第4話 幼女、怒りの絨毯爆撃

 ウチは、テネブライの森になっていた木の実を貪る。

 魔力を回復させてくれるこの実がなかったら、危なかったかも。

 これは、当分の必須アイテムだ。


 特に……。


「あーあ」


 オオムカデに、アジトを破壊された今は。


 大木がムカデのアゴによって、見事に切断されていた。

 食料は、ダメになった。寝床も、消滅している。

 おまけに培養槽も、ガレキに埋まってしまっている。もう二度と再生できない。


「酒を飲みたくなるときって、こんなときなんやろうな」


 実はウチは、下戸である。酒の美味しさが、よくわからない。


 このアトキン・ネドログを【葡萄酒の魔女ソーマタージ・オブ・ヴィティス】の二つ名で呼び出したのは、ゴズリング侯爵である。ウチの弟子である、カニエのお父さんだ。

 ウチの髪の色から、ワインを連想したという。

 しかしウチがアルコールを受け付けない身体だと侯爵が知ったのは、二つ名をつけた後だった。


 この肉体を得ても、おそらく酒は飲めないだろう。嗜好品がいらないのは、節約になっていいのだろうけど。

 

 さらに、重大なことが。

 

「クツ作るの、忘れとった」


 なんか足が痛いと思っていたら、裸足のままだった。

 我、女子ぞ。ゲーマーとはいえど、女を捨てすぎだろ。危うく、自分をアバターか何かと勘違いするところだった。

 もう、命を粗末にできないのだ。気をつけないと。


「すんません。今の人生が気に入らんから、もっぺん死んでやり直しまっさ」とか、さすがの女神もプッチンプリンになる。

 

 まあ、クツはどうにでもなるだろう。


 その辺の木を削って、木靴を作って解決。

 作りながら、思った。どうせなら、パンプスにしようではないか、と。

 前世では履きづらかった、おしゃれな感じに仕上げる。


「おお、ええ感じやん?」


 ファッション誌に載っているようなビジュアルからは、程遠い。しかし、女子としては比較的まともなのではなかろうかと。戦闘の妨げにならないように、こんな見た目ながらちゃんと攻撃性も防御面も高めてある。


「うっひょ~」

 

 パンプスを鳴らしながら、スキップをした。どうせ、誰も見ていない。ルンルン気分で、楽しもう。


 そこでふと、我に返る。


「さて、エンジョイタイム終了。本格的にヤバいぞ」


 食い物は全滅、寝る場所もない。

 

「一からアジトを、作り直しや」


 別に悔しさはない。むしろ、清々していた。これで本格的に、生き方のやり直しができる。その気持ちに、心が踊った。


 ウチのことだ。どうせアジトが残っていたままなら、中でヌクヌクとアイテム製造などをして過ごし、惰眠を貪っていたに違いない。きっとそうだ。

 派手に家がぺしゃんこになったことで、もう帰る場所もなくなったくらいで、ちょうどいい。ここに骨を埋めようという気持ちが、より一層強くなった。

 とことん、付き合ってやろうじゃないか。


 ひとまず、どうする?


「あの岩山、ええな」


 真っ二つに避けた岩山が、眼の前に見える。


「あの岩山を、家にしたろうやないの」

 

 目標は決まった。


 見た感じ、ここから岩山の距離はいうほど離れていない。一時間もかからず、たどり着けるだろう。


「まずは、アレやな」


 アジトをこんな目に遭わせた魔物どもを、一掃せねば。

 

 ウチは残った装備品で、爆弾を作り上げた。


 魔法石を圧縮して、燃えやすい木の素材を使って、さらに固める、と。

 バスケットボールくらいの大きさがある爆弾を、数百個作り上げる。畑の整地もせんとなにをしているのかと思われるだろうが、まずは道を作るのだ。


 前の魔女人生で手に入れた魔法石は、大量にある。どうせこんなもの、テネブライの魔物共には通用しないんだ。ならば、盛大に消費してやろうではないか。エリクサー症候群という名のもったいない精神が働きすぎて、山ほど持て余していたが。

 今こそ、この魔法石を惜しげもなくぶっ放すべき。


「おらあああ!」


 整地ついでに、黒い森を焼き払う。

 どのみちこんな森、存在していても開拓の邪魔なのだ。


 自然と共存する精神は大事だが、こんな人類を脅かす領地は破壊するべきだろう。


 オオムカデが、面白いように吹っ飛んでいった。それも一匹や二匹ではない。

 なにを求めていたのか、魔物たちはバンバン焼け落ちていく。


「さよか。この木の実が欲しかったんかもしれんなあ」

 

 爆発の度に、魔力を回復できる木の実を回収した。触手で丁寧に、拾い集める。


「ほしかったら、かかってこんかい! ムカデどもが!」


 ウチの挑発が聞こえたのか、はたまた昆虫の感覚なのか、ムカデが大量に襲いかかってきた。


「それでええんや! それでこそエンドコンテンツ!」


 向かってくるムカデを、ウチは魔法石爆弾でお迎えする。


 こいつらの強さは、おそらくラストダンジョンの中ボスくらいだ。いっぺん、魔王の住んでる城に殴り込みに行ったとき、四天王とかいうやつと戦ったっけ。その中で一番弱いやつと、このムカデがちょうど同じくらいの強さだ。群れても、こんなもんか。武器さえ整っていたら、案外やれるものだな。


「こんなもんなんか? もっと来いや!」


 ウチの「怒りの絨毯爆撃じゅうたんばくげき」は止まらない。


 あらかたムカデを吹き飛ばし、整地が完了した。


 岩山の側に、到着する。ふう。長かったような、短かったような。


 よく見ると、デカい。


 この岩山を住居に改造したら、かっこいい部屋ができること間違いなし。


 その前に、食料の確保を優先した。


「まずは、整地やな」


 ウチは、木の枝からツルハシとクワを作り出す。

 柵作りは、魔法でパパッと終わらせた。カカシ代わりの、警報用トーテムも置いておく。

 

 木の実から採取した種を、地面に植えていく。魔女の家でもやっていた、薬草も育てる。野菜も育つかどうか、確認しよう。

 

「おっ。ウサちゃん」


 大型犬くらい大きなウサギと、牛くらいデカいイノシシが、こちらに向かってきた。


 ウチの顔面めがけて、ウサギさんが回し蹴りを繰り出す。


「ふん!」


 パンプスを鳴らし、ウチはジャンプした。

 

 ウサギのキックが、岩にめり込んだ。おお、あんなのをまともに食らったら、骨折どころじゃない。


 イノシシに至っては、空を飛ぶ勢いで跳躍しやがった。


「ええやんええやん。ウチを食物連鎖に加えたろうってか。あいにくウチは、連鎖の頂点なんで!」


 ウチは、イノシシの眉間を雷撃で撃ち抜く。装甲を持たないイノシシなら、効くと思ったのだ。


 しかし、イノシシはその場で方向転換した。空の上なのに。


「空気圧を蹴って、移動できるんかいな!?」


 大気をキックして、イノシシは飛び跳ねながらウチにタックルしようとする。


「ええやん。せやけど、遅いんや」


 ギリギリのところで、ウチはイノシシの突進を回避した。敵の横っ腹めがけて、雷撃を撃ち出す。正面がダメなら、側面だ。


「おし、ドンピシャ」


 イヤな方向へ「く」の字になり、イノシシが息絶える。


 後は、ウサギちゃんや。あっちもこっちにぶっ飛んできた。


「よう飛ぶなあ、ここの魔物は!」

  

 ウサギが、キックを放つ。


「ええで。これでも喰らいや!」


 ウチは爆弾を放り投げて、地面へ急降下した。


 上空で、大爆発が起きる。


 これだけの爆発だ。ウサギも無事では……無事でした!


「爆風を踏みつけて、推進力にしおった!」

 

 これは、よけられないか?


「カウンターが戦士職の専売特許やと、思ってへんか?」


 ウチは、地味な土魔法を唱えた。


 勢いに負けて、ウサギは突撃を余儀なくされる。あわれウサちゃんは、全身の骨が砕けてしまう。


「ふう。アンタらのお命、ありがたくいただくで」


 これで、昼飯をゲット。

 


 ウチの身体に、妙なことが起きる。


『レベル上がりました』


 お? レベルアップとな。

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