狼の遺志を継ぐ者 -山伏の幸明、新たなる旅路

曼珠沙華

プロローグ 第1話:20年後の幸明

 鎌倉時代も終わりに近づく頃、吉野の山々は静かに佇んでいた。

 木々のざわめきと鳥のさえずりだけが、この山中に生命の息吹を伝えていた。


 その静寂を破るように、一人の男が山道を歩いていた。

 長い髪と髭を蓄え、風雨に鍛えられた肌をした男。

 その姿は、かつての少年の面影を残しつつも、年月の重みを感じさせるものだった。


 幸明、今年で45歳。友月との別れから20年の歳月が流れていた。


 「ふむ...」


 幸明は立ち止まり、遠くを見つめた。

 かつて友月と共に過ごした場所が、そこかしこに思い出されるのだった。


 「友月、見ているか? 俺はまだ歩み続けているぞ」


 微かな風が吹き、幸明の髪を揺らした。

まるで友月が応えているかのようだった。


 幸明は旅の途中だった。各地を巡り、人々に自然との調和を説く日々。

 その教えは少しずつ広まりつつあったが、世の中の変化は幸明の思いよりも速かった。


 鎌倉幕府の権威は揺らぎ、新たな勢力が台頭し始めていた。

 そんな中、山や森を切り開いて新たな町を作る動きも各地で見られるようになっていた。


 「難しい時代になったものだ...」


 幸明は深いため息をついた。しかし、その目には決意の光が宿っていた。


 「でも、だからこそ俺たちの教えが必要なんだ。

 友月、これからもお前の遺志を胸に、歩み続けるとするか」


 幸明は再び歩き出した。吉野の山を後にし、次なる旅路へと向かう。

 その背中には、20年の歳月と経験が刻まれていた。

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