みたあな

ネオン

第1話 親不孝

 思えば、今まで俺は親孝行なんてのをした事がない。

片親で小学生の頃から母は忙しそうに家事をしていた姿を見ていた。

俺は頭も良くないし、学校もさぼっていた。

つるんでいた友達も皆どうしようもない奴らばかりで、いつも適当な公園でコンビニで買ってきた酒を飲んだり、煙草を吸っていた。

警察の世話にもなった。

いつも母は泣いていた。

 

 そんな事を思い出しながら男は何者かに連れて行かれていた。

何故このような事になったのか、誰がこのような事をしているのか、男には分からなかった。

首には冷たく硬い感触、目隠しはされている。

手足は拘束され身動きがとれず、声も何故だか出せない。

何時間経っただろう。少なくとも、昔の嫌気がさすような出来事を思い出せるほどの時間は経っている。

 目隠しが取られた。

部屋の中にいるようだった。真っ白な天井で、スピーカーの様な物が1つ吊り下げられていた。

首は動かせず、やはり声が出せない。

「こんにちは。幸一さん」

スピーカーから男とも女とも言える声が出てきた。

「このような場所に連れて来てしまい、申し訳ない」

優しい声色で話している。

「何故こんな事になったのか今はまだ思い出せないと思います。ですが、数日もすれば時期に思い出してくるはずです」

数日もすれば、とあの声は言った。俺は数日間も此処に拘束されたままなのか?

続けて声は。

 「では、これから数日の間あなたには政府が秘密裏に行われている実験を行います」

その声のあと扉が開いた音が聞こえた。

眼鏡をかけた、中年の男が歩いて来た。

耳には細いチューブ、目にはまた目隠しをされた。

チューブからドロっとした何かが流し込まれた。


「皆さんおはようございます。今日も良い天気ですね。今日も1日頑張っていきましょう」

黒板の前で女の教師が大きな声で生徒たちに語りかけた。

生徒も元気よく挨拶をした。

 1時間目は算数。 2時間目国語。3時間目体育。4時間目理科。5時間目道徳。6時間目社会。

7時間目国語。8時間目算数。9時間目道徳。

10時間目理科。11時間目算数。12時間目道徳。

13時間目体育。14時間目道徳。15時間目道徳。

16時間目道徳。17時間目道徳。18時間目道徳。

19時間目道徳。20時間目……


 目隠しとチューブが取られた。

「幸一さんお疲れ様でした。今日はこれでお終いですので明日もよろしくお願いします」

 何だったんだ今のは。小学校のような風景と異常な時間割。何をされたんだ。

男は疲れ切って寝てしまった。

一瞬の出来事のように感じたが、意識が遠のくような感じもしたのだ。


「皆さんおはようございます。今日も良い天気ですね。今日も1日頑張っていきましょう」

黒板の前で女の教師が大きな声で生徒たちに語りかけた。

生徒も元気よく挨拶をした。

 1時間目は算数。 2時間目国語。3時間目体育。4時間目理科。5時間目道徳。6時間目社会。

7時間目国語。8時間目算数。9時間目道徳。

10時間目理科。11時間目算数。12時間目道徳。

13時間目体育。14時間目道徳。15時間目道徳。

16時間目道徳。17時間目道徳。18時間目道徳。

19時間目道徳。20時間目……


これは夢なのか、あのチューブから流し込まれた物のせいなのか。

 「おはようございます。幸一さん。今日もよろしくお願いします」

何でこんな事をされているのか。

 今度はサラサラした液体が耳に流された。


「おい、幸一。またあの公園に行くぞ。遅れたら先輩に殴られちまうぞ」

 岸島が家の前で叫んだ。急いで身支度をして家を出る。

公園に走って向かった。約束の時間に間に合わせなければ、先輩に殴られてしまう。

必ず約束を守らなけばいけない。

 公園にはすでに先輩の他にも、後輩が2人、

同級生が1人来ていた。

「おい。お前らだけ遅れて来やがって」

聞き取りづらいほどの低い声で話しかけてきた。

「遅れてくる奴はどうなるかお前らしってるよな?」

 岸島が川に頭を沈められている。

それを自分は見てるだけだった。


 ああ、そうか段々と思い出してきた。

「お疲れ様でした。今日も有難うございました」

いつになったら終わるのだろうか。

この実験が終わったら自由になれるのだろか。

もし、自由になれたら今まで育ててきてくれた母に少しでも何か返してあげたい。

 スピーカーから声が響いた。

「そう言えば。あなたに伝えるのを忘れていました。この実験は家族などの身内の方の推薦がなければ行えないのですが」

 俺はようやく親孝行が出来たと思った。










 

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