いる
佐々井 サイジ
第1話
大学附属病院といえば、真新しく、それでいて院内には木目のレストランも併設されている豪華なところというイメージがあった。だから宇川は地元にある古い病院と大して変わらない古さに嘆息をついていた。
「あっち」
抱っこしていた息子のユウが指差している方向を見ると、探していたエレベーターがあった。
「ユウはほんとにエレベーターが好きだな」
「うん」
臨月を迎えた妻の里美の歩幅と合わせつつ、エレベーター近くまで来ると、先にボタンを押しに行く。宇川はエレベーターのボタンに手を伸ばすと、抱っこしていたユウが大きな声を上げた。
「ボタン押したかったんだな」
「うん」
「ごめんごめん。忘れてた」
ユウを抱っこしたままボタンに近づけると、人差し指をピンと立てながらボタンを押すことができた。ユウは満足そうに笑っている。それを見て宇川は里美と顔を合わせて微笑んだ。
ユウは二歳間近になり、ますます周りのものに触れることが大好きになってきた。スーパーマーケットや商業施設などに行った際には真っ先にエレベーターを見つけて駆けだしていく。今日はあまり来ない場所だったので抱っこを要求されたが、やはりエレベーターを見つけるのは宇川よりも早かった。簡単な意思表示もできるようになった一方、ひたすら首を振るような時間も出てきて、育児の大変さを思い知らされている。
「ユウくん、危ないよ」
宇川の妻は膨らんだおなかに手を当てながら息子を諭した。妊婦検診はもともと地元の産婦人科を受診していたが、妊娠二十六週目、六ヶ月検診のときに胎児の心臓の血管が逆になっている疑いがあったことで、隣県の大学附属病院に通うようになった。
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