全てを手に入れ全てを失った最強の魔王、2周目の人生はゆるく楽しく騒がしく

冷凍ピザ

第1話 失意の末の転生

 この魔王城玉座の間には今、4人の男女が倒れている。

意識が残っているのは勇者の男1人だけで、他の弓使いと騎士の女2人は既に死亡し、もう1人の聖職者の男は意識を失っている。


「ぐっ……」

目の前に倒れている唯一意識が残っている勇者のの首を掴み、ゆっくりと持ち上げる。


 苦しそうに声を上げてはいるが、今のダメージではそれ以上に何か行動が起こせるわけではないのだろう。


「今回の勇者パーティーもこの程度か、興ざめだ」

「お前、がバケモン過ぎる、んだろうが……」


 首を掴む手を離すと男は受け身をとることもできずに落下し、倒れこんだ。


「もう我慢の限界だ。つまらん」


 その言葉と同時に右手に魔力を流し、風属性魔法の魔法陣を形成。


 そして明るい緑色の魔法陣が形作られた右手を上にかかげ、魔法を発動した。


 魔法により発生した風は膨らみ、まるで爆発するかのような勢いで天井や床を吹き飛ばした。


「天井だけ開けるつもりがほとんど吹き飛ばしてしまったな」


 俺は負けず嫌いな性分なので自分の敗北が歴史の刻まれるのは気に入らない。

勇者パーティーを人間の国に帰さないようここで消しておくかな。


 今度の魔法は2種類同時。

1つは先ほどと同じ風属性魔法。

もう1つは電撃を放つ電属性でんぞくせい魔法だ。

2つを個別にではなく、掛け合わせ1つの魔法のようにし放つ。


 バリバリと爆音を鳴らしながら行く手を阻むもの全てを壊し、風によって無差別に広がる電撃に指向性を持たせた。


 その魔法は効力を失い消滅するまで前へ前へと進み続けた。


 放たれた魔法の圧倒的な破壊力により魔王城は上からガラガラと音を立てて崩れていく。


「ふはははは、いい景色だ」


 この後のことを考えているからか少し自分のテンションが高まっている気がする。


「さて、スッキリしたところだ。そろそろあれを始めるとしよう」


 次の魔法はかなり大規模になる。

これは使用者、つまり俺自身を転生させる魔法。


 これにより、俺は魔王という地位や富の一切合切を捨て去って新たな存在へと生まれ変わるのだ。


「はははははっ、これほど心が踊るのはいつぶりだろうな」



──────────────












「赤ちゃん出てきましたよ~」

人の手が体に触れる感覚。

それは転生の魔法を使用し意識が途切れた一瞬後の事だった。


 俺に触れているこの女はさっき赤ちゃんが出てきたと言った。

その赤ちゃんとは俺を指しているのだろう。


 つまり俺は転生に成功した。

そして言語を話すということは人間か魔族……あるいは第3の俺が知らない種族だ。


「産まれてきてくれてありがとう」

母親と思われる女性がタオルのような柔らかい布に包まれた俺を抱きしめ涙ながらにそう言った。


 俺もあなたに感謝している。

知的生命体として俺を産んでくれてありがとう。



──────────────







「よし、良い感じだ」


 転生してから月日は流れ、俺の新たな体は7歳へと成長していた。


 両親から俺にはダリウスという名が与えられた。


 名前があるというのは非常に良いことだな。

まるで自分が存在していることを名前という記号が肯定してくれているような感覚になる。


「次は……火属性を試してみるとしよう」


 今は家族が寝静まった夜、1人で魔法の進化を確かめている。


 この家は貴族というわけではないものの、望めばなに不自由なく与えてくれる。

それくらいには裕福なのだろう。


 現状この世界の魔法には火、水、氷、電、土、風、光、闇の属性が存在している。


 俺が転生する前は火、水、土、電、風、空間、時間の属性だったが、空間と時間は時の流れと共に廃れ、新たに氷、光、闇の属性が生まれたようだ。

 





 







 












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