不用意な発言で学園のアイドルがストーカーになってしまった!

軽井 空気

第1話 吐いた唾は飲めない、立ったフラグも折れない。

「安土〜朝よ〜、早く起きて朝ごはん食べないと学校に遅刻しますわよ〜」

 リビングからは味噌汁と焼き魚の美味しそうな匂いとこの俺、狩野安土かのう あづちを呼ぶ声が伝わってくる。

「やだ、布団から出たくない。学校にも行きたくない」

 俺は誰かに聞かせるわけでもなく拒絶の言葉を呟きながら深く布団を被る。

「もう、じれったいですね。あっ、そういうこと。わざわざ起こして欲しいのですね。もう我儘なんだから。でもそこが可愛いのよね♡」

 勝手な理屈を並べて俺を起こしに部屋に入ってくるつもりらしい。

「やめろ!来るな!俺に近付くな!」

 ガタガタ震えながら布団に包まり枕を抱えて叫ぶも、鼻歌を歌いながら部屋に気配が近づいてくる。

 何故、何故こんな事になったのか?

 俺はオタクではあるが引きこもりではない、なのに今では登校拒否どころか朝起こされるのにも抵抗している。

 それは間違いなく俺が悪い。

 数日前に俺は学園のアイドルでスクールカーストのトップの稲葉輝咲いなば きさきに不用意に失礼なセリフを聞かれてしまった。

 それから恐怖の日々が始まり今日に至っては布団から出るのも怖いことになってしまったのだ。



「安土は今期アニメで推しは何だ」

 教室で中学時代からの友人達と駄弁っていた。

 高校に入学したばかりでコミュニティが形成前なので同中のやつがいると自然とつるむのだが、オタク趣味の悪友なものだから受験からの解放もあり最近は何かとはしゃぎ気味であった。

「やっぱり「不本意な異世界転生だったので女神を堕します!」だな」

「どうせロリババァがいるからだろ」

「悪いか。ロリババァ最高だろ」

「確かに」

 否定してきたヤンチャな感じの友人とは違いメガネを光らせる文系の友人は賛同してきた。

「本堕は今期アニメでは抜き出た作画クオリティ、加えて昨今の規制に挑むかの様なサービスシーンの数々、ヒロインもバリエーションに富んでいて」

「はいはい、結局ハーレムかよ」

 俺は眼鏡のブリッジをクイクイしながら語る友人にあきれた。

「本堕の見どころはタイトル通りの生意気で高慢ちきな女神をどうわからせてメス堕ちさせるかだろ」

「……お前」

「なんだよ」 

 若干友人たちと距離感が開いた気がするのだが?

「そんなんじゃお前彼女出来ないぞ」

「嫁ならいるぞ」

「2Dじゃなくて3D、リアルの方の」

「リアルの彼女なんていらねぇよ」

「お前、そんな中二病みたいなこと言ってると後悔するぞ」

 余計なお世話だ。お前らはお袋かよ。折角進学して1人暮らしを始めたのに何で友人に母親みたいな小言を言われにゃならんのだ。

 どうせ「彼女が欲しい」なんて言ったところでオタクが彼女出来るか。

 オタクが結婚できんのは社会に出て財産が出来たらばこそだ。アルバイトもしたことないのに女が寄ってくるわけないだろ。

「ホント、現実を見ろよな」

「お前がな」

 ため息をついたらため息で返された。

「そうそう、現実と言ったらあの娘はどう思うよ」

「誰だよ」

「ほら、入学早々ファンクラブが出来て上級生も会員になったっていう」

「あぁ、他県から進学してきた美少女だよな」

「完全に学園のアイドルで同じクラスなのに俺らは接点無しなんだよな」

「どこかのお嬢様って噂もあるけどうちの学校って平凡なんだよね」

「物置に住んでるお嬢さまなんじゃねぇの?」

「はぁ?なんで」

「100人乗ってものイナバ」

「安土、お前。それは流石に失礼だぞ」

「大丈夫だよ」

「いや……安土、そんなことは」

「どうせ接点なんてないんだ、何言ったって聞かれやしないよ」

「そうですよね、それで他には?この際全部言ってしまいなさい」

「………………………………」

「そうだな。お嬢様かどうかは知らないけどアイドル扱いされてる美少女なんて一皮むけばエロエロの淫乱って相場が決まってるだろ」

「おい、安土……それは」

「もちろんエロゲーの話だけど、むしろリアルの方がエロいだろ?清楚キャラこそフィクションだって」

「ならもし現実に付き合うことになったら貴方に何が出来ますの」

「もしか?もしもの話なら俺なら澄ました美少女の本性を暴いて俺好みのメスに調教してやるぜ」

「エロ同人みたいに?」

「そうそう、エロエロでメロメロの俺にぞっこん彼女にしてやんぜ。ははは」

 と笑いどころなのに友人2人は引きつった顔で引いている。

 この程度の妄想なら思春期のオタクなら当たり前だろ。

「おい、男子。流石にもう黙って聞いてられねぇぞ」

 そしたら背後から怒気を含んだ声がかけられた。

 俺が固まっていると友人たちは首を振りながら距離を取っていく。

 仕方ないのでおそるおそる振り向くと。

 怖い顔したお姉さん(同級生)たちがおりました。

 大半は睨みながらも距離があるが3人の中心人物が俺の至近距離に立っているのだが。

 彼女たちこそ今話題にしていた学園のアイドル、稲葉輝咲ご本人様とその取り巻き達であらせられました。

 ……俺、石を100㎏乗せられたりするのかな?

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