幕間短編② 下冷泉霧香の愛液ドバドバエロエロな淫夢

「フ。眠い。唯お姉様をオカズにしてオナニーしたいというのに眠気が邪魔をしてくる。私の唯お姉様に対する愛情と性欲はその程度だったというの……⁉ 動きなさいよ、私の愛液で輝くはずだったライトハンド! くっ……! 睡眠不足が過ぎて私の右手に宿る唯お姉様が疼かない……! 何なら頭の中の唯お姉様がぐちゃぐちゃ! 何をやっているのよ私の脳! ぐちゃぐちゃにさせるべきは私の女性器の方でしょう⁉ 後! 妄想の中の唯お姉様はもっと美人でエロくて処女でしょう⁉ そんな唯お姉様は世間に出せないわ! 解釈違いよ解釈違い! 唯お姉様を出せないって言うのなら唯お姉様の処女膜を綺麗に再現しなさいよ私の脳内! オラ! 孕ませろオラ! 私の脳内で唯お姉様を孕ませなさいよオラ! どうして脳内の私には男性器が付いて唯お姉様をアンアン言わせてパンパン犯しているのに、現実世界の私には男性器が生えていないのかしら⁉ これじゃ唯お姉様を脳内でしか犯せないじゃないのよ⁉ お預けプレイって本ッ当に最ッ高ね!!!」


 ……とまぁ、誰もが聞いて嘘だと思うような嘘を流れるように口にして。


 私の初恋の相手である天使唯が朝食を作ってくれる間、私はベッドの上で横たわって目を閉じる。


 流石に彼が作ってくれた料理を前に欠伸をする気なんて更々ないし、彼が学園で危ない目に遭うかもしれないというのに『眠くて助けられませんでした』だなんて、それこそ起こり得てはならない。


 彼が危ない目……隠し通している性別が他者によって解き明かされてしまうだなんて、あってはならないのだ。


 だから、私は彼を守る為だけに少しでも睡眠を取る。

 それが今現在の私のやるべき役割なのだから。




━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━╋━




「ゆーくん! ゆーくん! ゆーくん!」


「……何……?」


「ティラミスつくってー!」


「……また……?」


「うん!」


「……きりかちゃんって、本当にティラミスが好きだよね……」


「好き! ゆーくんが作ったティラミスが世界で2番目に好き!」


「……そ、そうなんだ。……2番目、なんだ……」


「うん! 私が世界で1番好きなのはゆーくんだから! ティラミスは2番目! ゆーくんが1番!」


「……っ⁉ い、いきなり、何言って……⁉ う、うぅ……! は、はずかしいから……! そういう嘘やめてよ、きりかちゃん……⁉」


「えへへ、嘘じゃありませーん!」


 懐かしい。

 本当に、懐かしい光景だった。


 もうこの世から消えてしまった孤児院での日常の風景が、鮮明に夢の中で再現されて――あぁ。そっか、これ、夢ね。


 でも、まぁ、例えこれが夢だとしても。

 昔の思い出を懐かしむのは、決して悪い事じゃない。


 私はあくまで夢を楽しむ傍観者として、下冷泉の苗字が付く前の6歳の少女の初恋事情を見守る事にしたのでした。


「ところできりかちゃん」


「なぁに?」


「きりかちゃんって、ぼくより1さい上だよね?」


「うん! 私、ゆーくんよりお姉さんだよ!」


「……逆じゃない……? いろいろと……」


「それを言うんだったら、ゆーくんってどうしてその顔で女の子じゃないの?」


「うっ……」


「そういうこと、そういうこと! そういう訳で私がゆーくんに妹みたいに甘えてもいいんだよー!」


「……なっとく、できない……」


 幼い時の彼は、それはそれはとんでもないほどの美少女だった。


 彼と銘打ってはいるものの、誰がどう見ても銀髪の女の子にしか見えない彼は本当にこの世の生物とは思えないぐらいに綺麗で……幼い時の私はそんな彼と初対面の時に女の子と間違ってしまった事があったぐらい。


 だからこそ、私は彼を男性名称っぽい『唯くん』を少し砕いた『ゆーくん』という呼称で呼び、毎日毎日1歳年下のかわいい男の子と仲良く暮らしていたと思う。


「うでにからまないでよ、きりかちゃん。すっごく歩きづらい」


「えへへー!」


「えへへじゃない。はなれて。べたべたしないで」


「やだー!」


「まったく……どうしてこんなのがぼくより年上なのかな……って、ひ、ひぃっ⁉」


「ん? なになに? どうしたのゆーくん?」


「キ、キッチンに……! ゴ、ゴキ……!」


「ゴキブリ? ゴキさん出たの?」


「言わないでよっ⁉ う、動っ……! こ、こわいっ……! ね、姉さん……⁉ 姉さぁん……⁉」


「ちょっとゆーくん。腕にからまないで。後、わかねえは今、中学校でお勉強してるでしょ」


「だけど、だけどぉ……⁉ アレこわいっ! アレきもちわるいっ! アレやだっ!」


「はいはい。私が何とかするからね。だから離れてね」


「やだぁっ……! はなれないでぇ、きりかちゃん……!」


「近づきすぎだから離れてね、ゆーくん」


「だってぇ……!」


「はいはい。わか姉がいない時は私が守ってあげるからね」


 そうそう。

 昔から彼は何かある度に自分を男だと主張し続けていたけれども、こういうところは男らしくないというか……まぁ、そういうところが愛おしくて今でも仕方がないのですが。


 彼は何だかんだで嘘をついたり虚勢を張ったりするのが昔から苦手で、10年ぶりに再会した彼の挙動不審っぷりと言えば、本当にあの日を容易に思い出してくれるほどで。


 何はともあれ……涙目で、膝をガクガクを震わせて、まだ幼さを残している彼はいつの時代でも犯罪者ホイホイでしかなかったのです。


 正直言って、夢の中ならショタ時代の彼を襲ってやりたいまであるのですが、自分の理性を総動員して何とかそれだけは防ぐ事にする。


「はい、ゴキさんやっつけたよ。もう大丈夫だからね、ゆーくん」


「ほ、本当に……?」


「信じられないなら見る?」


「や、やだよっ⁉」


「それにしてもゆーくんってゴキブリ苦手だね」


「そ、そんなわけないからっ……!」


「そっか。でも大丈夫?」


「な、なにが……?」


「ゴキブリって1匹いたら数10匹はいるって、わか姉が言ってたよ」


「……………………………………」


 そうなのだ。

 基本的に彼は困ると昔から黙り込むという悪癖があるのだ。


 これからの女装生活でそんな悪癖の所為で隠し通すべき秘密が露呈しないといいのだけど……まぁ、あの時の私みたいにそこのところはフォローしてあげる事にしよう。


「あー、うん。ゴキブリをやっつけた所為でティラミス食べる気なくなっちゃった! ゆーくん、代わりに何かして遊ぼ!」


「……も、もう! きりかちゃんはしかたないなぁ! ぼくはそういうの大丈夫だけど! きりかちゃんがそう言うならしかたないなぁ!」


「じゃあ何して遊ぼっか? ゆーくんがこっそりテレビで見るぐらいに大好きな京都弁で僕っ娘で巨乳なアイドルに扮して可愛がってあげよっか?」


「そ、そういうのいいから……って、何で知ってるの⁉」


「ゆーくん。あぁいうわざとらしそうなあざとい女子が好きなんだねー!」


「ち、ちがうからっ……! 本当にちがうからっ……!」


「本当かなー?」


「ほ、本当だもんっ……!」


 基本的に彼は昔からそういう感じの人。


 噓つきの癖に、しょうもない嘘ばかり吐いて、しかもそんな嘘をつくのがどうしようもないぐらいに下手くそで、それらが余りにも愛おしい人。


 夜中に怖い夢を見てしまったが為に怖くて、隣で寝ていた私を起こしては一緒にトイレに行ったりだなんてよくある事で……男らしいという言葉の真逆に位置するような人で、漫画やアニメで出てくるようなヒーローとは全然かけ離れているような人だけど、それでも私にとっては1番大切な男の子だった。


 顔は良いし、かわいいし、料理は上手だし、ティラミスは美味しいし、見ていて面白くて、一緒にずっといたいなぁ、ってそう思うような男の子。


 ――そんな彼と、私には、親がいない。


 正確に、後、生物学的にも言えば、生みの親はいたらしい。

 だけど、男も女も両方の親も物心がつく前に死んで、調べようと思わない限り辿り着けないような孤児院に押し付けられて、何だかんだ生きてきた。


 だからなのだろうか……私たちは家族という概念に対して諦観の感情と、どうしようもないぐらいの羨望の感情を有していて、どちらにせよ酷く固執してしまうようなしがらみがあったように思える。

 

 どちらにせよ、孤児になってしまった以上、永遠に孤児だ。

 遺族が永遠に遺族のように、私たちは死ぬまでずっと遺族で孤児だ。


 永遠に他人から『かわいそう』という目で見られ続ける。

 どれだけ幸せな生活を送り続けても、どれだけ満ち足りた人生を過ごし続けても、その視線が消える事はない。

 

 私たちの存在はある意味では、普通に生きる人たちが『どれだけ幸せなのか』と教える為の教材のように思えてならない。


 ――そんな風に、どうしようもないぐらいに捻くれて、自分に対して嘘を吐き続けて、嘘に慣れ過ぎて、己自身を見失うような人間になってしまう。


 悲しくても『笑える』と主張し、笑えなくても『笑える』と無理に表情筋を動かして、涙を流したくなっても『笑える』ように無理やりに表情筋を動かして、苦労があったかと問われても『苦労なんて無い』と言わないといけない人間を演じ続けないとやっていけない。


 ずっとずっと『良い子』を演じないといけないのが私たち。


 ずっとずっと『偉い子』を、『強い子』を演じなくてはならない。


 『自分、不幸です』なんて口が裂けても言ってはいけない。


 家族を失ったのだから『良い子』を演じないと、演じ続けないと、無理やりに笑い続けないと、これからの社会で苦労するのが私たち。


 そういう風に社会は出来ているのだから、仕方ないと言えば仕方ない。


 そうしないと、とても生きていけないから、そうなる。


 だから、私は昔から嘘を吐くのが得意だったし、彼の姉もとんでもないぐらいに嘘を吐くのが得意だった。


 ――だから、余りにも嘘をつくのが苦手な彼の事が余りにも羨ましかった。


 嘘が下手で、下手すぎて、目を逸らしてしまうぐらいに嘘が下手な彼が、本当の事が透けて見えてしまう彼が……どうしようもないぐらいに好きだった。


 余りにも嘘をつくのが苦手だったからこそ、彼が思っている事が余りにも分かりやす過ぎて、余りにも素直が過ぎて、私と違って汚れていたり歪んでいなかったから、宝物のように大事にしなくちゃって思って……気づけば、彼のそういう所が好きになってた。


 そんな彼が好きだって気づいた時の自分の感情が嘘かもしれないって悩んで、悩んで、悩み続けて、本当に好きなんだっていう本当に気づいた時は、どうしようもないぐらいに嬉しかった。


 自分を嘘で偽らないでいいんだって気づいた時、それはそれは信じられないぐらいすっごく嬉しくて……下冷泉の家に拾われて彼と別れる事になって、3日の間、ずっとずっと泣いてしまった事もあったぐらい、彼の事が今でも大好き。


 だから、彼に最大級の愛情を。

 持てるだけの本当を、嘘に変えて。


 最低最悪だと世間から評されている嘘を以て、彼を守ってみせる。


 それだけの理由が、幼い日の現実の中に、あの日の夢の中に、十二分にありすぎるのだから。

 



━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━╋━




「――わか姉と約束したもの。わか姉がいない間は私が代わりにゆーくんを守る、って」


 まだ、眠い。

 十二分な睡眠時間が取れていなくて、頭を全力で動かせないかもしれないという自覚はある……だけど、それがどうした。


 先ほどよりかは頭と身体が動くのなら、大丈夫。


 頭と身体が動かせるのならば、嘘はつける。

 噓をつけるのであれば、彼を騙せる。

 彼を騙せれば、彼を守れる。


「……フ」


 夜のとばりは上がり、本当と嘘で溢れかえる劇場が開演する。

 銀髪紅眼の主演女優という現実ではありえない嘘を更に強度に、更にリアルにする為だけに急遽用意された引き立て役の私が表舞台に姿を表す。


「フ。おはよう世界。今日も騙してあげる」

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