすべきであろう」


「だったらどうしろと言うのですか?」


「交代制にしよう、克也の側に残って護る者と、遠くの危険な魔獣を狩る者を、公平に交代制にしてようではないか」


「多くの陰口を覚悟して、この世界の神の掟破りを見逃した私に、克也の側から離れろと言うのですか?!」


「そうですよ、私とイワナガヒメは多くの神々から陰口を言われるのですよ」


「陰口を言われるのは、私や他の熊野十二権現も一緒だろう!」


「スサノオノミコトが何と言うおうと、私は克也の側を離れません!」


「私も克也の側を離れません!」


「……二人がそこまで言うのなら、しかたがない。

 だったら代わりの者に危険な魔獣を狩らせよう。

 我らは克也の側に留まり、周りの魔獣は神使に討伐させる。

 それぞれの八咫烏を放って周りにいる危険な魔獣を討伐させる、それでいいな?」


「そんな事で良いのならいくらでもやりましょう」


「私に仕えている八咫烏を全部討伐に向かわせましょう。

 何なら、仕える気があると言う八咫烏を全部神使にして討伐させましょう」


「いや、そこまでやらなくてもいいぞ」


「いいえ、スサノオノミコトの言う事は悪くありません、いえ、良いと認めます。

 周りの危険を見過ごす訳にはいきません。

 元々の神社にいた神使だけでなく、分霊がいる全分社の神使を集めます。

 八咫烏だけでは頼りないので、あらゆる神使を集めて討伐に向かわせます」


「……スサノオノミコト、貴男の責任ですからね!」

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