第2話 今度こそ、幼女に転生する

 実はこの場所は、【肉体転送の儀】のために作ったのだ。

 設備も限られていて、一部の装置についてはカニエにすら存在を知らせていない。


 瘴気に当てられ自分の死期が迫ったとき、ウチは自分の選択を後悔した。


 どうして、「幼女にしてくれ」って女神様に言わなかったのかを。


 魔女は死ぬとき、自然界のマナと同化するか、魔物に変貌するかどちらかだという。


 ウチはそれでも、魔女として生きたいと願った。

 幼女のままで生きられるから! かわいい幼女! 幼女かわいい! ここ重要!


 いつまでも若いって、最高っ!

 

 でも女神様には、「幼女としてずっと生きていきたい」って、恥ずかしくて言えなかった。そんな自分を、今は呪っている!


――プライドだけがムダに高いウチのアホ! もっぺん死ね!




 過去を振り返って自宅のベッドで悶絶していたとき、テネブライで手に入れた魔物の欠片が目に飛び込んできた。


――せや。コイツに自分の魂を転送したらええんやん。


 ウチを苦しめた、この魔物に、自分を。

 

 頭の中で、悪魔的な考えがよぎる。


 死期が迫ってから、ウチはそのことばかり考えていた。


 人間は死ぬとき、「もっとこうしておけば」よかったと思うようになるって話を聞いたことがあったが。まさか本当だったとは。


 だから、侯爵を説得して、もう一度テネブライの土地を踏むことにした。

 

 

 さてさて、女神様。あんたの期待に答えられへんかったこと、お許しを。


 せっかく生き返らせてくれたのに、ウチはその生命をムダにした。


 だが、この新大陸を攻略しないことには、生きた心地がしない。

 魔女と生まれたからには、知的欲求を満たす。

 たとえ、再び死んでも。


「ウチはゲームは裏面もやりこむタチなんよ。デバッグ探しが趣味やさかい」


 装置を前に、手をこすり合わせる。


 ウチが作った転送装置は、カプセル型だ。

 スポーツマンが入る、高濃度酸素カプセルのような形をしている。中に入ったら、培養液で満たされる仕組みだ。


 片方にはモンスターの欠片を、試験管ごと設置した。あと、皮膚や肉体組成になりそうな素材、モンスターの死体などを詰め込む。

 で、培養液をドバーッ、と。


「よし、満たされたな」


 もう片方の装置には、ウチが入る。


 幼女の肉体構成年齢は……九歳にしよう。八歳以下だと、幼女というより子どもだからな。性に目覚めるかどうかくらいの年齢が、そそるだろう。


「おっしゃ。スイッチオン」

 

 魔法で、装置を作動させた。


 これで転生装置が動いたら、大成功のはず。





 

 ウチの意識が、再び女神の元へ。


「また、死んじゃいましたね。アトキンさん」


「いや。ウチは今度こそ天寿を全うするために生きるんや」


「まあ、そうでしょうね。アトキンさんなら」


 思わせぶりに、女神が告げる。まるで、ウチの本心をわかっているかのように。


「わかっとったんかいな。ウチの気持ちを」


「ええ。女神ですから」


 女神は、微笑む。


「あなたは、人になにかしてもらって喜ぶタイプでは。ありませんでしたよね?」


「せやな」

 



 そもそもウチは、「人に言われたことだけやっとったらええ」って生活から、脱却したかった。

 親の言われたとおりにいい成績を取り、先生の言われた通りの会社に入り、上司の言われた仕事をこなす。

 生きていくなら、それでいいだろう。


 だが、それは死んでいるのと同じ生き方だった。


「他人に用意してもらった人生」で満足できるほど、ウチは軽い女ではない。

 どうせ転生するなら、自分の意志で。


 そう思って魔法使いという職を選び、自身を鍛え、自ら転生する方法を編み出した。

 できるだけ、自分のことは自分でやろうと。

 脳筋でバリバリ動くのも興味があったけど、やはり魔法があればなんでもできそうだった。


 どうせなら、自分でなんとかしたい。


 


 

「せや。ウチは生まれ変わるねん。自分で動けるように。新大陸は、自分の力で開拓していきたいんや」


「わかりました。ようやく、あなたの本心が聞けてよかった。では、その魔物との融合にご協力しましょう」


「おおきに。ほんでアンタは、ウチにしてもらいたいことは、ないんか?」


「特には」


 ないんかい。


「あなたが第二の……ここでは第三のでしょうか。人生をまっとうしてくださるだけで、私は十分に力を得られますゆえに」


「さよか。このモンスターの魂は、どないなるんや?」


 身体を借りることになるんだ。意志とか、どうなるんだろう?


「お気になさらず。この魔物に意志などはありません。本能のみで動く異形です。好きにお使いなさい」


 なるほど。では、遠慮なく。


「あなたの魂を、魔物に固定しました。まもなく、転送が完了します」


「よっしゃ。ありがとうな」


 



 ウチは、カプセルの中で目を覚ます。


 培養液を排出し、カプセルから出る。


 即座に、側においてあった姿見に目を通した。


 おお! ちゃんと幼女になってる。白すぎる肌に、赤い目。アルビノか。しかも……。


「ロリ巨乳! ウチの性癖にマッチしてやがる! 女神様、やるやんけ!」


 豊満になったバストを、ウチは揉みしだく。

 お椀型ロリ巨乳とか、最高かよ。ふくらみかけでもない、かといって奇乳でもない。絶妙な大きさ。人によっては「ただのCカップやんけ」とか言うだろう。だが、ロリ巨乳のサイズなんて、こんなものでいいのだ。

 

 これはいい。幼女だから、適度に硬めなのも最高かよ。


 平べったくてもよかった。世間には「真っ平ら原理主義」ってのがあって、その気持ちもわかる。

 だがウチは、どうせならトランジスタグラマーってやつになりたかった。


 別に、弟子のカニエに対抗心を持っているわけじゃない。

 ウチよりグラマーに育って……。

 いや、過去回想はやめておこう。


「おおお。触手髪やんけ。これは、ヘキ持ちは興奮してまうな」


 髪の毛が、複数の触手になっている。まるでタコだ。とはいえ、吸盤のところは目のような宝玉が埋まっている。自分の意志で全部動く。


 髪をまとめたかったが、先にシャワーを浴びることにした。

 

 シャワーと、入浴を済ませる。


 進歩したなあ。昔は、一週間風呂に入らんでも平気で、弟子のカニエに無理やり入れられてたっけ。


 温風の魔法で、全身を乾かす。うん、魔法もバッチリだ。

 

「ツインテにしたろ」


 ウチは触手髪を、ツインテールにまとめた。金属のアクセがついたシュシュがあるから、それでセットするか。


 勝手に髪がまとまってくれるんやな。これやと、寝癖も安心や。


「あとは、服やな」

 

 誰もいない人類未踏の地といえど、全裸はさすがにアカン。


 相手は人間の意志があるかどうかわからない、本能で動く魔物たちだ。


 そこにこんな、ムチムチプリン・オブ・プリンな幼女が現れてみろ。たちまち凶暴化だ。主に生殖機能が。


 凌辱されるわけには、いかない。ウチは長く生きて、性的なことにまるで興味がないことに気づいた。伴侶もいらぬ。一線を越える行為も、見てるだけでいい。あんなのは、二次元の世界だけでOKだ。


「あらかじめ作っておいた服を」


 ウチが用意したのは、ぴっちり新型スク水!


 ロリといえば、フリフリのドレスだろ! ってガチ勢がいるかもしれない。


 ウチは違う。ウチのヘキはぶっちゃけ、スク水幼女なのだ!


 水棲魔物のウロコを使って、前世の記憶から引っ張ってきたゴム技術に貼り付けて、競泳水着っぽい新型スク水を完成させた。

 

 太ももがわずかに隠れる、最新型スク水……あれはいけない。


 選択の自由があって、キッズたちにはよかろう。保護者も超安心だ。


 しかし、古のオタクであるウチには受け付けない。


 太ももとお尻がバッチリ見えてこそ、水着。いい感じにスリットが入ってこそ、スク水。

 

 わかってくれとはいわん。ウチが現代日本にいたら、抹殺される対象だ。

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