39話 株式会社特殊素材研究所

配信をとったその日にダンジョンマスターの存在が認められた。


いくらなんでも動きが早すぎる。いったいなにがあったらそうなるのか。しばらくは頑なに認められないと思ったし、最悪動画もチャンネルも消されるかなと思ってたのに。そうなったら他の配信サイトに行くだけだったけどさ。


さて、国には現在12個のダンジョンがある。つまり12人のダンジョンマスターがいて、俺、瑛士、小嵜、小笠原の奴で4人が名乗り出ているわけだ。


ダンジョンマスターの存在が認められた後になにが起こったかというと、表に出てきていないダンジョンマスター探しだった。


TVでニュース番組のコメンテーターが"残り8人のダンジョンマスターはいったいどんな人たちなのか。どんな思いであの会見を見たのか。気になるところですね"と言ったことがきっかけだ。


ダンジョンの特徴からこういう奴がダンジョンマスターであるみたいな推測記事がでて、あちらこちらであいつはダンジョンマスターかもしれないという噂話がたち、悪ノリした奴らがイタズラでダンジョンマスターを名乗り、ついにはダンジョンのドロップ内容を変えたという本物が現れてさらに動きは加速。


魔女狩りみたいな剣呑な雰囲気ではなく、どちらかというとセレブのゴシップを探す記者みたいな雰囲気で、ダンジョンマスター探しは行われた。


本物が1人現れると、じゃあ自分もとなったのか次々ダンジョンマスターが表に出てきて、現在では確定されていないダンジョンマスターは富良野、奈良、佐世保の3人のみとなっている。


ダンジョンマスターの存在を叩く人間はもちろん居たが、それよりも事実を隠蔽していた政府を叩く人の方が多かったのと、ダンジョンマスターを探すというブームにのまれたので、あまり存在感がない。


また、国はダンジョンマスターの存在は認めたものの、どう対応するのかはまだ決めかねているようだった。


別に俺はそれでいいけどな。とりあえず存在を認めさせることがゴールだったから。まぁついでにダンジョンマスターの人権も認めてもらえたら嬉しかったが、そんな簡単に行くはずもない。しばらくは大人しくしていて、無害アピールをするに限る。


ただ、ダンジョンから資源が取れることからダンジョンマスターは神の使いであるとか言い出した宗教団体が出てきたり、逆にダンジョンマスターは悪魔の使いで人間じゃないと言う宗教団体が出てきたりして、信者同士がバチバチになってるっぽいので、国が荒れる前に対応はさっさと決めた方がいいと思う。


そんなダンジョンマスターブームの裏で、俺はとある企業から接触を受けていた。


配信の録画にコメントがあったのだ。




-----


初めまして。株式会社特殊素材研究所の東畳と申します。

他にご連絡できる場所がなかったので、コメントにて失礼いたします。


弊社では、ダンジョンから採取される特殊な素材を研究し、人の役に立つ製品や技術を開発しております。


町田様の人類の味方をしたいという思いに深く感銘を受け、ぜひ一度お話しする機会を頂ければと思い、ご連絡させていただきました。


よろしければ、下記の連絡先までご一報くださいませ。


【連絡先】

電話番号: 03-XXXX-XXXX


何卒よろしくお願い申し上げます。


-----



コメントではあり得ないくらいのちゃんとした文だ。びっくりするくらいこのコメントにいいねがついていた。


株式会社特殊素材研究所とは、魔核から電気を作ることに成功した会社である。


通称、特研とっけんと呼ばれていて、ここの社長がよくTVやいろんな活動者の動画に出ている。最近人気が急上昇している企業だ。


噂では社員数が10人ほどしかいないらしい。


記載されていた電話番号はHPに載っている特研のものと同じだったが、電話番号なんて調べれば誰でもわかる。どうせイタズラコメントだろうと思って放置していた。


しかし、コメントがあった1週間後。


特研の社長である矢黒やぐろが、いわゆる暴露系配信者のところで、あくまでもダンジョンマスターと連絡を取るにはどうしたら良いかという相談をしつつ、うちの職員が話したいと連絡したけど返事がないと話していた。


いや、あのコメントガチだったのかよ。


これでも町田は人類の味方をすることを謳っているダンジョンだから、大々的に特研から話を聞きたいと言わたら無視するわけにもいかない。本当に味方してるのか疑われかねないからな。


ということで、仕方なく非通知で電話することにした。



『お電話ありがとうございます。株式会社特殊素材研究所です』


「初めまして。町田のダンジョンマスターです。俺と話がしたい伺ったのでご連絡しました。担当者の方はいらっしゃいますか?」


『町田の……大変申し訳ございませんが、こういったイタズラ電話が過去に何回かありまして。こちらの質問にいくつか答えていただいてもよろしいでしょうか?』



そりゃあんな目立つところでダンジョンマスターと話したいって言えばイタズラもあるだろう。


俺だけと連絡したかったならダンジョンにあるアンケート用紙にそう書けばよかったのに。いや、断らせないためにみんなの見えるところで言ったんだろうけどさ。



「はい。大丈夫です」


『町田ダンジョンの12階層で出てくるモンスターをお答えください』


「ファイヤーバードとフレイムウルフですね」


『では、15階層で出てくるモンスターは?』


「現在うちのダンジョンの最高到達階層は13階層なんですけど、答え知ってるんですか?」



14階層に人が来たらダンジョンを更新しようと思ってたから、15階層まで人が来てたら見逃さないと思うし、そもそも15階層は罠しかないからモンスターはでない。



『いえ、大抵の方はここで引っかかりますので。大変失礼しました。ご本人で間違いないようですね。担当者にお繋ぎしますので少々お待ちください』



電話特有の保留音が流れた。

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