勇者が来る!!
城門を出た所でエリオットは両親とここで別れることにした。
「エリオット、私たちは同行することが出来ないが気をつけて旅をするんだ。今まで教えた剣技は必ずお前を守ってくれる。辛くなったら、いつでも帰ってこい」
「うん、分かっている。父さん、母さんも元気で」
エミリエはこの日がいつか来ると知っていたので、涙は流さなかった。ただ一人の親として常にエリオットに愛情を注いでいたので、彼のぬくもりを忘れないように静かにエリオットを抱きしめていた。
「ベルハルド、息子をよろしく頼む!」
「ベルハルドさん、カルナさん、私からもよろしくお願いします」
エミリエはようやくエリオットを離し、二人に一人息子を託した。
「任せて下さい。私が盾役となってエリオットを補佐します」
カルナもラルフたちにお辞儀した。
村を開けっ放しだったラルフは、荷馬車にエミリエを乗せ発車させた。二人は途中、何度も振り返り、やがて視界から消えていった。
「さあエリオット、これからどうするかね」
ベルハルドは大きめの盾を背負い、騎士団最高のランスに手をかけていた。カルナも聖石が嵌ったメイス片手にエリオットの眉を読む。彼らはトラステリアのシナリオと勇者の存在について、すでに聞いていたので、すぐにでも旅に出る覚悟は決めていた。
「よっ……!」
エリオットは両拳を握りしめ、しゃがみ込んだ。
「よっ?」
「しゃーーっっ!!」
彼は立ち上がり、高々と拳を天に突き立てた。
「しゃー?」
ベルハルドとカルナは眉をひそめた。
「自由だ! これから世界を回るんだ!!」
抑圧されていたエリオットの行動範囲が一気に広がったことで、彼は弾けた。
「と、その前に! 城下街を探索しましょう!!」
「えっ?」
ベルハルドは頓狂な声を出した。
だがトラステリアにとっては想定の範囲内だった。
『彼に付き合いましょう』
ベルハルドの無線にトラステリアの指示が飛ぶ。
「分かった。行こうかエリオット」
「ところでカルナ」エリオットは突然カルナに話をふった。「クラーレ先生って知ってる?」
「はい、クラーレは私の従姉妹です」
若干、声もクラーレに似ていた。
「そうなんだ! 僕はずっとクラーレ先生から魔法を教わっていたんだ。じゃあカルナも優秀なんだね」
「そう……、ですかね……」
「きっとそうだよ。ところでカルナ、僕はクラーレ先生から魔法を教わっていたけど、僕も回復魔法使えるのかな?」
「人体構造について従姉妹から学びましたか?」
「いいや、そういうのは学んだことはないな」
「人体構造について修養するには、膨大な知識と実地研修が必要になります。生半可な知識では無理でしょう。私は五年かかりました」
「そっかー、無理かー」
そう言いながらエリオットが踵を返すと同時に、二人は続いて街へと向かった。
エリオットが謁見の間から辞すると同時に、クレイトスは書斎へと走った。そして六枚の手紙をしたためる。宛先も内容も言わずもがなである。
数日後、六人の首脳及び対勇者組織長の元に手紙が届いた。その内容を見た途端、六人が口を揃えた。
「勇者が……来る!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます