いっしょ!!!
かしゆん。
第1話 過去と記憶の邂逅
「なぁ
「思わない」
「即答かよ~」
「どうせ昨日のアニメ見たんでしょ? なんだっけ?」
「確か、『人にとって人生を少しでも曲げた出来事はみな覚えている』だったかな」
別にセリフを聞きたかった訳じゃなくて題名が聞きたかったんだけど。まぁいい。
今アニメの引用をしている目の前の友達は
「風間、確かにお前の言ってることも分からんでもない」
「なんそれ」
「だけど、何で即答なんだ?」
「いや、そんなの」
理由なんて無い。でもここで格好の良い切り返しが出来たら、一本とれるというものだ。何かユーモラスに富んだ返しは無いものか……
「口が勝手に」
「面白くない、失格!!!」
「駄目か」
自分もそう思う。昔に比べて、ボケもツッコミもキレが落ちたものだ。
「は~い、さっさと席着け~」
「やべ、席戻るわ」
「うい」
柳下はそそくさと席に戻って行った。帰りの号令をかけるために戻ってきた先生は何だかうずうずしているようだった。
「なんだろ」
「トイレ行きたいんじゃない?」
「そんな訳……無いと思うけど」
隣の友人は
それはさておき、トイレに行きたいなら体を常時少しだけ動かしている筈だ。一度止まってしまうと尿意もどっと押し寄せて来る。俺だけの癖かもしれないけれど。
「ジュース一本賭ける?」
「別に良いけど。法律違反じゃないのか?」
「分かんない! でも、まだ高一だから少年法が俺達を守ってくれるよ」
「幸せそうで結構」
「じゃあ、一本賭けな!」
「うい」
多分勝てる賭けに乗って、先生の次の言葉に耳を傾ける。
先生はぐるっとクラスを一周見回して徐に口を開く。
「転校生が、明日来る」
「「「「「「「「「「おぉぉ~!!!」」」」」」」」」」
クラスの殆ど全員がテンション高くなる。勿論、自分も例外ではない。隣を見るとちょっと涙目になっている智弘がいた。可哀想なワンコみたいな見た目だ。でも、許しは無いぞ。そっちから誘ってきたんだから。
「オレンジジュースで」
「……意外と可愛いもん飲むのな。コーラとかかと思った」
「は? 何飲んでも良いだろ!」
「もちろん。高くなきゃ」
「馬鹿にされたからちょっと良いオレンジ探してやる」
「やめやめ! すまんって!」
軽口を叩いた所で先生の話に再度耳を傾ける。内容を要約すると、明日に転校生が来るから皆驚かずに歓迎して欲しいとのことだった。このクラスの机の配置は四隅が空いている為、恐らくその空いている四隅のどこかに座ることになるらしい。因みに、自分は左の窓側の四隅の隣。ここに来ることがあったら転校生とは他の生徒よりも早めに仲良くなることになるだろう。
「先生! 性別!!!」
「先生は性別じゃないです」
「そう言うの良いから!!!」
「先生泣くぞ」
比較的若めの優しい担任が嘘泣きをする。きっと教頭先生にこれは通用しないだろう。なんだかんだこのクラスの先生は当たりだ。
「先生を泣かせたので性別は明日まで秘密です」
「「「「「「「「「「えー!!!」」」」」」」」」」
「それじゃあ今日はこれで終了!気をつけて帰れよ!解散!!!」
「逃げるな卑怯者ー!!!」
「何、お前達から逃げているのではない。私は業務から逃げているのだよ」
「それはそれでどうなんですか!!!」
傍から見ていても、先生は生徒の扱い方が上手いな。自分も見習いたいけれど難しい所だ。
「風間。行くぞ、ジュース」
「ほんとに奢ってくれるのか?」
「あぁ、言っちゃったし……」
そうは言っても財布を開いた時、本当に一瞬だけ見るからに顔を顰めた智弘に金をつかわせる訳にもいかない。意図的じゃないっぽかったし。
「別に良いよ」
「え、まじ?」
「ただし、今度遊びに行くときになんか奢ってくれよ」
「分かった!ナイス!」
「なーにがナイスだ」
やっぱり今はお金ないんじゃん。
「うい! 帰ろうぜ!」
「おけー、今行く」
柳下に呼ばれて一緒に帰る。
「あーあ。今隣に居る風間が三橋さんだったら良いのになぁ」
「現実見せてやろうか?」
「……ごめんて」
「いいよ、対価として詳しく聞かせて」
「やらかした」
帰路に就き、柳下の今好きな人の話を聞く。やっぱり他人の恋愛話ほど鮮やかで面白いものは無い。滔々と話している柳下の姿は活き活きとしていて、羨ましくも思えた。
歩いていると、カンカンと
「急げ!」
「それでさぁ、三橋さんが言うんだよ。『それはす……』」
「後でたっぷり聞いてやるから!」
「それ死亡フラグな」
「物騒なこと言うな! 死なないわ!」
「今のでフラグ折れたね。セーフ」
何がセーフだ……そもそも殺そうとするな。
虎を彷彿とさせる長い棒が降りて来るのを確認しながら、小走りで線路を渡りきる。勿論の事、電車に轢かれるなんてことは無い。
「よし、完璧に間に合った」
「はぁ……まだあのバー半分も降りてないぞ。流石に全力疾走しすぎじゃないか」
「運動不足解消だと思えばなんとか」
「なんとかじゃないわ」
フワッと、いい香りがした。それと同時に風に靡く黒髪の女子が横切っていく。
心臓がバクバクと鳴っている。何故だろう、本当に何故だろう。
「ん? おい、大丈夫か? やっぱり全力疾走してお前も疲れてるんじゃない?」
「ん……そうかも、ちょっと歩いていい?」
「もちろん。それは俺からも提案するわ」
高鳴る鼓動は収まらない。
この動悸が何なのかを確かめるために、ふと後ろを振り返る。
電車が視界を覆った。
動悸は、もうしない。
「おーい? さっさと行くぞ」
「あ……ごめん」
「なんだ? まさか今の横切って行った女の子へ恋に落ちてしまったとかか?」
「違うよ」
「知ってた。ほら、体調悪いなら肩貸すぞ。路線は途中まで一緒だし」
「ありがとう。もう収まった」
「そうか、じゃあ三橋さんの話の続きしても良い?」
「どうぞ」
気のせい、か。
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