第2話「森と美少女」


 先日、俺は色々あって異世界転生をすることになった。


 はじめはうっきうきで転生してきた俺だが、今、死にかけている。




 ここは恐らく森の中。


 野生動物の鳴き声と思われる音も時々響いている。


 ここから立ち去ろうにも、生まれたばかりの赤子である俺にはそんな力は無い。




 そう、俺は捨てられたのである。


 いや、捨てられて"いた"。という方が正しいだろうか。




 俺が目を覚ました時にはもう既にこの場所に居た。


 


 俺がこの世界に生まれてからおよそ4日目。


 腹は減り、喉はかっぴかぴに乾いてしまった。




 にしても普通赤ん坊ってこんなに飲まず食わずで生きられるもんなのだろうか。


 下手したら、成人した大の大人であっても力尽きて飢え死にする頃合いなんじゃないか?




 色々と疑問は浮かんでくるが、そんな事気にしている場合じゃないほど状況は絶望的だ。




 あーぁ...。




 この世界でもこんなにあっさり死ぬのかよ...。






 そんな時、そう遠くはない草むらの方から、何やら足音のようなものが聞こえた。




 ここ4日間暇だった俺は、足音から何の動物かを判断する能力を得たのだが、これは聞いたことのない足音だ。


 音の間隔的に、恐らく2足歩行。


 そして、音の重さから考えるに、他生物と比べても長身。




 前世から聞き馴染みのあるこの足音。




 これは、人間だ。




 これはチャンスだ。


 ここ4日間運よく?生き延びることが出来たがこの先どうなるかは分からない。


 可能であれば、人の助けが欲しいものである。




 俺は小さな肺に入る極限まで息をため、胸のあたりに力を込めた。


 唾を呑み込み、覚悟を決めると赤ん坊、最終奥義"泣き"を発動した。




 人家一つない広大な森には赤ん坊の泣き声はがとてもよく響いた。


 俺の泣き声に合わせるかのように小鳥たちは一斉に飛び立つ。


 そのハーモニーは、不協和音ながらとても心地よく調和していた。






「ん?」




 どうやら気付いてもらえたようだ。


 


 草をかき分け、人と思われる音は徐々に近づいてくる。




 一先ず安心だ。






「え...子供...?」




 俺は目を疑った。


 薄暗い森の中から現れたその人物。


 女神にも匹敵するであろう美しさをもつその人物。




 美女だ...。


 白銀色のシルクのような長髪が似合う美女。


 いや、美"少"女といったほうが正確だろうか。


 とにかく幼い。


 しかしその顔立ちには不似合いなほど、立派な膨らみが....。




「大丈夫...?」




 個人的にドタイプなその少女は俺の口元に手を寄せて、息があるかを確認する。


 思わず口づけしてしまいたくなるような距離感であったが、逃げられてしまいでもしたら元も子もないのでどうにか堪えた。






「よかった、生きてはいるみたいですね。」




 安堵のため息をこぼし、そっと胸を撫でおろす。




「ん、これは?」




 俺の近くに手を伸ばし、何やら小さな紙きれのようなものを手に取ると、目を細めて観察する。




「エーデル・キルフリント...君ですか。」




 どうやら、先程の紙切れには俺の名前が記されていたらしい。


 エーデル...。悪くない名前だ。


 覚えておこう。




「あ、そろそろ日が暮れますね。一旦、私の家に行きましょう。」


 


 そういうと、目の前の白髪美少女は俺の体を重たそうに持ち上げた。


 再びしっかりと抱きかかえるとまた森の奥へと歩き出した。




「うぅ...。赤ちゃんって思ったよりも重たいのですね。」




 そりゃあそうだろう。


 あくまで前世での知識になるが赤ん坊の体重は3キロ近くにもなる。


 か細い腕をした幼い少女には相当な負担になるだろう。




 まぁそんな事は置いておいて、一先ずはこの恩人に感謝しよう。


 いつか、この恩を恩で返すことが出来るように。

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