第1話 いざ、異世界へ

 ガタンゴトン。

 ガタンゴトン。


 眠気を誘う心地良い軽快な走行音が、あたりに小さく木霊している。

 その日、その時。

ぼんやりと蒼天色に輝く機関車のようなそれは、まるで龍が如く天空に舞い上がっていた。

 夜空を流れるように走るその列車は、通称『魔導列車』という。

 魔導列車は大きな警笛を鳴らすと、中で眠っている一人の少女の目を覚醒させた。

 三白眼で、アルビノ気質なその少女は、眠たそうに目を擦ると、キョトンとした面持ちで、大きく首を傾げた。


「ココはどこ……? ボクはいったい……」


 目覚めた彼女に記憶はなかった。

 自分が何故此処にいるのか。

 自分が何故列車の後部座席に座っているのか、まるで分からない。

 寝ぼけ眼で、アルビノしょくの少女は車内を見回す。

 車内には人気がない。

 その列車には、アルビノ色の少女しか乗っていなかった。

 アルビノ色の少女だけが座席に座り、列車はどこかへ向けて走っている。

 ここにきて、アルビノ色の少女は得体の知れない不安感を抱く。

 何も分からないこの状況を楽観視出来るほど、彼女は子供ではなかった。

 やがてアルビノ色の少女は深く考え込む。

 この列車は何なのか。

 車窓から外を見ると、列車が空を飛んでいることに気付く。

 それにひどく驚き、そして、ひどく怯えるアルビノ色の少女だったが、車窓から目を離し、ふと横を見ると、一人の少女が立っていることに気付く。

 車内には誰もいなかったはず。

 アルビノ色の少女は思わず警戒の姿勢を取った。

 全身黒ずくめのその少女は、格好とは裏腹に、白粉を塗ったような真っ白い肌をしており、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。


「……キミは?」


 牡丹色の美しい髪をなびかせながら、少女はきつく釣り上がった目で、ジッとアルビノ色の少女を見ている。

 突然現れた少女の異様な態度に、アルビノ色の少女は再び驚きの表情を見せるかと思いきや、表れた反応は予想だにしないものであった。

 少女を見たアルビノ色の少女は、大きな涙を浮かべる。


「……メイ?」


 アルビノ色の少女はその名前に心当たりはなかった。

 というよりも、咄嗟に出た名前で、アルビノ色の少女も口に出した後、自分が何故涙を流しているのか訳が分からなかった。


「セイ」


 少女が口にした名前は、どこか聞き覚えのある名前であった。

 自分の名前すら分からないで、此処にいるアルビノ色の少女に、少女は今にも泣きそうな顔で儚げに笑う。

 彼女はか細い声でこう言った。


「わたしは死神。これからわたしは、貴方を貴方の望むべき世界へ連れて行くわ」

「シニガミ? シニガミとはなんだい? それよりもキミはボクのことをシっているの?」


 大きく首を傾げるアルビノ色の少女に、少女は小さな笑みを浮かべる。


「知ってるわ。貴方はわたしの誰よりも大切な『××』」


 少女が何を言っているか分からない。

 大切なところが聞き取れない。


「タイセツな……なに?」


 上手く聞き取れなかったところを聞き返す。

 そんな中、魔導列車が警笛を鳴らし、走るのを止めた。

 どこかに着いたらしい。

 魔導列車がどこに止まったのか、気になってしまい、そわそわと落ち着かない様子のアルビノ色の少女だったが、少女に手を差し出され、落ち着きを取り戻す。


「さぁ、行きましょう。貴方の在るべき世界へ……」


 アルビノ色の少女は、魔導列車の降車口へと向かう。

 降車口から見えるその世界は、アルビノ色の少女を好奇に誘う驚きの世界だった。


「セイ。貴方にはこれから、六つの世界を廻ってもらうわ。それが、生前の貴方への喜びと繋がるから」

「セイゼン? ボクはシん」


 アルビノ色の少女は、少女の指で口を押さえられる。


「全てはこの旅が終わった後に分かること。セイ、今はこの旅を目一杯楽しみなさい」


 永劫とも思える時の中で、記憶喪失の少女『セイ』と、死神と称する少女『メイ』の、最初で最後の異世界旅行が今幕を開ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る