最強魔術師に転生したので神をボコして回ろうと思います。

どろっぷ

第1話「自称女神と異世界転生」

 あれ...。


 おかしい。




 つい数秒前まであったはずの腹部の痛みが完全に無くなっている。


 そして、辛うじて見えていた周りの景色も暗闇へと置き換わっている。


 全身の感覚は....。


 無い。




 そもそも今自分は存在しているのか。


 それすら分からない。




 何か夢の中にでもいるかのような、ふわふわとした感じだ。




 そっか、俺は死んだのか...。




 先程の痛み、感覚的に何か鋭いものを突き刺されたような痛みだった。


 恐らく俺は、あの神社から出た瞬間、刺殺されたのだろう。




 動機は...なんだ?




 周りとの関わりを極力避けていた俺の事だ。


 個人的な恨み...とかそういうのでは無いだろう。




 とすると、通り魔か...。




 まったく...俺はどこまでもついてないな。




 せめて死ぬなら成人してからがよかった...。






 ん?あれはなんだ?




 視線の先に目を凝らしてみると、ぼんやりとだが何か白い光のような物が見えた。


 そしてそれは、段々とこちらへ近づいて来ている気がする。






 あと数メートルのところまで迫ってくると、ようやくその正体が判明した。






 女である。




 それも、白いトガを身に着けた輝かしい美女。


 少し不気味ではあるものの、悪いものでは無いように感じる。


 であれば、話してみるのも....。




「はじめまして、叶人かなと様。私は白帝女神エルフィアと申します。」




 エルフィアと名乗るその女性は、手を前に揃え、軽く礼をした。


 それに釣られて俺もぎこちなく礼をした。




「あの...ここは?」




「ここは、天界第一層『死者尋問室』となります。」




「はぁ...。」




 頭の上にはてなを浮かべる俺を見かねて目の前の自称女神は話をつづけた。






「まず、あなたは、自身が死亡した。という事はご理解されていますか?」




「まぁ、はい。いきなり刺されてこんな所に来ていたら、なんとなく察するものでしょう。」




「そうですか。それは大変でしたね。」




 やけに他人事のような返答をすると、数分間、真剣な眼差しで何かを考え続け、再びこちらへと向き直した。






「叶人様は、この短いご生涯にご満足しておられますか?」




「そりゃあ、まぁ、後悔していないと言ったら嘘になりますけど...。」




「では、私から1つ提案があります。」




 そう言うと目の前に手をかざし、何やら呪文のようなものを唱え始めた。


 すると、その手の上に鮮明な映像が浮かび上がった。




 すごいな...。




 今まで、アニメや漫画で見てきた魔法とやらをこんな所で見ることになるとは...。




 最も、恐らくこれが最初で最後の機会になるのだろうが。






「こちらをご覧ください。」




 自称女神の視線の先を見てみると、異世界系アニメにでも出てきそうな恰好をした男女が数人映っていた。




 その中の背の高い男が顔の前に杖を構えると何やら口をむにょむにょと動かしている。


 音は無いので分からないが、恐らく呪文か何かを詠唱したのだろう。


 男の口の動きが止まると、慎ましく構えたその杖の先から、炎の弾のようなものが射出された。




「すごいですね...。」


 


「叶人様は魔法にご興味が?」




「あります。」




 少し食い気味な俺の返答に自称女神は軽く驚くが、一度咳ばらいをし再度姿勢を整える。






「それでは、転生なんてどうでしょうか?」






 女神が発するその一言に俺は少しばかり固まってしまった。




 転生...。




 俺が生前ラノベを読み漁りいつかは自分も...と夢に見ていた、あの転生だと...。




 まて、俺よ落ち着け。


 今まではアニメや漫画、第三者視点で眺めてきたが、よく考えてみろ。


 知らない土地にいきなり赤子として生まれ、0から生き抜いていくだと...。




 そんなことが俺に出来るのか...。




 しかし転生...。


 


 くっそ...考えれば考えるほど結論から遠のいている気がする。




 あぁ!もう!






「だ、大丈夫ですか...?」




「あ、いえ、は、はい。」




「表情が豊かですね。」




 そういうと俺の瞳をじっくりと覗き込み嘲笑とも苦笑ともとれる笑顔を作ってみせた。




 どうやら、先程取り乱していた時、俺の感情は全て顔に出てしまっていたらしい。






「目的は何なんですか...?」




「目的...ですか。特にはありませんよ。」




「そんな上手い話あるわけ...。」




「私は神ではありますが、情はあるのですよ。ただそれだけです。」




「でも...。」




「安心してください。もちろんこちらも転生させるだけ転生させて後は異世界に放置。なんてことはしませんよ。」




「はぁ...。」




「では、あなたが望む能力を3つ授けましょう。」




「3つ...ですか。」




「はい。」






 少し怪しい部分はあるが、目の前の女に悪意という物は感じられなかった。


 むしろ、純粋な善意なような気さえしてきた。


 




 異世界転生か...。


 悪くないかもな。




 異世界とはいえ、再び生を受けるチャンスだ。


 俺は人生に悔いが無かったわけではない。


 ここは一先ず話に乗ってみるか...。




 あ、そうそう。


 能力...だったよな。


 


 頭の中で様々な考えを巡らせる。


 生前、俺がラノベで得た異世界の知識を総動員して。






 よし、まとまった。




 俺はなんとか捻りだした3つの要望を女神に伝えた。






「それでは、これより能力付与及び転生の儀を行います。」




「は、はい。」




 エルフィアと名乗る女神が俺の頭に手を置くと、周囲の暗闇は徐々に眩い閃光へと包まれていった。




「それでは、いってらっしゃいませ。」




 その言葉を最後に、俺の意識はぷつりと途絶えた。

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