第53話 幼女、お隣さんと再戦する 

 最初に戦った頃と同じように、ウチらは名乗ってから戦う。


 違うのは、ウチもクゥハも最初から全力ということ。


「邪神ビィィィンムッ!」


 ウチは、渾身の【邪神ビーム】を放つ。正式名称・【パーティクル・キャノン】を。

【粒子砲】っていうだけあり、重金属が混ざっている。鉱石の金属部分を溶かして、魔力を混ぜ合わせる。つまり、圧力を持たせた光子熱線なのだ。


「……我に断てぬモノ、なし! 断ッ!」


 それでも、クゥハはウチの最強技をいとも簡単に切り捨てる。

 華麗に斬るのではなく、無骨に断つ。それが彼女のスタイルだ。美人な顔に似合わず、戦闘はワイルド極まりない。

 

「やっぱり高圧熱線では、あんたに敵わん! せやったら、これや!」


 ウチの妖刀が、クゥハの剣を弾く。


 クゥハは剣の軌道を変えて、ウチの妖刀を叩き落とそうとした。


 妖刀を杖代わりにして、ウチはクゥハの剣の上に乗る。


「首をもろたで!」


「それは首を斬ってから言いなさい!」


 クゥハが剣を構えたまま、飛び蹴りをかましてきた。


「うわお!」


 ウチは、クゥハの魔剣から飛び退く。


「アトキン。フィジカルも強化しましたか!」


「多少はな。でないと、あんたのクソ高い体力に勝たれへん!」


 敏捷性、反応速度、あと多少の耐久値に、ウチはステータスを割り振った。


 とにかく、当たらないこと。


 クゥハの攻撃は、ダゴンのそれとはケタ違いだ。当たれば即死。

 ウチの性分としては、真正面からドンとぶつかり合いたい。

 しかし、クゥハの魔力がそれを許さなかった。


「妖刀、丹亀尼タンキニ、ウィップモード!」


 ウチは妖刀を蛇腹状に変化させて、ムチのように振り回す。


 無軌道な剣戟に、クゥハも攻めあぐねている。


 だが、こんな子どもだましなど、いつまでもクゥハには通じない。あっさりと突破される。


「強くなった代わりに緊張感がありませんね! ザコばかり相手にしていたせいで、動きが緩慢になっていませんか?」


「気のせいや!」


 クゥハの袈裟斬りが届く直前、ウチは【分身】で逃走した。


「ほう。分身を会得しましたか。術師なら、防御するか遠方から攻撃してくるかとおもいましたが」


「遠距離攻撃は、あんたには通じん。密着して叩かんと」


 このデカい魔剣がある限り、クゥハにウチの攻撃は当たらない。遠くからペチペチ魔法を撃ったところで、跳ね返されるか攻撃そのものをぶった切られるだけ。


 だったら、リスクを承知で懐に飛び込むしかない。


 幸い、クゥハはヨロイまではバージョンアップしていなかった。こいつ防御より、攻撃を選んだのだ。攻撃のために、防御を犠牲にしたと思っていい。


 そこに、つけ入るスキがある。

 

【半永久器官】のパワーを、フィジカルの強化に回す。


「おお、【マギアーツ】とは。とうとう、あなたがカンフーを!」


 マギアーツとは、魔法と拳法を組み合わせた独特の体術のことだ。


 ウチの徒手空拳を魔剣で受け流しながら、クゥハの声が裏返った。歓喜に震えているように感じるが。


「あんたとの勝負限定や! この純魔殺しが!」


 この際、純魔でクゥハに勝つのをあきらめた。その時点でコイツの勝ちなのだが、勝負自体はウチが勝たせてもらう!


「ですが、付け焼き刃のマギアーツでは!」


「ウチかて、強くなってるんやで!」


 これまで戦ってきたウチだって、みんなの戦闘を見ていなかったわけじゃない。


 袈裟斬りを、白刃取りで受け止めた。


「まさか、バカな!」


 別に不思議なことでもない。クゥハの剣戟を、どれだけ見てきたと思っているのか。剣を振る速度、タイミング、そして威力。

 全部、ウチは頭に叩き込んでいた。


 それを全力で阻止しただけ。


「えいっ」


 しかし、それまでだった。


 完全に脱力したウチは、クゥハの腹につま先でチョンと蹴るしかできない。

 白刃取りで、ウチはすべての力を出し尽くしてしまったのである。


「降参や」

 

「いえ。参りました」


 クゥハが、剣を下ろす。


「なんでや。トドメは刺されへんかったやんけ」


「いえ。あなたに剣を止められてしまった時点で、ワタシは負けました」


 これは実力の問題じゃない。プライドの問題なのだろう。


「いやあ。今回はワタシもいい線をいくと思ったんですけどねえ」


 カブトを脱いで、汗びっしょりの状態でクゥハは清々しい笑顔を見せた。


「さてアトキン、お風呂に入りますよ」

 

 ウチは、クゥハにお姫様抱っこをされたまま、荒野エリアの大浴場まで連れて行かれる。


 

(第六章 完 以後、不定期更新)

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