赤子の生き霊

第1話

 最近、清美はあることに悩まされていた。三ヶ月前に第一子の翔太が生まれ、新しい家に引っ越してきたのだが、そこでポルターガイスト現象──例えば、勝手に電気がついたり、椅子が動いたりすること──が起こるようになってしまったのだ。


「ただでさえ不気味なのに、育児にも支障をきたしてしまうのはよくない」


「じゃあ、どうしましょうか」


「俺の知り合いに霊媒師を紹介できる人がいる。今度頼んでみよう」


 夫の貴教と話し合った数日後、霊媒師の女性が家に来た。彼女の名前は岸田典子といった。典子は40代で普段は看護師の仕事をしているとのことだった。


「確かに、この家には霊がいます」


「ではぜひ典子さんに祓っていただきたいです」


「それはできません」


 清美は典子の視線に気づいた。典子はベビーベッドで寝ている翔太のことを凝視していた。


「この家で怪奇現象を起こしていたのは翔太くんの生き霊です」


 典子の説明によると、翔太は強力な霊能力を持ってして生まれた子であると言うのだ。また、今はまだ自分の能力をコントロールできていないため、このままだと清美と貴教の身に危険が及ぶと言うのだ。


「そこで、私からの提案です。翔太くんが成長して、自分の能力をコントロールできるようになるまで、私に預けていただけないでしょうか。もちろん、翔太くんは私の命に替えても大切に育てますし、いつか必ずあなたたちの元へお返しします」


 清美と貴教は典子の提案を断った。生まれたばかりの可愛い息子を数年間も他人に預けるなんてことは二人にはできなかった。典子は「残念です」とだけ言って帰っていった。

 それから、清美と貴教は典子に二度と会うことはなかった。


 ある日、典子は悲しげな表情を浮かべながら新聞を読んでいた。記事には20代の夫婦が倒れてきた冷蔵庫に頭を挟まれて死亡したということが書かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤子の生き霊 @sketch_book

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ