お祭り編
第17話 ティアロップの集い
「そういやアンタら、王都のお祭りの警備はまた例年通り頼んでいいのよね?」
「……ごめん、ちょっと遠くにいたからよく流れが分からないんだけどなんでお前
「匂いを消して生理的変質魔法で換羽期の調子を整えたら懐かれたのよ。マナも乗ろうと思えば乗れると思うわよ」
「それは気になりますけど……あの、さっきの話はいいんですか?」
本音を言えば帰り道に乗せてほしい。けれどそれより前に先ほど話をしていた警備の話が気にかかった。
「ああ、そうそう。もうすぐルーンティナの王都でお祭りがあるのよ。“
「王都を警備する専門の隊もいるけど、なにぶん国の一大行事だからな。普段はこの辺りに構えてる騎士たちも招集させられるんだよな」
「そうでなくともお前の呼び出しは必須だろう。精霊に選ばれた数少ない人間、《ソルディア》の一員なんだから」
ディノクスさんとリュミエルさんの説明に、メッドさんが肩をすくめる。アメジストの瞳に同意するように、ルビーの瞳が伏せられた。
「厄介な話ではあるな」
「まあまあ、そういうなってヒース。お前がウチに入ってから二回目なんだし、少しは慣れただろ?」
リュミエルさんの言葉にも、ヒースさんはむっつりと黙り込む。先日ともに街に買い物に行った時にも、人が苦手だと言っていたから。王都とあらば大勢の人がいるだろうし、彼にとっては負担なのかもしれない。
「あ、あの……その王都で行うっていうお祭りの警備で、私にも何か手伝えることはありませんか」
「マナミ……?」
誰に聞けばいいのか分からず、そこにいる人々の顔を順繰りに見る。いぶかしむメッドさんと愉しげな表情を浮かべるリュミエルさん。その中間のように口と眉をちぐはぐにするディノクスさんが印象深かった。
「とは言ってもねぇ……リュミエル、アンタいい案ないの?」
「いくつかアイデアはあるよ。警護の一員ってなるとマナさんとしても大変だろうから祭りの運営側のサポートに入ってもらって、都度不審者がいないか辺りを見てもらうとか」
「が、がんばります……」
──正直なところ接客のように対人相手は苦手だけれど……ヒースさんも頑張っているのに、私ばっかり甘えてもいられない。胸元の服を握りしめれば、リュミエルさんの苦笑が視界に入る。
「うーん、そんなに悲壮感漂う姿で言われると罪悪感が勝つなぁ。……じゃあ、こうしよう。“
「無条件で出来るのは
「まあまあ。そこを俺が
「
先ほどの決意表明よりも数段生き生きとした声が出た自覚は真奈美にもあった。これまでに全く聞いたことのない名前だけれど、それも動物……魔獣だろうか?
「手のひらの上に乗るくらいのふわふわとして、地面に穴を掘って暮らすタイプの魔獣なんだ。黒くて手触りがいいからぬいぐるみとかは子どもに人気なんだけど、本物はざらついた舌を伸ばして攻撃してきたり、土魔法で足場をもろくして人を穴に落としたりするからさ」
そういう危険なしにかわいい動物と触れ合える場所があったらいいと思わないか? そうウィンクをするリュミエルさんに何度もうなずきを返す。
「と、とってもいいと思います!」
「よし、じゃあ決まりだな。ヒース、悪いけど来週いっぱいまでにフィンカを連れて
「分かった。……自分たちだけで問題ないか?」
ヒースさんの瞳は僅かにこちらを見る。確かにここ最近は魔獣に会いに行くときには必ずヒースさんと一緒にいたし、
「それもいいけど、さすがにそこで対応をお願いするってなったらマナさんが当日焦らないで済むように、王都についてとか都の人に質問されそうなことの対応をしておかなきゃだからな」
「ひゃい……」
何をするか分からないお祭りの運営よりはずっと気持ちは軽いけれど、それでも苦手なところも少し頑張らないといけないみたいだ。肩をすくめていると「アンタも大変ね」とディノクスさんが声をかけてきた。
「マナミ、今日はそっちに泊まってそこで何点か聞き取りをさせてちょうだい。縁を辿るには情報が欲しいもの。元の世界の特徴を聞き取ったら、空き時間に類似の世界の波長があるか確かめたげる。お祭りが終わったころにでも、成果を教えてあげるわ」
「あ、ありがとうございます……!」
──元の場所に帰ることへの葛藤は、ある。けれどもそれをこの段階で言い出せるわけもなく。ただ私は深く頭を下げるだけだった。
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