寝たきりだった難病少年は勇者召喚されて大活躍する:神主の孫で氏神様が陰から支援しています

克全

プロローグ

第1話:プロローグ1・ファロー四徴:佐藤克也視点

「痛い、苦しい」


 胸が、心臓が、痛い、心臓を包丁で刺されたみたい。


「克也! 先生、克也を助けてやってください!」


 お母さんが外で叫んでいる。

 抱きしめて欲しい、毎日会いに来てくれるけど、手も握れない。

 無菌室のガラス越しではなく、直接抱きしめて欲しい!


「どきなさい、私が心臓マッサージをする!」


 痛い、痛いよお母さん!

 助けて、お母さん助けて!


 ★★★★★★


 怖い、眠るのが怖い、眠ったまま死んじゃうのが怖い。

 死にたくない、一度も病院から出た事もなく死ぬのは嫌だ!


 このまま死ぬのは嫌だ、絶対に嫌だ!

 病院どころか、病室から出たのも車椅子に乗って数度だけ!

 走りたい、タブレットで見た草原を自分の足で駆けまわりたい!


 物心ついてからずっとベッドで寝ているだけ。

 僕に許されているのは、タブレットを観るだけ。


 年に数日、調子の良い時に、車椅子で病院の屋上庭園に出るだけ。

 本当は自分の足で歩いて植物園に行きたい、動物園に行って象さんを見たい!


 いつも心臓が痛くて辛い。

 どれだけ息をしても胸が苦しくて痛い。

 痛くて苦しくて、辛くて悲しくて、死んじゃいたいと思う事がある。


 手足に血が届かないので、腐ってしてしまうと思うくらい痛くなる。

 看護師さんが気をつけてくれいるけれど、浮腫んだ身体にできる床ずれが痛い!

 死んだら痛いのも苦しいのもなくなるのかな……


「克也、死んじゃダメ」

「克也、頑張れ、お父さんが必ずドナーを見つけてやる」

「克也ちゃん、負けないで」

「死ぬな、死ぬんじゃない」

「克也君、死なないで、お願い」

「克也、もう少しだ、もう少し大きくなったら爺ちゃんの心臓をやる」


 お母さん、お父さん、死にたくないよ!

 波子大婆ちゃん、繁一大爺ちゃん、助けて!

 絹子大婆ちゃん、光孝大爺ちゃん、どうして氏神様は助けてくれないの?!


 繫一大爺ちゃん、心臓をくれると言ってくれてありがとう。

 波子大婆ちゃん、毎日会いに来てくれてありがとう。


 絹子お婆ちゃん、光孝お爺ちゃん、ありがとう。

 こんな心配と迷惑しかかけない僕を愛してくれてありがとう。


 毎日氏神様にお願いしてくれてありがとう。

 助けてくれない氏神様は嫌いだけど、絹子大婆ちゃんと光孝大爺ちゃんは大好き。

 

 もう、いい、もうこれ以上痛くて苦しいのは嫌だ。

 死ぬのは怖いけれど、これ以上に痛くて苦しいのは嫌なんだ。


 でも、1度くらいは思いっきり走りたかったな。

 ううん、そんな贅沢は言わない、車椅子で良いから病院の外に出たかったな。

 うっ、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い!


「先生!」


「心臓マッサージだ!」


「はい、先生!」


 ★★★★★★


 もう嫌だ、死ぬのは怖いけど、こんなに痛いのは嫌だ。

 いつ見つかるか分からないドナーなんていらない、痛みさえとってくれればいい!

 死なせてよ、痛くて苦しいのはもう嫌だよ!


 氏神様、死なせてよ、治してくれないのなら死なせてよ!

 痛いよ、苦しいよ、元気な身体に生まれ変わらせてよ!

 石長比売様、熊野十二所権現様、お願いだから死なせてよ!


 治してくれない、この世界で生まれ変わらせてもくれない……

 だったら異世界に転生させてよ!

 アニメの主人公のように生まれ変わらせてよ!


 嘘つき、石長比売様は不老長生じゃなかったの?!

 ずっと、ずっと仕えている神主の曾孫も助けられないの?!

 異世界でも良いから元気な身体にしてよ!


 熊野十二所権現様は十二人もいるのに、僕一人助けられないの?

 特に天照大神は最高神でしょう?

 所願成就、何でも願いをかなえてくれるんじゃないの?!


 痛い、苦しい、もう死にたい、助けてよ!

 自分で死ねと言うの、自分では死ねないよ、もう殺してよ!

 助けてくれないのなら、もう死なせてよ!


 ★★★★★★


「かわいそうに、こんなに床ずれになってしまって……」


「毎日二時間おきに寝返りさせてあげているのですが、浮腫が酷くて……」


「分かっています、浮腫みが酷くてどうしようもない事は分かっています。

 私たちではどうしてあげようもないのが哀しく……情けないだけで」


「婦長……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る