吊された男

第1話

 ある夜、晴子は「カタッ」という何かが窓に当たる音で目が覚めた。晴子は枕元に置いてあったメガネを掛けてから窓を見た。そして、発狂した。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」


 なんと、窓の外に逆さ向きに吊された裸の男がこちら睨みつけていたのだ。晴子の叫び声を聞いて、隣で寝ていた宏樹が飛び起きた。


「なんだ!?何があった!!」


「ま、窓の外に男が!!」


 晴子はそう言いながら窓の外を指差した。宏樹は指を指した方を見た。しかし、そこには誰もいなかった。当然のことだった。なぜならここはマンションの五階だったからだ。


「誰もいないぞ?」


「うそ、裸の男が逆さ向きででぶら下がってるのを確かに見たのに……」


「もしかしてお前、また薬を飲まなかったんじゃないのか?」


 晴子は1年以上前から精神的な病気を患っていた。そのため、このようなことは以前も起きたことがあった。


「違うよ!今日はちゃんと飲んだもの!」


「本当か?前にも薬がまずいとか言って飲まなかったじゃないか」


 宏樹がそう言ったとき、窓の外で「ガタッ」という大きな音がした。二人は驚いて窓の外を見た。するとそこには、全裸の男が全くの無表情でこちらを一心に見つめていた。晴子の幻覚かと思われた男は実在していたのだ。


 二人は恐怖に慄きながら部屋を飛び出した。それから近くにある交番まで駆け込んだ。警官に事情を説明すると、彼はすぐに応援を呼んでマンションに向かった。

 それから程なくして男が逮捕された。男は近所に住む無職の男だった。何年も前から、身一つでマンションや団地などに登り、窓から寝ている人を覗き見る行為を繰り返していたという。


 それからというものの、晴子の病気は嘘のように快方に向かって行った。医者も原因が全く分からないようだった。現実とは時に不思議な事が起こるものだ。

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吊された男 @sketch_book

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