宣誓!人類の味方となるダンジョンにする事を誓います!

天沢与一

プロローグ 抽選

それは授業中、突然頭の中で響いた。



『抽選により、ダンジョンマスターに選ばれました。1ヶ月後、人類の侵攻が始まります。攻略されないよう備えてください』



1番後ろの真ん中の席から思わず周りを見渡した。


他の奴らはいつも通り授業を受けているようで、挙動不審になっている奴はいない。先生も普通に授業を行っている。


この声は俺にしか聞こえていないみたいだ。



『ダンジョンマスターになることを受け入れますか?なお、受け入れない場合はこの間の記憶は消去されます』



目の前にまるでゲーム画面のような<はい>と<いいえ>の選択肢が現れる。これもおそらく俺にしか見えてないんだろう。


いったいなんなんだ。ダンジョンマスター?人類の侵攻?いいえを選んだら本当にこの記憶はなくなるのか?


分からないことが多すぎる。もう少し情報が欲しい。


結局俺はその場でどちらも選択せず、とりあえず授業が終わるのを待った。チャイムが鳴った瞬間、スマホを持ってトイレに駆け込む。


少し震えた手で、ダンジョンについて調べる。


ダンジョンとは「地下牢」を意味し、城などの地下に造られた監獄や地下室を指す。一般に「ダンジョン」という言葉が用いられた場合、大抵はゲームの中に登場する「ダンジョン」を意味し、日本語では総じて「地下迷宮」あるいは単に「迷宮」と表現することも多い。(引用:Wikipedia)


声が言ってたのは、地下牢じゃなくて地下迷宮の事だよな……?


続いて、【ダンジョンマスター 声】とか【声 俺だけ】みたいな感じで検索してみた。けれどファンタジー小説ばっかり検索欄に出てきて、他にダンジョンマスターに選ばれた人がいたのか分からなかった。

SNSで調べても今日より古い投稿の嘘くさいものしかない。


声は人類から攻略されないように備えろと言っていた。つまり、ダンジョンマスターを選んだ場合、人類のほぼ全員から狙われるようになるわけだ。


どう考えても危なすぎる。逆にメリットはどう考えても思いつかなかった。


それでも。それでも俺は、気づけば<はい>を選択していた。



『個体名:若島蒼斗わかしまあおとの承認を得られました。これより肉体の仕様変更を行います。』



肉体の仕様変更と聞いて何が行われるのかドキドキしたが、視界がピカっと光っただけで終わる。



『完了いたしました。続いて、ダンジョン運営をサポートするAIをお選びください』



またしてもゲーム画面のような選択肢が現れた。



【モデル:アルファタイプ】

最もスタンダードなAI。攻守ともにバランスよくサポートしてくれる。女性型。


【モデル:ベータタイプ】

ちょっと攻撃的な思考を持ったAI。攻撃は最大の防御と思うあなたにおすすめ。男性型。


【モデル:ガンマタイプ】

守りを優先させる思考を持ったAI。慌てず、焦らず、堅実にいきたいあなたにおすすめ。男性型。


【モデル:デルタタイプ】

必要最低限のみの機能に絞ったAI。ダンジョン運営の自信があるあなたにおすすめ。特典として初期ポイントが大幅にUPします。中性型。


【モデル:イプシロンタイプ】

あなたの代わりにダンジョン運営をしてくれるAI。全てを任せたいあなたにおすすめ。欠点として初期ポイントが減少します。女性型。



選択肢は5つ。


ここまで来て全てお任せはないな。1番最初のスタンダードなやつを選ぶのもなんかつまらないし、攻略されない事を第一に考えると、ガンマタイプだろうか。

けれど初期ポイント大幅UPという文言のデルタタイプも捨てがたい。


そもそもこのポイントはどれくらい貰えて、何に使うのだろうか。初期とつくくらいだし、やっぱり最初の1ヶ月の準備期間に使うのだろうか。となるとポイントは沢山ある方が良い気がする。



『モデル:デルタタイプが選択されました。最後にダンジョンポイントの配布を行います。初期ポイントの10万に加え、デルタタイプ選択特典の2万が追加されます。以降ダンジョンポイントの配布は行われませんので、お気をつけてご利用ください』



そして声が切り替わった。



『初めまして。私はダンジョン運営サポートAI モデル:デルタタイプです。チュートリアルを今すぐ始めますか?』



その声は確かに男とも女とも取れるアルト声で、中性型というのも納得できる。さっきの声とは全然違う。


いや、さっきの声と近いか?……さっきの声ってどんな感じだっけ。今の声より優しくて……それで、スッと頭に入ってくる……どこかで聞いたことのあるような……ダメだ。これ以上は思い出せない。


あの声について、あんまり深く考えちゃいけない気がする。


そうだ。それよりもチュートリアルだ。


今すぐ始めようと<はい>を押そうとしたところ、チャイムが鳴った。予鈴だ。完全に授業のことを忘れていた。調べ物に夢中になっていたとはいえ、昼飯を食べ損ねてしまった。


まぁ、1食くらい抜いても問題ないか。


とりあえず今はチュートリアルなんて出来ないので<いいえ>を選択する。



『チュートリアルの開始をキャンセルいたしました。今後、チュートリアルを始めたい場合は右上の三角を押してください』


右上?


意識すると視界の端っこに再生ボタンみたいな▶︎マークがある事に気づいた。


なるほど。ここを押せばいいんだな。デカデカと文字がずっと表示されてるとかじゃなくてよかった。


その後俺は何食わぬ顔で授業を受けた。


放課後。友人たちからのカラオケの誘いを断って急いで家に帰る。


帰り道で他にダンジョンマスターに選ばれた人を探して見たものの、やっぱり見つからなかった。


親には勉強に集中したいから晩御飯まで話しかけないでと伝えた。これでしばらくは誰も俺の部屋に入ってこないだろう。


こういう時普段真面目に過ごしてると得だよな。まぁ晩御飯までにチュートリアルが終わるかはわかんないけど。


俺は椅子に座って再生マークを押した。続けて<はい>を押す。



『それではチュートリアルを開始いたします。』

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