第51話 幼女、目からビームを撃つ

 ウチは潜水艇を使わず、素の泳ぎで陸地を目指す。



「おっ。ええ的がウジャウジャおるやん?」


 ダゴンや魚人の群れが、神殿の跡地から湧いてきた。神殿を荒らしたウチを、追ってきたか。

 

 ウチは、触手の先端にある魔力リアクターに、魔力を込める。リアクターは宝玉でできていて、魔物の目玉のようにも見える。


「【半永久器官】の性能、試させてもらおかな。喰らいや! 【邪神ビーム】ッッッ!」


 純度の高い魔力砲を、群れに向かって撃つ。

 この技の正式名称は、【パーティクル・キャノン】という。クジラ型巨大戦艦が使っていた、魔力砲の小さい版である。


 ウチが放った魔力ビームによって、群れの大半が蒸発した。


「ええやんけ。一発の魔力はかなりエゲツないのに、器官のおかげで全然魔力が減らん」


 機関でなく器官というあたり、触手のような新しい器官というか、内蔵の役割なのだろう。


 その後もキャノンを連発して、あっという間にダゴンらは手下ともども片付いた。


 さて、陸地も見えてくる。

 

「ただいま」


 ウチは、海底神殿から陸に上がった。


「おかえりなさい、アトキン」


「ただいまじゃないですよ、先生っ! なんですかそんな、おつかいから帰ってきたみたいなリアクションは!?」


 いつもどおりのクゥハと対照的に、ウチの弟子カニエは早口で激昂する。


「まあまあ。みやげもあるさかい、大目に見てや」


 ウチは、戦利品をカニエに提供する。


「わーい、海ぶどうだ!」


 カニエより、メフティのほうが喜ぶ。


「その海ぶどうな、魔力回復効果があるねん。カニエ、さっそくポーションに作り変えてや」


「承知しました。先生」


 カニエが、海藻類をアイテムボックスに詰めて引っ込んだ。


「ところでクゥハ、ダゴンは来たやろ?」

 

「来ましたよ」


「その様子やと、相手にはならんかったみたいやな」


「ですねえ。もう少し歯ごたえがあると思ったんですが」


「戦艦は、あんたに任せてもよかったかもしれんなぁ」


 大量のダゴンでも、クゥハの敵ではないか。


「いえ。海底神殿が変化したんですよね? 海に潜れないワタシでは、戦えませんでしたよ」


「ようゆうわ。あんたやったら、陸地からでも楽勝やんけ」


 クゥハの場合、地表から剣閃を飛ばして、戦艦を真っ二つにするだろう。クゥハなら、やりかねん。硬いテネブライの山を、剣閃で両断して鍛えていたくらいだ。


「ですが、これでようやく、あなたとフィジカル面でも対等に戦えそうですね」


「せやな」


 やはりクゥハは、最初の当時から持て余していたか。


「純魔やから時間がかかったけど、ウチかてかなり強くなったはずねんよ。あんたくらいは」


「はい。ひしひしと伝わってきますよ」


「再戦してみるか? それで、どっちが完全なテネブライの支配者なんか、決めようやないか」


「テネブライ【最強】の決定でいいです。支配は、あなたがなさってくださいな。みんな、あなたを慕っていますから」

 

 なら、そうさせてもらうか。ただ……。


「最強の称号は、譲られへんなぁ」


「だったら、戦うしかないですね」


 こうして、クゥハとの再戦が決定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る