第34話 幼女領主、雑誌編集者の取材を受ける

「あっ、アトキン。終わりました?」


 焼いたダゴンをムシャムシャとかじりながら、クゥハが戻ってきた。


「ああ。無事に終わったで」

 

 ウチは、ドロップアイテムである【ダゴンのゲソ】を掴んで、持ち上げてみせた。これは、何に使うんだろう? クゥハがかじっているみたいに、食べるのか?


「見事にボロッボロですね」


「まあな。戦い甲斐のあるやつやったわ」


「あなたが無事なら、なによりです。それより」


 クゥハが、【ダゴンの切れ端】を掴む。これはゲソとは違う、もう一つのドロップアイテムだ。素材といえばいいか。切れているのに、まだ生きている。


「これって、また使います?」


「使ってみても、いいかもしれへん」


 ウチは、ダゴンの肉体を培養して、自分の身体に再構成した。


 その予備として、この肉片も使えそうである。


「ゲソは、食べもんやな。おもろいのん、作ったるわ」


「ホントですか? おいしくなかったら、殺すので」


「ちょっと。物騒なこと言わんとって」


「冗談ですから」


「ほな。久しぶりに作るから、期待せんとってな」


「アトキンが作るものなら、大丈夫です」


 みんなを呼んで、昼食にする。

 そういえば、朝から何も食ってない。腹が減って、死にそうだ。


 ゲソを分析する。

 瘴気の毒は、抜けてるな。大丈夫だ。みんなの分も、ちゃんとある。


 細かく切って、生地を流し込んだ専用のプレートに乗せていく。

 

「なんですか、それ?」


「たこ焼きや」


 この世界において、たこ焼き自体は珍しくない。王都でもどこでも食べられる。


「見とけよ、ほっはっやっ」


 家で親にたこ焼きを焼かされてきたから、手際はお手の物だ。

 関西人の家には、たこ焼きのプレートが一台必ず置いているという。ウチの家も、例外なくそうだった。


「焼けたで。食べてみい」


「いただきます……あっふ! でもおいしいです! やっぱりお料理は、アトキンがやってください。ワタシは食材を集めるか、食べる人になります」


「ええよ。ずっと食べる人で」


 ひとまず、クゥハがなんともないなら、他の人に食わせてもいいかな。


 後でやってきたメフティもベヤムも、たこ焼きを「おいしい」と言ってくれた。


「あんたがプレートを作ってくれたおかげで、ええもんが作れたで。おおきにな、ベヤム」


「お役に立てて、こちらも満足だ。これからも、うまいもんを頼むぜ」


「任しといて」


「おっと、そうだ。アトキン。安全確認のために、一応オレたちだけで飛空艇から降りたが、移民希望者を降ろして構わないか?」

 

「ええで。じゃんじゃん降ろしたって」

 

 ダゴンを倒したので、ようやく飛空艇から安全に人を出せる。


「よう来ましたなあ。ウェルカムたこ焼きでっせ!」


 ウチは歓迎の印として、ダゴンのゲソで作った焼きを振る舞う。


 飛空艇から降りてきた人たちが、ウチのたこ焼きで笑顔になった。

 

 いずれも自国を追われた移民や労働者など、仕事や住居を求めて、荒野エリアを開拓しに来た人ばかりである。

 移民たちは飛空艇から降りて早々に、ムカデ亜人やドワーフたちの手引で労働を始めた。誰が割り振ったわけでも、我先に気に入った職にありつこうなんて抜け駆けもない。みんなが思い思いの役割を、自然な形で決めていた。


 で、ウチの待望していた人材がようやくやってくる。


【冒険者】だ。


 ウチは鉄道の駅になる地点に、最初に冒険者ギルドを建てていた。


 ギルマスは、ベヤムに頼んである。彼は鍛冶師でもあるから、装備品売り場の管理なども隣接した。ギルドを店にすることで、アイテムの鑑定や修理の手間を省いている。


 これでようやく、普通のファンタジーらしくなってきたじゃないか。


 ウチは拠点で、冒険者が持ってくる素材を待てばいい。依頼者側になる、ってわけだ。



 さて、ヒマになった。

 久しぶりに、ボーっとするかな。


 

「あのー」


「なんや?」


 ハーフパンツルックの女性が、ベンチで寝転がっていたうちに話しかける。

 服装から冒険者のようにも見えるが、それにしては腕が細すぎる。


「私、【ジャーナリスト】のトルネルといいます。テネブライの責任者、アティ・ネッド様ですよね?」


「せやで。いかにもウチが、この地の代表やけど」


「あの、取材をさせていただきたいのですが」


「といっても、やることはほとんど終わってしまってんよ。今は、休暇にしようかと」


 メンタル的にも、たまに頭を休ませることも大事だと、前世で知った。働き詰めだと、脳が常にアドレナリン出まくりで、糖尿や心筋梗塞などを引き起こすのだそう。

 本当に健康で長生きな人は、オフのときは何もしないらしい。脳を適度に休ませるのには、ボケッとするか瞑想がいいのだとか。


「実は、そのオフの時間を取材したいのです。我々は、【賢者の休日】という雑誌の取材をしておりまして。どちらかというと、偉大なる人たちがお休みのときはどうなさっているのかを知りたいのです」


 この雑誌、なんでも【葡萄酒の魔女ソーマタージ・オブ・ヴィティス】……つまりウチのことも取材予定だったらしい。だが、取材しようとしたらすでに亡くなっていたと。


 あらあ。残念。


「おもんないで」


「それがいいんですよ」


 なんか、「オフの時の社長の姿」もちゃんと取材して人気を博した番組があるって、前世で聞いたことがある。


「まあ、見たかったら見ればええんちゃう?」


「ありがとうございます」

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